「今週も始まりました、『みんなのアニマルパーク』! 今回は動物に関する映像特集です!」
俺は学校の課題に取り掛かっており、テレビから背を向けていた。
「ん~? なんだこれ~? なんだろう~?」
「うわ~すごいなあ」
強い拒否感を覚えた俺は、咄嗟に近くにあったリモコンへ手を伸ばした。
「別にどうしても観たい、楽しみにしてる番組ってわけでもないだろう」
わざわざ公言することでもないが、俺はこういう動物バラエティが苦手だ。
出演者のリアクション、足されたサウンドエフェクト、ナレーション、ドラマティックなストーリー。
そりゃあ低俗には低俗なりの良さはあるし、必ずしも高尚な作りの方が良いとも思わない。
「兄貴って、こういうの観たがらないよな。ウチだって猫いるのにさ」
「……だからこそ、だ」
ふと同じ部屋にいる、キトゥンに目を向けた。
何食わぬ顔で飯を食っている。
だって、そうだろう?
自宅に軟禁して代わり映えしない生活を強いて、挙句には去勢するんだからさ。
そんなことをしても問題にならないのは、結局のところ愛玩動物でしかないからだ。
或いは彼らがいう“家族”ってのは、そういう意味なのだろうか。
彼らにとっては“愛しい玩具”の延長線上なのかもしれない。
じゃあキトゥンの飼い主である俺は何なのかっていうと、もちろん例外じゃあない。
飼うようになったのも、そうしなければ駆除される寸前だったからだ。
とどのつまり自分の心を守るために、たった一匹の猫を守る選択をしたわけだ。
それは動物を慈しむ心だとかではなく、極めてエゴイスティックなものに近い。
他の生物と身近になるというのは綺麗事じゃなく、そういうものだ。
あいつにキトゥンという名前をつける前から、俺はそのことに自覚的だった。
だからこそ、ああやって無邪気に動物を弄び、それをさも尊いかのように見せる番組が苦手なんだ。
まあ、共感を得られるかというとビミョーだが。
現に、これについて説明を試みたものの、弟の反応は素っ頓狂だった。
「うーん、よく分からないけど……たぶん兄貴はさ、自分がキトゥンにどう思われてるか自信がないんじゃない? だから、そういう斜に構えた感じになっちゃうというか」
俺の話をどう聞いたら、そういう解釈になるのだろうか。
自信のあるなしなんて関係ない。
「弟よ、お前の言う“自信”ってのはな、ほぼ“幻想”と一緒なんだよ。動物の心情を、人様が都合よく思い描いているに過ぎない」
そう語気を強めて言ったつもりだったが、弟は怯まなかった。
むしろ意気揚々と、おこがましいことを言ってのけ、その勢いで足早に出かけていった。
何かアテでもあるようだが、あり得ない。
それができれば苦労はしない。
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