例の事件のニュースで 同級生が犯人のことを「怒らせる天才」みたいに話してて 不意に とある少年のことを思い出した
といっても直接会話した記憶はほぼない
自分が入塾した当時から 彼は休憩時間などにちょくちょく他人にちょっかい出したり 軽く殴ったりして 相手を怒らせ追いかけ回されてた
たまに捕まってど突かれたりもしてたけど 騒いでるとすぐ先生が飛んでくるので大事に至ることはなかった
追いかけられたり殴られたりして何にも得がないじゃないかと不思議に思ってたのだけど
次第に 彼にとってはそれがコミュニケーションの手段なんじゃないか と感じ始めた
普通に話すこともできないわけではない
同じ学校なのかサバサバ系の女子と気の弱そうな男子と会話してるのを見たことはある
仲間に入りたい だけど入る方法がない ちょっかいを出してみたら その中の一人が怒り出し みんなの注意が自分に向いた
休み時間中追いかけ回され 最後に少しど突かれたけど それは少し楽しかったのかもしれない
そのうちそれが常態化する
だけど殴られたら痛いので本気で逃げる
自分がそう思ったのには訳がある
彼がちょっかいを出してくるのは男子陣が盛り上がってる時がとても多かったからだ
自分は遠巻きに見てただけだったけど二度ほど直接の接触もあった
自分も割と声が大きくにぎやかし系だったのでその日の休憩時間も 誰かと二、三人でわいわい騒いでたはずだ
一度目は机に座って騒いでいた時
彼が急に近寄って来て こちらのペンケースに入ってるシャープペンシルを取り出し 壁に向かってダーツのように投げ出した
突然の事態に唖然としてたけど五、六回目くらいで ちょっとちょっとと止めようとしたらシャーペンを置いて扉の方へ小走りで身を隠した
二度目も同じような状況だったけど その時は立ち話をしていた
彼がやはり不意に近づいて来て
うおっと悶絶して彼の方を見たら さっと五メートルくらいの間合いをとった
その表情はかなり印象的だった
恐らく 怒って追いかけてくると思って身構えていたら 全然その気配がないので困惑していたのだろう
その後 一緒にいた友人が 一拍置いて おい!って叫んだので その拍子にさっと扉の外へ身を隠した
そんな彼のことを数十年ぶりに思い出した
世の中には 相手を怒らせることでしかコミュニケーションを取れない人もいるのではないか
彼が今で言う何かコミュニケーション系の障害を持っていたかは定かではない
成績は悪いことはなく 世間一般からすると中の上くらいはあっただろう
人の嫌がることをしてはいけないとかそんな基本的な教育を受けてないのかもしれないし
人並みの同情心はあって敢えてそのような行動に出ていたのかもしれない
他人を思いやれない暴力的な性格の持ち主が たまたま大きな身体と筋力を与えられたらいじめっ子になるのだろうけど
例えば小柄の身体と細い四肢しか与えられなかったとしたらどうか
さながらハイエナや鼠小僧のような姑息で卑怯な存在になるのではないか
今ごろ彼はどうしているだろうか