2024-09-17

ただコーヒーを、電子レンジで温めようと思っただけなんだ

当時、俺はリモートワークをしていた。

朝9時からパソコンに向かって黙々と作業してたんだけど、気づいたら既に時計の針が11時を指してた。

朝入れたコーヒーがまだ残ってて、でももうすっかり冷めちゃってる。ああ、これ温めなきゃなって思って、立ち上がってキッチンへ向かったんだ。

で、このあとの作業どうしよう。さっきの部分少し修正しなきゃ駄目かな。なんて考えながらコーヒーカップを電子レンジに入れて、時間適当にセットしてスイッチを押したんだ。

ブーンって電子レンジが動き出して、いつも通りの平日の昼前。…そう思ってた、その瞬間。

なんだか妙な胸騒ぎがしたんだ。あれ、そういえば、うちの猫、朝から見てないな…

でも室内飼いだし、外に出ることもないし、きっとどこかで寝てるんだろう。

そう思いつつも、心に引っかかる何かがあった。そしたらその時――

「ふぎゃああああ!」っていう聞き覚えのある叫び声が響いたんだ。

一瞬で頭の中が真っ白になった。音が聞こえた方に慌てて目をやると…見たんだ、電子レンジだよ。まさか、そんな…まさかね、って。

心臓バクバクしてる中、体は勝手に動いてて、レンジの中を見たんだ。そしたら…うちの猫の影が、中に見えた。

うちの猫は、たまに電子レンジの中に入ることがあったんだ。

暖かいからか、たまに開けっぱなしにしておくと、入り込んでそこで居心地良さそうにしてた。

でも、でも…まさか。そんなことあるわけない。絶対にそんなことがあるはずがない。けど、そこにいたんだ。

うそだ…!」って思いながら慌ててレンジを止めて扉を開けたんだけど、もう遅かった。

愛猫は息絶え、そこには彼の姿さえも残っていなかった。まるで、何もなかったかのように。

俺はその場で膝から崩れ落ちて、何が起きたのか理解しようとするんだけど、混乱して、全然追いつかない。悲劇だよ、こんなことがあっていいのか…俺は愛猫を、自分不手際で殺してしまったんだ。

その日はもう、仕事なんてできなかった。

自責の念で胸がいっぱいで、何もする気になれない。

ただぼんやりと、猫のいないリビングを見つめてた。

愛猫を失った痛みが、じわじわと広がっていく。

あいつは俺にとって、ただのペットじゃなくて、家族だったんだよ。

だけどさ、それは次の日から始まったんだ。

最初に気づいたのは、真夜中だった。

俺がベッドで眠ってると、リビングからタカタって物音が聞こえてきたんだ。

なんだろうと思って見に行くと、青白い幻影を見た。猫の姿じゃない。でも、何か異様な感じがしてた。

そこからなんだよ、あれが現れたのは。

ほんのかすかな物音だったんだ。夜中の2時過ぎ、俺がベッドでぼんやり天井を見つめていた時に、リビングから微かな音が聞こえてきた。

パチン、パチン、とまるで骨が擦れ合うような音。もちろん、猫がもういないことは分かってた。だから音の原因なんてないはずだったのに、確かに聞こえるんだ。

一度は無視しようとしたけど、心がざわざわして、足が勝手に動いてしまった。気づけばリビングのドアをそっと開けていた。そこに見えたのは、骨だけの影。俺の愛猫の、骨の姿が淡い光の中に揺らめいていた。

顔もなければ毛皮もない。ただ、骨だけが、静かにそこに佇んでいた。

うそだろ…って思って、息を呑んだ。

でもその瞬間、俺は恐怖よりもむしろ、何かにまれていた。

感覚としては、恐ろしいものを見ているはずなのに、その光景には奇妙な安らぎがあったんだ。

そこに立っているのは、俺が知っている猫の骨格だった。

まるで愛猫が、生きていた時の動作再現するかのように、その姿は少しずつ動き回っていた。

その動きが妙に生き生きとしていて、俺はその姿を見ていると、自分が夢を見ているんじゃないかって思うほどだった。

でも次第に、その幻影が昼間にも現れるようになった。

ある日の夕食時、リビング椅子に座って、俺は食事をとっていた。

ふと視線を上げると、またあの骨の姿が見えた。

何度見ても慣れることなんてない。だけど、今度は違ってた。

目の前で、骨が何かをしている。まるで、もう一度生まれ変わるかのように、骨がゆっくりと何かをまとい始めているように見えたんだ。

最初に現れたのは皮膚だった。

透明な膜のようなものが骨にじわじわと張り付き、それが次第に肉となって猫の姿を形作っていく。

筋肉がその骨に巻きつき、内臓が形を成し、最後に毛が現れて、まるで時間を逆に巻き戻しているかのように、愛猫が目の前に蘇っていった。

その瞬間、俺は息をするのも忘れて、ただ、呆然と見つめるしかなかった。

どうやっても現実では説明できないような光景が、目の前で起こっていたんだ。

愛猫が、一度失われた存在が、何事もなかったかのように蘇る。

ああ…まるで神の降臨を目撃したかのように、俺はその光景に圧倒された。

「これは…奇跡だ」としか言いようがなかった。

愛猫は、不思議な光に包まれて、完璧な姿に戻っていた。

あの、俺が知っている猫だ。ただそこに、彼は静かに座っていた。

青白い愛猫は俺を見て、静かに頷いた。

俺はその時、敬虔気持ちにならざるを得なかった。

そのとき俺は悟ったんだ。

神は存在した。

そして、それは猫だったのだと。

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