2018-05-21

私には恋人がいる

私には恋人がいる。

大人になってから恋をはじめるのは難しい」と周りの人は言うけど、そんなことはない。

彼と出会ったのは、去年の冬だった。彼は友人の友人だった。この世で最も邪悪空間である新宿三丁目居酒屋ボックス席で、彼と私は邂逅した。はじめましてお仕事は何されてるんですか、今おいくつですか、どちらにお住まいですか。あたりさわりのない会話は、私たち距離を縮めない。彼は私よりひと回り年上の会社員で、東横線沿いに暮らしているらしかった。2時間ほど飲んだあと、彼のほうから私に電話番号を聞いてきた。私はここで初めて、はじめから彼のことを好ましく思っていたことに気がついた。

彼とふたりで出かけたのは、出会って1週間目の、土曜の晩だった。彼が選んだ店には一枚板のカウンターがあり、真っ赤な丸椅子には背もたれがなかった。くるくると回転する丸椅子は座りにくかったので、私はしばしば彼の膝に自分の膝をぶつけてしまった。机上に置かれたスプーンはよく磨かれていて、私たちの横顔が曲がったまま映っていた。彼が食べたいと言うので、私たち牡蠣アヒージョを頼んだ。私は牡蠣にいちど当たったことがあり、普段自分からすすんで牡蠣を食べることはないが、その日は無理をして牡蠣を食べた。食事を初めてすぐ、私は牡蠣に当たる不安に苛まれ、ソワソワしながら彼が酒を飲む様子を見ていた。よかったらもう一軒行きませんか。食事最後に彼はささやいたけれど、私は断った。おなかの中に牡蠣がいると思うと、なんだか落ち着かない気分だったからだ。こんなに牡蠣を気味悪く思っているのに、彼の好みに合わせて3つも食べてしまった自分のことが滑稽で、帰りに中央線の車内でこっそりと思い出し笑いをした。この日から1週間たって気が付いたのだが、私はアヒージョに入っていた牡蠣に当たっていないようだった。

2度目のデートは突然だった。仕事が早く終わったんだけど、よかったら飲みに行きませんか。私はふたつ返事でOKし、彼が待つという駅近くの居酒屋に足を運んだ。彼はカウンター生ビールを飲んで私を待っていた。改めて遠目から見ると、彼は背が高く精悍な顔つきで、グレーのスーツもよく似合っている。私も彼に倣って生ビールを頼み、厚揚げと出し巻き卵も注文した。彼は牡蠣フライを食べたそうにしていたが、私はそれを遮った。

メンチカツでもいいですか?私、今日はお肉の気分なんです」

すると、彼はニコニコしながらメンチカツを注文してくれた。カウンターはつるつるとした塗装で細長く、真っ黒の丸椅子には背もたれがなかった。くるくると回転する丸椅子は座りにくかったので、私はしばしば男の膝へ自分の膝をぶつけた。三度目の接触のあと、男の手のひらが私の膝をぎゅっと押さえた。私たちは、居酒屋カウンターの下で膝を合わせながら、このあとのことを考えた。よかったらもう一軒行きませんか。食事最後に彼がささやくのを聞いて、私はふたつ返事でOKした。今日はおなかの中に牡蠣がいないからだ。その日はなにも分からなくなるまで酔おう、と思っていたが、お酒に強い私にはそれは叶わないようだった。

