はてなキーワード: 2025年問題とは
現役の公僕です。都内の役所で働いています。特定されない範囲で書いていきます。かなりの長文です。
今、ニュースでは「国がマイナンバーカードを持っていない人たちに申請書送るからさっさとカード作ってね」みたいな報道がされているかと思います。
これはうちの役所では確か今から1か月くらい前だったと思いますが総務省から各都道府県を通じてそのような旨の連絡が事前に来ていました。
「令和2年12月以降複数回分けて申請書をJ-LIS(地方公共団体情報システム機構のこと。マイナンバーカードを作ってるところ)から国民へ発送するから、住民からの問い合わせとかの対応はそっちでよろしく~」みたいな感じで。
国は現場を何も知らないからそんな強引なことが言えるのだ、と。
ちなみにうちの市のマイナンバーカード所持率は20パーセント弱で、だいたい全国平均とほぼ同じくらいですが、既にマイナンバーカードの新規交付や再交付の事務処理で人手が絶望的に足りない状況です。
市民の方々が土日でもマイナンバーを受け取れるように、緊急的に予算の許す限り会計年度職員(非正規職員)を雇って、窓口を平日夜間も土日もフル稼働させていますがそれでもあまりに厳しい状況です。
さらに出張所の職員たちにも協力してもらって出張所でもカードを受け取れるようにして拡充を図りましたが、新規申請してカードが出来上がっているのに受け取り予約できずにいる人たちがまだまだ数千人単位で残っています。
所持率20パーセント弱でこれなので、国が目指している所持率100パーセントつまり全国民がマイナンバーカードを持つようになったら、完全に役所は事務量的にパンクして死にます。だって、所持率が増える見込みはあっても減る見込みはないのですから。
マイナンバーカードというのは2015年にマイナンバー制度のもと運用が開始されました。2015年にマイナンバー通知カード(緑色の紙のやつ)が届いてすぐ申請した人もいるかと思います。
そしてマイナンバーカードには電子証明書というのが搭載されています。ちなみに電子証明書は2種類あって、署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書があります。
それぞれの電子証明書の詳細はここでは割愛しますが、電子証明書には「カード発行日より5回目の誕生日まで」と有効期限が設定されています。(要するに5年間有効。)
さらにややこしいですが、マイナンバーカード本体の有効期限というのも存在します。大体の人は「カード発行日より10回目の誕生日まで」とされています。(要するに10年間有効。厳密にいうと未成年者は5年間、永住者じゃない外国人は在留ビザの有効期限と同一。)
もうお気づきの人もいるかと思いますがつまり2025年問題とは、2015年にマイナンバーカードを作った人のカード本体の更新と2020年にマイナンバーカードを作った人の電子証明書の更新が重なってしまい、役所が事務量的にパンクして死ぬということです。
これはうちの役所だけでなく、全ての地方自治体がおそらく一番恐れていることだと思います。
2015年のはともかく「なぜ”2020年に”マイナンバーカードを作った人に限定されるの?」と思う人いるかもしれません。
それはなぜかといえば、10万円の特別給付金とマイナポイントが大きくかかわっているからです。
10万円の特別給付金の申請というのが今年5月頃にあったかと思います。給付金の申請書がなかなか送られてこないからマイナンバーカードがあればネットで申請できるということで多くの方がネットで申請したと思います。
そしてマイナポイントというのが今年9月からスタートしました。20000円チャージすると5000円分ポイントがついてくるっていうアレです。
それらのせいでカードの新規申請者が爆発的に増えました。つまり、5年後の2025年に電子証明書の更新が必要な人が爆発的に増えたのと同じです。
国からしたら所持率アップにつながったと喜ぶかもしれませんが、うちらからしたら政府関係者全員ぶん殴りたくなるくらい窓口が混んでしまいました。
2025年にはその比じゃないものすごいレベルで役所が混むと思います。というか絶対に混みます。そして、役所は死にます。
これは、どちらか一方が1年でもずれていれば回避できたかもしれないですね。
もしかしたら「役所がパンクするのを分かっているなら人員を増やしたり機械を増やしたりすればいいんじゃないの?」という声もあるかと思います。
予算がおりれば人員は増やせるかもしれません。また、増やせなくても出張所の職員にさらに協力してもらって休日出勤させれば人手不足に関しては何とかなるかもしれません。(かなり反発されるとは思いますが)
