海の生き物と山の仏
本殿を参拝した後、茶室のテラス席で甘味を頂いたり、宮島を散策したりしていたのだが、少し寒くなって来た。
少しだけ屋根のある休憩所で一休みしたあと、案内に沿って宮島水族館を訪れることにした。
ここでに足湯とはなんと気の利いた事だろう。
そう思って近づいたが、すぐに「水族館で水に足を突っ込む施設」がある事の意味を理解した。
ドクターフィッシュだった。
テレビなどでその存在は知っていたものの、自ら進んで魚に角質を食わせたいと思った事はない。
ぬるま湯を気ままに泳ぎ回っている彼らは、足を突っ込むや否や一瞬の逡巡もなく群がって角質をついばみ始める。
痛くはないがくすぐったくてしかたない。
トルコやドイツではこれが肌の健康の為に医療行為として認められているそうだが、ゴツい大男(偏見)が魚に足をくすぐられてどう言う顔をするのだろうか。
ドクターフィッシュの他にも種々の海獣、ペンギン、カワウソ、色とりどりの魚やクラゲなど、意外と言っては失礼なくらい見所の多かった宮島水族館を後にして、周囲を散策すると「宮島ロープウエー」の看板が。
普段なら「一人で登っても」と思うところだが、島の位置関係を体感できそうだったので乗ることにした。
ロープウエー乗り場への道すがら、坂道に建つ旅館の前に設けられた、今度こそ本当の足湯でひとときリラックスして、乗り場に向かう。
出発の紅葉谷駅から展望台のある獅子岩駅まで往復で1,800円。
小型のゴンドラを中腹の榧谷駅で大型に乗り換えて、展望台にたどり着くと、薄いミルク色がかった青空の下、瀬戸内海に浮かぶ島々が眼下に広がった。
こう言った光景は見た事がないので、興味に従って正解だった。
多少物足りない気もするが、眼福だったし戻ろうかな、と獅子岩駅に戻ると、傍に「弥山山頂」への掲示が。
小一時間で往復できるという。
ボルダリングを趣味にしてる割には登山はそれ程得意ではないので、アップダウンの多い山道は意外と応えるし、足を踏み外したらなどと思ってしまってちょっと怖い。
気をつけながら歩いていると、斜面のヘリと登山道を隔てるロープの外にある一枚の看板に目が留まった。
「平成17年9月6日の台風14号の土石流により、歩道が流出しました。立 入 禁 止」
弥山本堂までたどり着いて16:50分。
弥山山頂の展望台はもう間に合わない時間だし、折り返しの山道を焦って走りたくなかったので、すぐ傍にあった聖火堂で今度はやや自分に関する割合の高いお祈りをした後、獅子岩に引き返す事にする。
再びアップダウンの多い細道を歩くこと30分ほど、17:10、最終便には少し余裕を持って乗り場に到着した。
まだ数本あったものの、最終に近い大型ゴンドラは満員で、おそらくこういったすし詰めに慣れてない(いや、慣れているのもどうかという話だが)外国人が駅員に詰めて乗る事を促されていた。
こういう時に外国人と話す機会があったらどういうのがいいのか。
「Easy, japanese anybody love raid in crowded car.」
とでも言おうか。
外国人はジョークを求めている筈だという無意識の思い込みがあるのかもしれない。
降りのちょっと怖いくらいの絶景を見ながらロープウエーに揺られ、紅葉谷駅で降りる。
歩き通しでさすがに少し疲れていたので、すぐ近くのバス停から桟橋付近まで送迎してくれるバスに乗った。
もちろん満員だった。
大鳥居を見て帰るだけなので昼過ぎには帰って暇を持て余すかな、と考えていた宮島だが、行ってみると見所は多く、帰りのフェリーに向かう頃にはすっかり日も暮れている。
フェリー乗り場のある桟橋に向かう途中、夜の水面にライトアップされた大鳥居が朱に輝いていた。
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