2020-02-16

[] #83-6「キトゥンズ」

≪ 前

「それでは、気をつけるべき食べ物チョコがあるってことを覚えておきましょう」

ぶどうねぎ、あげもの……なんか、どんどん増えていくなあ」

「わたくしからは以上です」

「ご苦労、ケンジャ」

それなりに有益情報ではあったが、今回集められた理由は恐らくチョコの話をするためではないだろう。

こういった情報共有は今までの集会でもやってきたので、普段と大して変わらない。

「では次はモーロックから大事な話がある……おい、定期連絡を聞き流していた奴も聞いておけ!」

ダージンの怒号に、談笑していた一部のネコがビクリとした。

「この話を又聞きでしてしまうと、仲間たちの間で混乱を招く可能性がある。これからのために、今ここで確と聞いておくように」

普段なら多少は見過ごしてくれるのだが、やはり今回は尋常ではない

「ではモーロック、どうぞ……」

「うぬ……」

今までになく、モーロックは厳かな雰囲気をかもし出す。

それは鈍感なネコですら感じ取ったようで、集会所は静寂に包まれた。

「我々が今いる、この集会所だが……そう遠くないうち、ヒトの手が介入することになる」

モーロック言葉に、仲間達がザワつく。

俺も吐息こそ漏れないが、内心は同様だった。

言葉意味を計り兼ねてはいものの、この集会始まって以来の危機が訪れようとしていることだけは確かだったからだ。

質問よろしいでしょうか」

「言ってみよ、ケンジャ」

「“ヒトの手が介入する”とは……具体的には、どういうことなのでしょうか?」

「うむ、これから順を追って説明しよう」


数日前、ここを縄張りとするモーロック何の気なしにうたた寝をしていた。

しかしヒトの気配を感じ取り、すぐさま目を覚ましたという。

「この場所はヒトが来ることはもちろん、その気配を感じることすら稀な場所だ。その時点で嫌な予感はしていた」

決定的だったのはヒトの“見た目”だった。

今までやってきたヒトといえば、野外で遊ぶことが多い子供がせいぜい。

だが、その時にやってきたの大きいヒトであり、しかも数名。

そして何より、その格好が恐怖を想起させた。

若い頃、見たことがある。あの姿をしたヒトがやってくると、その場所にはヒトの住処が出来上がるのだ」

それはつまり、この場所に俺たちの居場所がなくなることを意味していた。

皆あまりのショックに呆然として立ちすくんだ。

「そ、それは本当なんですか!? 寝ぼけていたってことは?」

「私もまさかと思い、張り込んでみたのだが……モーロックの言うとおりヒトがいた。別の日にもいたから、縄張り確保のため下見に来ていたと考えるべきだろう」

予感は現実へと変わろうとしていた。

それは極めて確かなものとして。

次 ≫
記事への反応 -
  • ≪ 前 まあキンタの変化も中々だったが、気になったのは今回の集会だ。 見回すまでもなく、参加しているネコが普段より多いのが分かった。 つまり意図的に集められたってことだ。 ...

    • ≪ 前 ==== 「キトゥン……キトゥン……こっちに来てちょうだい」 外から自分を呼んでいるような声がした。 あの声は、たぶんキンタだろう。 いや、寝ぼけいてたから気のせいかも...

      • ≪ 前 未来人の価値観は理解に苦しむところもあるが、翻訳の難しさは俺たちにでも分かる問題だ。 慣用句や、詩的な表現、そういった何らかのコンテクストが要求されるとき、別の言...

        • ≪ 前 それから俺は、先ほどのやり取りを引きずることもなく課題に打ち込んでいた。 しかし十数分後、それは突如として襲来したんだ。 「ただいまー」 「マスダがボクに用がある...

          • きっかけは、弟がテレビを観ていたときだった。 「今週も始まりました、『アニマル・キングダム』! 今回は動物に関する映像特集です!」 俺は学校の課題に取り掛かっており、テ...

  • ≪ 前 ひとまず現状を把握しておくため、俺たちはモーロックの言っていた場所へ向かった。 「本当だ……ヒトがいる」 さすがに皆でゾロゾロと行くわけにもいかないので、偵察に来...

    • ≪ 前 「皆よ、案ずるな。既に今後のことは考えてある」 無力感に打ちひしがれる中、モーロックは動じなかった。 「残念だが、こうなった以上は別のところへ移り住む他あるまい」 ...

      • ≪ 前 絶望が辺りを包み込む。 結局、戦うしかないのか。 「皆よ、悲観するのは早いぞ。これは戦争ではなく、略奪でもない」 しかしモーロックは諦めていなかった。 交渉の末、こ...

        • ≪ 前 「キトゥンにこの戦いを任せるというのは、その……」 異議を唱えたのはダージンだった。 俺は反論することもなく、ただそれを聞いていた。 「キトゥンは戦う意志を、しか...

          • ≪ 前 そんなわけで、“流れネコ”ってのは「遠くからやってきたネコ」って意味の他に、「ヒトが忌み嫌っている特定のネコ」って意味も含まれている。 ヒトが勝手に決めた定義で、...

            • ≪ 前 運命の日、俺たちは決戦の地である『ネコの国』に立っていた。 「ふん、流れの……しかも首輪つきか。あっちの集いで最もマシだったのが貴様か」 対戦相手らしきネコが、こ...

              • ≪ 前 どうやら攻撃を受けたらしい。 至近距離だったせいで前足の動きを捉えきれず、身構えるのが遅れたんだ。 凄まじい勢いで、顔に掌底を打ちこまれた。 一瞬、自分の身に何が...

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