「それでは、気をつけるべき食べ物にチョコがあるってことを覚えておきましょう」
「ぶどう、ねぎ、あげもの……なんか、どんどん増えていくなあ」
「わたくしからは以上です」
「ご苦労、ケンジャ」
それなりに有益な情報ではあったが、今回集められた理由は恐らくチョコの話をするためではないだろう。
こういった情報共有は今までの集会でもやってきたので、普段と大して変わらない。
「では次はモーロックから大事な話がある……おい、定期連絡を聞き流していた奴も聞いておけ!」
「この話を又聞きでしてしまうと、仲間たちの間で混乱を招く可能性がある。これからのために、今ここで確と聞いておくように」
普段なら多少は見過ごしてくれるのだが、やはり今回は尋常ではない。
「ではモーロック、どうぞ……」
「うぬ……」
それは鈍感なネコですら感じ取ったようで、集会所は静寂に包まれた。
「我々が今いる、この集会所だが……そう遠くないうち、ヒトの手が介入することになる」
言葉の意味を計り兼ねてはいるものの、この集会始まって以来の危機が訪れようとしていることだけは確かだったからだ。
「質問よろしいでしょうか」
「言ってみよ、ケンジャ」
「“ヒトの手が介入する”とは……具体的には、どういうことなのでしょうか?」
数日前、ここを縄張りとするモーロックは何の気なしに、うたた寝をしていた。
しかしヒトの気配を感じ取り、すぐさま目を覚ましたという。
「この場所はヒトが来ることはもちろん、その気配を感じることすら稀な場所だ。その時点で嫌な予感はしていた」
決定的だったのはヒトの“見た目”だった。
今までやってきたヒトといえば、野外で遊ぶことが多い子供がせいぜい。
だが、その時にやってきたの大きいヒトであり、しかも数名。
そして何より、その格好が恐怖を想起させた。
「若い頃、見たことがある。あの姿をしたヒトがやってくると、その場所にはヒトの住処が出来上がるのだ」
それはつまり、この場所に俺たちの居場所がなくなることを意味していた。
「そ、それは本当なんですか!? 寝ぼけていたってことは?」
「私もまさかと思い、張り込んでみたのだが……モーロックの言うとおりヒトがいた。別の日にもいたから、縄張り確保のため下見に来ていたと考えるべきだろう」
予感は現実へと変わろうとしていた。
それは極めて確かなものとして。
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