2020-02-19

[] #83-9「キトゥンズ」

≪ 前

絶望が辺りを包み込む。

結局、戦うしかないのか。

「皆よ、悲観するのは早いぞ。これは戦争ではなく、略奪でもない」

しかしモーロックは諦めていなかった。

交渉の末、この戦いにルールを設けたんだ。

「戦うべきは一匹だ。その一匹と、こちらの代表が戦い、認めさせてやればいい」

サシか……。

そうせざるを得ない、妥協案というべきか。

「その条件、信じていいんですか?」

「やつらは戦いを重んじ、強さを重んじる。だからこそ、一度でも認めれば牙を向かぬ」

それぞれ戦わないと駄目ならば、ネコの国に入れない奴が確実に出てくる。

だけど、この中にいる一匹だけが戦うのならば勝機はあるかもしれない。

だけど問題は、誰が代表となるかだった。

「では、諸君……この中に今回の戦い、志願するものはいるか?」

モーロックの呼びかけに、俺含めて皆ウーともニャーとも言わない。

なにせ、ここに集まっているネコたちは、ほとんどがケンカすらしたことないんだ。

それは争いを好まない気性だからってのもあるが、やはり強さに自信がないかなのは否定できない。

どんなのが相手なのかは分からないが、かなり覚えのあるヤツが出てくるはず。

そんなのと渡り合えそうな、体が大きくて力強いネコも仲間内にいるにはいる、のだが……。

「なあ、キンタ。お前ならやれるんじゃないか

「あたしぃ? やーよ、そんなの。戦いも食べ物も、血生臭くないのがいいわ」

有力候補だったキンタは、去勢されて今やこの状態だ。

いくら体格があっても、そもそも戦う気がなければ勝つことはできない。

次点だとケンジャもいるが、あいつは体がでかいというより単に太ってるだけだ。

「むぅ、志願する者がいないのなら……仕方ない、ワシがやるか」

モーロックあんなことを言っているが、当然ながら無茶だ。

昔ならまだしも、今の彼にまともに戦える力はない。

「よ、よしてください! 老ネコあなたには無理だ。下手したら死んでしまう!」

「では、おぬしがやるか、ダージンよ」

「そ、それは……」

そう返すモーロック眼光が鋭く光る。

ダージンはしどろもどろになり、咄嗟に俯いた。

それでも搾り出すかのように、震えた声で答える。

あなた危険晒すくらいなら……や、やります

しかし、ダージン消極的決断が認められることはなかった。

「よく言った、と誉めてやりたいところだがな。敵と相対する前から目を逸らすようなネコ代表は任せられん」


そうして代表が決まらず、どれ程の時間が経ったか

時おり「やろうか」、「やれよ」というやり取りも聞こえはしたが、どれも自信なさげであり、ハッキリとしたものではなかった。

「はあ……できれば強い意志で、自ら決めてほしかったのだがな……」

痺れを切らしたモーロックは、やれやれといった具合に息を洩らした。

「こうなったら、わしが直々に指名しよう」

集会所に緊張が走る。

選ばれたネコ自分達の居場所を得るため、更には皆の思いを背負って戦うことになる。

責任は重大だし、無傷では済まない。

代表は……キトゥン。お前だ」

その名前が出たとき、周りの視線は全て俺に集まった。

この時、肝心の選ばれた俺はというと、自分でも意外なほど落ち着いていた。

何となく、そんな予感はしていたからだろう。

年齢や体の大きさ、それに筋肉のつきぐあい

キンタを除けば、最も渡り合えそうなのは俺ってことになる。

「どうじゃ、キトゥン」

「気乗りはしないが……やるからには、やるよ」

好きでこんな体に生まれたわけじゃないが、別に抵抗感はなかった。

それでも俺が志願の際に消極的だったのは、戦いたくないこと以上に“他の理由”があったからだ。

「ちょ、ちょっと待った!」

そして予想通り、俺の気にかけていたことは起こった。

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記事への反応 -
  • ≪ 前 「皆よ、案ずるな。既に今後のことは考えてある」 無力感に打ちひしがれる中、モーロックは動じなかった。 「残念だが、こうなった以上は別のところへ移り住む他あるまい」 ...

    • ≪ 前 ひとまず現状を把握しておくため、俺たちはモーロックの言っていた場所へ向かった。 「本当だ……ヒトがいる」 さすがに皆でゾロゾロと行くわけにもいかないので、偵察に来...

      • ≪ 前 「それでは、気をつけるべき食べ物にチョコがあるってことを覚えておきましょう」 「ぶどう、ねぎ、あげもの……なんか、どんどん増えていくなあ」 「わたくしからは以上で...

        • ≪ 前 まあキンタの変化も中々だったが、気になったのは今回の集会だ。 見回すまでもなく、参加しているネコが普段より多いのが分かった。 つまり意図的に集められたってことだ。 ...

          • ≪ 前 ==== 「キトゥン……キトゥン……こっちに来てちょうだい」 外から自分を呼んでいるような声がした。 あの声は、たぶんキンタだろう。 いや、寝ぼけいてたから気のせいかも...

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              • ≪ 前 それから俺は、先ほどのやり取りを引きずることもなく課題に打ち込んでいた。 しかし十数分後、それは突如として襲来したんだ。 「ただいまー」 「マスダがボクに用がある...

                • きっかけは、弟がテレビを観ていたときだった。 「今週も始まりました、『アニマル・キングダム』! 今回は動物に関する映像特集です!」 俺は学校の課題に取り掛かっており、テ...

  • ≪ 前 「キトゥンにこの戦いを任せるというのは、その……」 異議を唱えたのはダージンだった。 俺は反論することもなく、ただそれを聞いていた。 「キトゥンは戦う意志を、しか...

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      • ≪ 前 運命の日、俺たちは決戦の地である『ネコの国』に立っていた。 「ふん、流れの……しかも首輪つきか。あっちの集いで最もマシだったのが貴様か」 対戦相手らしきネコが、こ...

        • ≪ 前 どうやら攻撃を受けたらしい。 至近距離だったせいで前足の動きを捉えきれず、身構えるのが遅れたんだ。 凄まじい勢いで、顔に掌底を打ちこまれた。 一瞬、自分の身に何が...

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