マスメディアによる犯罪被害者への取材に対する批判を受け、いかなる事情があっても報道機関が犯罪被害者およびその遺族に接触することを禁止する法改正である。国会では一部の野党を中心として「報道の自由」の侵害であるという反発が起きたものの、ネット上でのマスメディア批判の高まりのなか、賛成多数により改正案は可決された。
ある大臣のセクハラ発言が世間を賑わしていた。高い支持率を背景に大臣は謝罪を拒否し、国会前では女性団体を中心とする抗議集会が開かれていた。その集会のさなか、一人の男性が乱入し、周囲にガソリンをまいて火をつけた。屋外での出来事ではあったが、火の勢いは強く、加害者の男性のほか、6名の女性が命を落とす大惨事となった。
この事件の背景は次のようなものであった。加害者の男性は、被害者のうちの一人とかつての職場の同僚であった。加害者によるストーカー行為から逃れるため、被害者は退職したものの、その後も加害者につきまとい、事件前に被害者は何度も警察に相談していた。しかし警察は、被害者の訴えに真摯に耳を傾けなかったばかりか、事件の発生後に問題発覚を恐れて関係書類の廃棄すらしていた。
事件発生後、被害者やその遺族に接触できないマスメディアの関心は加害者側に集中することになった。そこで大きく報道されたのが、警察の家宅捜索によって発見された加害者の日記である。
PCに残されていたその日記は、加害者による妄想の産物であった。同じ職場であったころ、被害者がいかに加害者に対して「気のある素振り」をみせていたのか、なのに「手ひどく裏切った」のか、事あるごとに加害者に「嫌がらせ」をしてきたのか等々が書き連ねられていた。
その日記の内容が発表されると、世の中の雰囲気が大きく変わった。まるで被害者の側に落ち度があるかのようなムードが醸成されていったのである。
そうしたムードに拍車をかけたのが、被害者の一人が運用していたツイッター・アカウントの発見であった。そのアカウントで被害者は人気アニメの性描写を厳しく批判していた。
人気の大臣によるセクハラ発言への抗議、加害者男性の日記から発見された「被害の訴え」、そしてアニメの性描写に対する批判。それらは被害者側がネット上でパブリック・エネミーとして認定される条件としては十分すぎた。
被害者遺族の自宅が特定され、さまざまな嫌がらせが相次いだ。しかし、被害者遺族が遺族である以上、マスメディアは接触できない。最愛の妻や娘を奪われた悲しみを誰も伝えることができない。被害者が警察に何度も相談していたことも、「加害者の訴え」が一方的な思い込みに過ぎないことも報道されない。その間も、ネット上では被害者に対する根拠のない誹謗中傷が積み重ねられていく。
文章はつまらなかったけど、君がキモオタでアンチフェミなことはわかった。