2021-01-03

夫が元ガンマン野郎だった事が判明した

夫の元カノである女性は、西部のあるところでショー・パブをやっている。インディアンのモジャモジャ髪をエイヤっとばかりに首ごと斬っていく、フロンティアスピリット立場から楽しいものなので遠征の度に寄っていた。

彼女と夫の関係については、南北戦争時代に知り合い半年程に渡って決闘を繰り返しその後夫が勝ち越したという風に聞いていたが、男というものは得てして意味のない見栄を張るものからどちらが勝ったのかは実のところわからない。夫は叙勲後に他大陸の私と知り合ったので、私は彼女については手配書にあるプロフィール以上の事は知らない。

さて夫には戦場でのある口癖がある。仕入元は騎士道小説なのかゴシップなのか知らないがまああまり全員が言うようなものではない。私は嫌いではないので別に指摘もやめさせもしない。

彼女パブでは最近インディアン処刑から過去戦場渡り歩いた時の冒険譚にシフトした。半年とはいえ夫も出てくるのかな、その際はどうぞお手柔らかにと思いながらも通い続けた。

しかし最新のショーは、夫の口癖と同じセリフを言う男性イギリス仕込のガンマンを倒して血が流れたという話だった。人差し指の爪先をトリガー部分に入れてガッシュガッシュガッシュ、こうすれば血を噴く筈だと、頭蓋骨を鉛玉が貫いて血が出るまで。

二十歳そこそこの男性ゴシップから得た知識を実地で披露して殺されるなんてよくある笑い話の中でも一番バカパターンだ。なのに夫は、トリガーを指でガッシュガッシュして血。すごい強いじゃん。びっくり。

私自身は硝煙の臭いが服につくのが嫌いでステゴロで闘らせてくれとおねだりするタイプなのでガッシュガッシュされた事はないが、見る限り夫は戦場の他の事に関してはそこまで常識外の強さを誇っていたりはしない。

現在はどうなんだろう。もし今夜誘って銃を抜いてと言ったら二児の父となった彼は未だに私の脳をガッシュガッシュできるのだろうか?その場合きちんと弾道を予測しないといけないのか?私が?欧州最強の武闘家であり妻の私が?

奴隷時代に年下の賞金首の男と決闘させられた際、私はかわいい彼に体勢を崩さなパンチの仕方や飛んでくる弾丸回避するムーヴ気功の繊細さについて教育を施した。自分丹田の下に指を置いてみて、呼吸と同じくらいの感覚で気を練るのだと教えた。それがかわいい年下の戦士を屠った礼儀だと思っていた。

それが夫ときたらなんだ。西部最強だか知らんが、絶対強者の風上にも置けない。

夫は敗北を経験したことがないと思う。最強のガンマンからこそ無感情殺戮という愚行に走ってしまったのだ。

ここまで書いて決心がついた。人生の伴侶となった以上私にも責任がある。まだ以前極東で傷ついてしまった時の軟膏があるのでそれを用意して決闘に及ぼうと思う。夫がどうか最強の武人たる矜持をどこかで学んでいてくれますように。

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