まあキンタの変化も中々だったが、気になったのは今回の集会だ。
見回すまでもなく、参加しているネコが普段より多いのが分かった。
俺みたいにヒトの住処にいて参加が難しかったり、或いは病気で調子が悪かったり。
毛づくろいや、食い物を集めるのに忙しい場合もある。
他にも、原因は上手く説明できないけれど、どうにも気分が乗らない日だってあるだろう。
他の集会所はもう少し厳しいようだが、ここはネコたちの自由を尊重してくれるんだ。
だから、今回わざわざ集められたというのが奇妙だった。
「キンタ。俺を呼んだのはなぜだ? どうやら他のネコたちも集められているようだが」
「あたしも知らな~い。みんなが集まったときに詳しく話すから~とにかく知り合いに呼びかけてくれ~ってモーロックに言われたのん」
「モーロックが?」
キンタに理由を尋ねてみたら、意外な答えが返ってきた。
モーロックは皆に指示を出したり、グイグイ引っ張ってくれるようなタイプじゃない。
けれども、そのおかげで俺たちは伸び伸びといられる。
強いネコがリーダーになりやすい世界で、現役とはいえない老ネコがトップにいてくれるから、この集会所は体幹を保てているわけだ。
そのモーロックが俺たちを呼びつけた。
何か異様なことが起きているという感覚を肌で感じる。
「静粛に、静粛に!」
他のネコたちもピリつき始めた頃、ダージンの号令が響き渡った。
俺たちは喉に引っかかりを覚えながらもグッとこらえ、モーロックの方へ首を向けた。
「えー、これより第……うん回の、大定例集会を行う」
モーロックは皆を見渡せる定位置の場所に鎮座し、何回目か分からない集会の始まりを告げた。
「まずは定期連絡だ」
「この時期に増えている行方不明のネコや、体調不良を訴えるネコについて……ケンジャ、前へ」
あれがケンジャだ。
「拝承しました」
ケンジャは賢いことを意味する名前らしいが、自称なのか誰かに名づけられたのかは知らない。
ただ、その名前に誇りを持っていることは確かで、実際いろいろなことに詳しい。
「わたくしの調べによりますと、どうやら“チョコ”という食べ物が原因のようですね。ヒト用の食べ物らしく、この時期は特に欲しがる習性があるようです」
どこかで聞いたことがあるな。
我が住処にいるヒトが、そんな話をしていたような気がする。
住処には小さいのと大きいのがいて、確か小さい方がチョコらしきものを差し出してきた気がする。
それを大きいヒトが、凄まじい勢いで止めに入ったんだ。
大きいヒトは落ち着いていることが多いのだが、その時は非常に荒々しかったから今でも印象に残っている。
「つまり、その食べ物がネコには合わず、食べてしまうと体調不良になるのか?」
「ええ、食べる量によっては、最悪の場合は死に至るのだとか」
「や~ん、こわ~い」
そんなに危険な代物だったのか。
あの時は「ヒトだって体に悪そうなものばっかり食べているくせに、なんで俺だけ」と思っていたが。
「それは、どのような特徴があるのだ? 例えば色だとか」
「たまに白いものもありますが、基本的に黒いです。危険度は黒ければ黒いほど上がります。形は色々ありすぎて、わたくしでも把握できていないのが現状です、はい」
黒かったり、白かったりするのか。
俺がたまに食べる“あの虫”に似ていて、ややこしいな。
「じゃあ、味は? うっかり口に入れても吐き出せるようにしたい」
「よく分からないんですが、ヒトが言うには“あまい”らしいです」
「“あまい”と言われてもなあ……他にはないのか?」
「後は苦いらしいです」
うげえ、苦いのか。
だったら、あの時に食べなかったのは、いずれにしろ正解だったな。
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