彼がふたたびシャツを着ようとしている後ろ姿を見ていると、さっきまで膝を合わせていた居酒屋のことが急に思い出された。

「今、2人のおなかの中にはメンチカツが2つずついるのね」

彼の背中に抱きつきながらそう言うと、彼は笑いながら「厚揚げと出し巻き卵もいるよ」と答えた。私はここで初めて、彼にすっかり恋をしてしまたことに気が付いた。

 数日にいちどだったLINEのペースは、いつのまにか毎日になった。彼はきまって、早朝と夜遅くに1度ずつ連絡をくれる。通勤時間帰宅時間に返信をしているようだった。ときどき、お昼休みや外まわりの合間に返信が来ることもあった。彼の仕事はひどく忙しく、帰宅時間24時をまわることもたびたびあったが、翌日の早朝には時報のように朝のLINEが来る。私は夕方近くになると心の中で「センター問い合わせ」をするようになった。彼は忙しい仕事の合間を縫って月に2、3度は会ってくれた。仕事終わりに飲みに行くこともあれば、土日に映画に行ってくれることもある。私とのデートのために有休をとってくれたことさえあった。デートの後はだいたいラブホテルにも行ったが、食事をしただけでお互いの家に帰宅することも時々あった。

 たった半年関係から、私は彼のことをまだあまり知らない。彼の部屋に行ったことはないし、彼の友人に会ったこともない。好きな食べ物応援している野球チームは知っているけど、彼が牡蠣を好きなことも、ジャイアンツ応援していることも、私とは無関係に思える。私には決まった時間に返信してくれるLINEを、別の相手にはもっと頻繁に送る彼がいるのかもしれない。私以外にも、有休をとって遊びに行く相手がいるのかもしれない。これはあくまで私の直観にすぎないのだが、私と会っていない時間、彼は私の恋人ではないような気がする。彼が他のだれかの恋人なのか、それとも単に私の恋人ではないだけなのか、それは分からない。ただ、どんなに楽しい時間を過ごしていても、どんなに肌が触れあっていても、私はいつも思うのだ。手をつないでパルテノン銀座通りを歩き、発車前のホームで口づけする私たちは、誰がどう見ても恋人に見えるだろう。でも、この人は、私の恋人じゃないかもしれない。私の恋人は、私と会っているときだけ、私の恋人なのだ

私には恋人がいる。

大人になってから恋をはじめるのは難しい」と周りの人は言うけど、そんなことはない。こんな恋に夢中になるのが、ちょっと難しいだけ。

  • anond:20180521221414

    うんち

  • anond:20180521221414

    読ませる駄文

  • anond:20180521221414

    無駄に文がうまいな。

  • anond:20180521221414

    月夜からしんどい。

  • anond:20180521221414

    自分から家に行きたいと言ったり、もっと頻繁に会いたいと言ったり、恥をしのんで なんだか自分と会っていない時にはあなたが他人に思えて寂しいと言ってみたりしないことにはその...

  • anond:20180521221414

    あぁ… 「今、2人のおなかの中にはメンチカツが2つずついるのね」 すごく鳥肌たった。なんだろう。ポエム臭がキツいからだろうか。鳥肌が止まらない。

  • anond:20180521221414

    アヒージョってきくたびにアヒーwwwwジョって思ってしまうからやめてほしい

  • anond:20180521221414

    「おなかにメンチカツ」の下りを読むと最初のセックスの後に「おなかの中にあなたの子がいる」って言われているみたいで怖い

  • anond:20180521221414

    こんにちは、恋です。おっしゃるとおり、若者はすぐに私に罹ります。そして簡単にアドレナリンとドーパミンを分泌します。この世の幸福を増やすことができますから、私はこの仕事...

  • anond:20180521221414

    私の恋人は、私と会っているときだけ、私の恋人なのだ。 私には恋人がいる。 この二つの行の恋人は同じ人なのか、別の人物なのか。 つまりすでに一般的な意味での恋人が居るが...

  • anond:20180521221414

    小説家になる夢を持ったフリーターのおっさんって感じだな

  • anond:20180521221414

    嫉妬する気満々で開いたのに、びっくりするほど気取った文章でこれっぽっちも増田の幸せを感じられなかった。これはこれでつまんない。

  • anond:20180521221414

    会って2度ほどで股開いてくれるし、どこで何をしてるのか分からない程に詮索しないお洒落ぶってるけど気弱なだけの年増女って、申し訳ないけどとっても都合が良いです。

  • anond:20180521221414

    「センター問い合わせ」からこの増田を年増扱いするのって性急に思えて考え直してみたのだが… ガラケーが普及してた世代でメールを頻用してたって、当時中学生からアラサーぐらい...

