絶望が辺りを包み込む。
結局、戦うしかないのか。
「皆よ、悲観するのは早いぞ。これは戦争ではなく、略奪でもない」
「戦うべきは一匹だ。その一匹と、こちらの代表が戦い、認めさせてやればいい」
サシか……。
そうせざるを得ない、妥協案というべきか。
「その条件、信じていいんですか?」
「やつらは戦いを重んじ、強さを重んじる。だからこそ、一度でも認めれば牙を向かぬ」
それぞれ戦わないと駄目ならば、ネコの国に入れない奴が確実に出てくる。
だけど、この中にいる一匹だけが戦うのならば勝機はあるかもしれない。
「では、諸君……この中に今回の戦い、志願するものはいるか?」
モーロックの呼びかけに、俺含めて皆ウーともニャーとも言わない。
なにせ、ここに集まっているネコたちは、ほとんどがケンカすらしたことないんだ。
それは争いを好まない気性だからってのもあるが、やはり強さに自信がないからなのは否定できない。
どんなのが相手なのかは分からないが、かなり覚えのあるヤツが出てくるはず。
そんなのと渡り合えそうな、体が大きくて力強いネコも仲間内にいるにはいる、のだが……。
「なあ、キンタ。お前ならやれるんじゃないか」
「あたしぃ? やーよ、そんなの。戦いも食べ物も、血生臭くないのがいいわ」
いくら体格があっても、そもそも戦う気がなければ勝つことはできない。
次点だとケンジャもいるが、あいつは体がでかいというより単に太ってるだけだ。
「むぅ、志願する者がいないのなら……仕方ない、ワシがやるか」
昔ならまだしも、今の彼にまともに戦える力はない。
「よ、よしてください! 老ネコのあなたには無理だ。下手したら死んでしまう!」
「では、おぬしがやるか、ダージンよ」
「そ、それは……」
それでも搾り出すかのように、震えた声で答える。
「よく言った、と誉めてやりたいところだがな。敵と相対する前から目を逸らすようなネコに代表は任せられん」
時おり「やろうか」、「やれよ」というやり取りも聞こえはしたが、どれも自信なさげであり、ハッキリとしたものではなかった。
「はあ……できれば強い意志で、自ら決めてほしかったのだがな……」
痺れを切らしたモーロックは、やれやれといった具合に息を洩らした。
「こうなったら、わしが直々に指名しよう」
集会所に緊張が走る。
選ばれたネコは自分達の居場所を得るため、更には皆の思いを背負って戦うことになる。
責任は重大だし、無傷では済まない。
この時、肝心の選ばれた俺はというと、自分でも意外なほど落ち着いていた。
「どうじゃ、キトゥン」
「気乗りはしないが……やるからには、やるよ」
好きでこんな体に生まれたわけじゃないが、別に抵抗感はなかった。
それでも俺が志願の際に消極的だったのは、戦いたくないこと以上に“他の理由”があったからだ。
「ちょ、ちょっと待った!」
そして予想通り、俺の気にかけていたことは起こった。
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