2020-02-15

[] #83-5「キトゥンズ」

≪ 前

まあキンタの変化も中々だったが、気になったのは今回の集会だ。

見回すまでもなく、参加しているネコ普段より多いのが分かった。

まり意図的に集められたってことだ。

いつもなら集会の参加は自由であり、呼びかけられたりしない。

それぞれ事情ってものがあるからな。

俺みたいにヒトの住処にいて参加が難しかったり、或いは病気調子が悪かったり。

毛づくろいや、食い物を集めるのに忙しい場合もある。

他にも、原因は上手く説明できないけれど、どうにも気分が乗らない日だってあるだろう。

他の集会所はもう少し厳しいようだが、ここはネコたちの自由尊重してくれるんだ。

から、今回わざわざ集められたというのが奇妙だった。

「キンタ。俺を呼んだのはなぜだ? どうやら他のネコたちも集められているようだが」

「あたしも知らな~い。みんなが集まったときに詳しく話すから~とにかく知り合いに呼びかけてくれ~ってモーロックに言われたのん

「モーロックが?」

キンタに理由を尋ねてみたら、意外な答えが返ってきた。

モーロックは皆に指示を出したり、グイグイ引っ張ってくれるようなタイプじゃない。

けれども、そのおかげで俺たちは伸び伸びといられる。

強いネコリーダーになりやす世界で、現役とはいえない老ネコトップにいてくれるから、この集会所は体幹を保てているわけだ。

そのモーロックが俺たちを呼びつけた。

何か異様なことが起きているという感覚を肌で感じる。

「静粛に、静粛に!」

他のネコたちもピリつき始めた頃、ダージンの号令が響き渡った。

俺たちは喉に引っかかりを覚えながらもグッとこらえ、モーロックの方へ首を向けた。

「えー、これより第……うん回の、大定例集会を行う」

モーロックは皆を見渡せる定位置場所に鎮座し、何回目か分からない集会の始まりを告げた。


「まずは定期連絡だ」

最初粛々と、いつも通りの定期連絡から入った。

「この時期に増えている行方不明ネコや、体調不良を訴えるネコについて……ケンジャ、前へ」

一回り肥えたネコが、のしのしとダージンの元へやってきた。

あれがケンジャだ。

「報告および詳しい説明ケンジャからある。では頼む」

「拝承しました」

ケンジャは賢いことを意味する名前らしいが、自称なのか誰かに名づけられたのかは知らない。

ただ、その名前に誇りを持っていることは確かで、実際いろいろなことに詳しい。

「わたくしの調べによりますと、どうやら“チョコ”という食べ物が原因のようですね。ヒト用の食べ物らしく、この時期は特に欲しがる習性があるようです」

どこかで聞いたことがあるな。

我が住処にいるヒトが、そんな話をしていたような気がする。

住処には小さいのと大きいのがいて、確か小さい方がチョコらしきもの差し出してきた気がする。

それを大きいヒトが、凄まじい勢いで止めに入ったんだ。

大きいヒトは落ち着いていることが多いのだが、その時は非常に荒々しかたから今でも印象に残っている。

「つまり、その食べ物ネコには合わず、食べてしまうと体調不良になるのか?」

「ええ、食べる量によっては、最悪の場合は死に至るのだとか」

「や~ん、こわ~い」

そんなに危険な代物だったのか。

あの時は「ヒトだって体に悪そうなものばっかり食べているくせに、なんで俺だけ」と思っていたが。

「それは、どのような特徴があるのだ? 例えば色だとか」

「たまに白いものもありますが、基本的に黒いです。危険度は黒ければ黒いほど上がります。形は色々ありすぎて、わたくしでも把握できていないのが現状です、はい

黒かったり、白かったりするのか。

俺がたまに食べる“あの虫”に似ていて、ややこしいな。

「じゃあ、味は? うっかり口に入れても吐き出せるようにしたい」

「よく分からないんですが、ヒトが言うには“あまい”らしいです」

「“あまい”と言われてもなあ……他にはないのか?」

「後は苦いらしいです」

うげえ、苦いのか。

だったら、あの時に食べなかったのは、いずれにしろ正解だったな。

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記事への反応 -
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