  • anond:20180521221414

    ・顔が好みの男にナンパされて体の関係を持った ・でもナンパだから遊ばれてるかもしれない 2行で終わる話を長々と

    • anond:20180522155303

      でもだいたいそういうもんだろ グルメレポートも「おいしい」で済むことを長々言うし、 村上春樹も「お腹空いた」で済むことをボートに乗って海底火山が見えるだどうの言うよ

      • anond:20180522155446

        共感を覚えさせるためのストーリーテリングなんだけど 主人公が頭弱すぎると全く共感できなくてつまらんな

    • anond:20180522155303

      過程を話して共感してもらわないと死んじゃう生き物だから

  • anond:20180521221414

    ブコメでこんなにスッパリ評価分かれてる増田文学も面白い。まさに牡蠣

  • 純愛とは 言えないです

                                    anond:20180521221414

  • anond:20180521221414

    文章マトモに読めてない人が多すぎる、センター問い合わせは比喩だって分かってない奴らヤバいだろ

  • 増田文学100選

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    • anond:20180617025544

      暇な人がいるもんだ。

    • anond:20180617025544

      恋バナ好きなんやな

    • anond:20180617025544

      俺の作り話が3つもランクインしてた

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      • anond:20180617174154

        こんな釣りだらけのアホと鵜呑みにするアホ集団で文学賞笑

      • anond:20180617174154

        低能先生の俳句やポエムはどこに該当するの

      • 前世が牡蠣の人 現生が猫の人 が 金賞グランプリを 受賞する

          あのような小作品を二三十作ってごらんなさい   文壇で類のない作家になれます                         anond:20180617174154

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        • anond:20180710125627

          むしろよくうまくいくと思ってたな いいじゃんいいじゃんと始める前は何人か(それも全体からみると小数)がいうけど実際ことが始まったらだれもついてこないのはよくあることだ、...

          • anond:20180717174626

            反応してくれてありがとう。いや、うまくいくとは思っていなくて、散々叩かれたうえで改善を続ければ企画がいい方向に向かうかなと思ってたんだ。反応がまったくないのはさすがに...

        • anond:20180710125627

          該当作なしってことだろ?無視するという反応があったジャン。

          • anond:20180717182933

            反応ありがとう。 うーん、今回は投票され始めたのがだいぶ遅いから、該当作なしの部門が出てしまうかもね。もしそうなったら改めて策を考えてみるよ。 無視するという反応があ...

        • anond:20180710125627

          死ねゴミ

          • anond:20180717194228

            反応してくれてありがとう。もうちょっとアドバイスをくれると嬉しいな。もちろん批判でも構わない。

        • anond:20180710125627

          気付いたら期限過ぎてた。無念。

    • anond:20180617025544

      脱糞増田もたのむ

    • anond:20180618000511

      ブックマーク数合計の伸びが大きくなってるのは「増田文学100選」 anond:20180617025544 がブクマを2600ほど集めたからなんだな。

    • anond:20180617025544

      ブックバカーが大漁に釣れとるなw 増田"文学"なんて読むくらいなら普通に読書しろよ

    • anond:20180617025544

      ググれカスの反対の言葉ってなんだろ? え、文学??

      • anond:20180618101944

        「ググれカス」の反対の存在・・・それは、「教えてあげるおじさん」

    • anond:20180617025544

      非常に味わい深い。 家でストロングゼロを飲みながら読むとより一層よい。

    • 2018年上半期増田ランキング100

      盛夏の候、涼のお供に ランク タイトル ブクマ数 日付 カテゴリ 1 増田文学100選 3437 2018/06/17 02:57 おもしろ 2 アホの子教えるのは楽しかった 2046 2018/03/17...

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      • anond:20180721095053

        毎回毎回ブクマが伸びるまでしつこく再投稿お疲れ様でーす

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