しかし人を増やしてもマイナンバーカードの事務処理に使用する機械、つまり”統合端末”というのが増やせないのです。(各自治体がもつ住民記録システムとは違います)
統合端末というのは、マイナンバーカードの交付処理や電子証明書の発行や更新処理で絶対になくてはならないものです。
しかし、統合端末の台数制限というのが自治体に設けられています。確か1つの市区町村自治体で最大130~140台だったと思います。
ちなみにうちの市は最大数J-LISから借りています。これ以上増やせないのです。
仮になんとかして強引に増やせたとしても、今度は市のサーバーとJ-LISの全国サーバーを結ぶ回線の同時接続数がネックになります。
実はこの同時接続数=その市区町村が持つ統合端末の台数、ではないのです。
つまり、全ての統合端末を使って一斉に接続しようとするとタイムアウトエラーが発生し、交付事務や電子証明書の事務が止まり、正常に手続きできなくなるのです。
そしてその不利益を被るのは住民なのです。何とか予約してカードを受け取りに役所に来たら機械のエラーが出ちゃって「ごめん今日無理だからまた予約取り直して来て」と言われたら、誰だってぶち切れますよね。
もしかしたら「マイナンバーカードを窓口で受け取らせる仕組みがおかしい。クレジットカードみたいに家に直接送ることはできないのか?」と思う人もいるかと思います。
結論から言うと、できなくはないが"推奨されていない"からできません。
どういうことかというと、まず、申請からマイナンバーカードが出来上がるまでの過程を整理させてください。
上記の過程は、交付時来庁方式とよばれるもので、おそらくほとんどの自治体がこの方法でカードを交付していると思われます。
申請時来庁方式とは、住民がカードを申請する際に交付申請書に必要事項を書いたうえで先に顔写真を撮って、カードが出来上がったら本人限定郵便で市区町村から送付する方法です。
先ほどの交付時来庁方式との一番の違いは、住民からすればカードを受け取るためにわざわざ役所に行く必要がないという点です。
つまり、上記の過程でいえば1の時に顔写真を撮ってしまって、6の時に交付通知書ではなくカードそのものを送ってしまうのです。
そうすれば7と8が省けるので役所も住民もめちゃくちゃ楽なのです。
なぜかといえば、マイナンバーカードというのは基本的に本人以外の誰にも知られないようにしなきゃならない"マイナンバー"というのが記載されているので、"カード交付時に"本人であることを顔認証して厳格に確認したうえで手渡すことがルールとなっているためです。
ということは、申請時来庁方式では一応1の時に顔写真付き身分証明書を使って本人確認できれば"カード交付時に"役所の職員が本人確認を取らずに郵送できるため、この方法は国からしたら「やるなとは言わないけど、できればやめてほしい」方法なのです。
ちなみにこの方法で何かしら被害が出た場合に国は責任を取りません。だって"推奨されていない"から。
補足ですが、申請時来庁方式をおこなっている役所に友人がいたため色々話を聞いたことがありますが、本人限定郵便で送ったとしても本人が不在だったので渡せず、しかも郵便局の保管期限が過ぎて役所に返戻された例や、本人が身分証明書を何も持っていないため家で受け取れずにカードが戻ってきてしまったという例が少なくないみたいです。
よく考えてみれば、身分証明書がないからマイナンバーカードを申請したのに、家で受け取ろうとすると身分証明書が必要になるって、意味が分からないですよね。
また、本人限定郵便は普通郵便よりもコストが高く、それをすべての住民に送ろうとしたら普通にめちゃくちゃお金がかかります。そして各住民のカードの送付状況や返戻状況を確認するコストもかかります。
とにかく、そういった色々な理由で少なくともうちの市では、交付時来庁方式でカードを交付しています。
マイナンバーカードを作らないでくださいとは言いません。マイナポータルというのがどんどん便利なものになれば、マイナンバーカードを所持したくなる人は増えると思います。
しかし、今の国の方針を見たら、カードを持ちたくなるようなインセンティブが全くないので「作らなくていいや」と思う国民が8000万人もいるのは当たり前です。
せめて、マイナンバーカードがあれば確定申告をものの数分で終わらせられるとか、税金や引っ越しとか各種申請がネットで簡単にできて完全に役所に行かなくても何でもできちゃうくらいのレベルに持っていければ、個人的にはみんなカード持ちたがるのかなと思います。