それから俺は、先ほどのやり取りを引きずることもなく課題に打ち込んでいた。
しかし十数分後、それは突如として襲来したんだ。
「ただいまー」
ドアが開いた音もせず、いつの間にか部屋の中には弟とガイドがいた。
恐らく超光速航法ってやつだろう。
初めて見る光景だったが、自称未来人のガイドには造作もないことであり、驚くには値しない。
「お前の時代ではどうなのか知らんが、お前がやったことは不法侵入だぞ」
俺はコイツが苦手だ。
他人の文化圏に土足で踏み込む無思慮さというか、ナチュラルに見下している節がある。
「もしかして、あの件について話を聞く気になった?」
「あの件が何なのか知らないし、知りたくもない」
俺に何か協力して欲しいようで、ちょくちょくコンタクトをとってくるが、胡散臭くて相手にしていない。
未来人であることが本当かどうか以前に、単純に人として信頼できないからだ。
「え~じゃあ、何なの? 急いでるみたいだったから、少しでも早く来た方がいいと思ってワープしたのに」
「……弟よ、どうせ連れてくるなら事情くらいは説明してやったらどうだ」
「いやあ~、ワープってどんな感じなのか興味があってさ」
まあ今回みたいに、弟に振り回されることも多いから情状酌量の余地はある。
「それで、今回は何が目的で呼んだの?」
「え? どういうこと?」
弟が何でコイツを呼んだのかは察しがつく。
だが、そもそも俺はアテにしちゃいない。
「そっちで勝手にやってくれ」
飯を食い終わった後は、何食わぬ顔で眠っている。
今の状況が煩わしくて、俺もそうしたいところだ。
「ふむ、なるほどね……」
課題が一区切りついたところで、弟はガイドに経緯を説明し終わったようだ。
「……というわけで、動物の言葉が分かるアイテムとか持ってない?」
しかしガイドから出た答えは、意外にも歯切れの悪いものだった。
俺も期待していたわけではないが、肩透かし感は否めなかった。
「できなくはないけど、やらないというか……」
「ハッキリしないなあ」
「俺から言わせれば、“できない”と“やらない”は大して変わらないぞ」
「いや、技術的には可能なんだよ。高い精度で、動物の鳴き声を判別できる」
「じゃあ、何が問題なのさ」
きっかけは、弟がテレビを観ていたときだった。 「今週も始まりました、『アニマル・キングダム』! 今回は動物に関する映像特集です!」 俺は学校の課題に取り掛かっており、テ...
≪ 前 未来人の価値観は理解に苦しむところもあるが、翻訳の難しさは俺たちにでも分かる問題だ。 慣用句や、詩的な表現、そういった何らかのコンテクストが要求されるとき、別の言...
≪ 前 ==== 外から自分を呼んでいるような声がした。 あの声は、たぶんキンタだろう。 いや、寝ぼけてたから気のせいかもしれない。 耳には自信があるが、キンタにしては少し鳴き...
≪ 前 まあキンタの変化も中々だったが、気になったのは今回の集会だ。 見回すまでもなく、参加しているネコが普段より多いのが分かった。 つまり意図的に集められたってことだ。 ...
≪ 前 「それでは、気をつけるべき食べ物にチョコがあるってことを覚えておきましょう」 「ぶどう、ねぎ、あげもの……なんか、どんどん増えていくなあ」 「わたくしからは以上で...
≪ 前 ひとまず現状を把握しておくため、俺たちはモーロックの言っていた場所へ向かった。 「本当だ……ヒトがいる」 さすがに皆でゾロゾロと行くわけにもいかないので、偵察に来...
≪ 前 「皆よ、案ずるな。既に今後のことは考えてある」 無力感に打ちひしがれる中、モーロックは動じなかった。 「残念だが、こうなった以上は別のところへ移り住む他あるまい」 ...
≪ 前 絶望が辺りを包み込む。 結局、戦うしかないのか。 「皆よ、悲観するのは早いぞ。これは戦争ではなく、略奪でもない」 しかしモーロックは諦めていなかった。 交渉の末、こ...
≪ 前 「キトゥンにこの戦いを任せるというのは、その……」 異議を唱えたのはダージンだった。 俺は反論することもなく、ただそれを聞いていた。 「キトゥンは戦う意志を、しか...
≪ 前 そんなわけで、“流れネコ”ってのは「遠くからやってきたネコ」って意味の他に、「ヒトが忌み嫌っている特定のネコ」って意味も含まれている。 ヒトが勝手に決めた定義で、...
≪ 前 運命の日、俺たちは決戦の地である『ネコの国』に立っていた。 「ふん、流れの……しかも首輪つきか。あっちの集いで最もマシだったのが貴様か」 対戦相手らしきネコが、こ...