趣味らしい趣味も持たず、働いて過ごしてきました。大切なのは、一人は死んでしまったけどもう一人は生き延びた息子と、女だったし最近ちっとも家に寄り付かないけど何はともあれ「初」孫の孫娘です。二人目の孫は夜遊びがひどいし、「おばあちゃんじゃなくて、お父さんのお金で大学に行かれたんだ」だなんて生意気を言うし、息子の嫁はなんだか気に入らない。体がうまく動かないから世話をさせているけど、長男の嫁なんだから当然だ。
父の話をします。
体が弱いからたばこはやらない、酒は最近少し飲むけど、すぐに酔うから本当に少しだけ。ギャンブルは父が身を持ち崩したから、母に強く禁じられている。女遊びもしない。父には(時代錯誤なことに)妾もいたけど・・・。
まわりは男だからって力仕事をやらせるくせに、やってやると方法が違うだの説明書を見ろだのうるさい。だったらお前がやればいいじゃないか。イライラすると物に当たってしまうけど、人を殴るよりいいだろう。疲れると気分が沈んで死にたくなる。それを言うと嫁はいやな顔をするけれど本当なんだから仕方がない。そういえば、嫁が一時期変な女につきまとわれていたけど、見ないふりをしていたらいなくなったみたいだ。男物ばっかり着ていた上の娘も、ようやく最近「まともな」「女らしい」服を着るようになってよかった。
母の話をします。
兄と弟がたくさんと、姉が一人います。両親もみんなも美人で賢い姉のほうが好きみたい。隣に並ぶと絶対に私が姉だと間違われるのが嫌。
お見合いをして、好きでもないしバレンタインチョコは「甘いものは苦手だから」って突き返されたけど、家業は安定してるし家の宗教が同じ人と結婚したら、姑のいびりはひどいし、夫には散らかすからって本を捨てられるし散々。跡継ぎにって生まされた一人目は姑と夫に取られて、これじゃもう私の子じゃなくてお父さんの子だ。うちの宝物だなんて言うけど、一人目だけでしょ? 二人目は初孫じゃないし女だからって何にも買ってもらえなくて可哀想。私が大切にしなくちゃ・・・。一人目の娘には、姑と夫がいるんだからいいじゃない。
中学に上がったら一人目の娘が化粧水なんて使いだして、ヤダヤダ。初潮のときにご相談した、同級生のお母さんにまた相談してみようかな。高校に入ったら今度は家の手伝いなんて嫌だとか言い出すし、かわいくない女!
どっちの娘が好きかって、そんなのどっちも大事に決まってる。本人たちにもそう言う。だって、嘘はつけないから。
妹の話をします。
母さん、おばあちゃんにはいじめられてこきつかわれて、父さんはいろいろ知らんぷりだし可哀想。姉さんは会うと会社の愚痴ばっかりで家のことなんて全然考えてない。大変なのは分かるけど、育ててもらった恩があるのに・・・。
会社が遠いから一人暮らしをはじめたけど、ちょくちょく実家に帰ってる。だって年に一回しか帰らなかったら、両親にあと二十回くらいしか会えないんだよ? そんなの考えられない。
おばあちゃんは差別する人だったけど、母さんは平等に育ててくれたよ。
私の話をします。
中学生のとき、妹を殺そうと思いました。高校生のとき、母を殺してやろうと思いました。二十歳になって、やっと自分が死のうと思って、だけど、後悔させるんだったら五年ぐらい遅かったなと思って、まだ生きています。
祖母は苦労した人だったし、父もいろいろ大変だっただろうし、母だってほんとうに頑張って生きてきた人です。何より私が金銭的な不自由なしに生きてきたのは彼/女のおかげです。そうして、彼/女なりに私を愛してくれていたんだろうと思います。私が大昔の些細なことを忘れられずにいるだけで。
私がいじめられていた中学生の時、学校に行きたくないと言った時。「転校する?」なんて言ってほしかったんじゃなかった。休んでいいよって言ってほしかった。
私が男物の服を着ていた時。「おかしいよ」なんて言ってほしかったんじゃなかった。似合わないだって良かった。まわりと比べる言葉じゃなければそれでよかった。
「お前は間違って生まれてきたんだよ」なんて言ってほしくなかった。
書かなかった恨みごともたくさんあるし、私が忘れている、私が悪かったこともたくさんあるでしょう。それに実際、私は本当にかわいくない子供でした。これを書いている時点で知れたことですが。
たぶん、私のするべきことは、いやだなと思ったときにそれをちゃんと伝えて、喧嘩になってもいいから真面目に話をすることだったのでしょう。隅っこで泣くより、今更知ったような顔をしてこんなエントリを書くより、怒ったほうがずっとよかった。会社だけは私を必要としてくれるだとか、残業時間が150時間を超えるよりも年始の帰省の方がつらいだとか思ってしまう前にできることはあった。でも、もう遅いね。
私は私が私であることを望まれたことなんて一度もなかったけど、間違って生まれてきてしまったけど、このまま生きていきます。
誰かに望まれることと、正しかったと言われることと、いつか神さまみたいな人が来て「お前は間違いだったんだよ、ごめんね」って言って私を消してくれることはもう諦めます。
いつか、私自身が私を、望んで生きていかれるようになれるといいなと思います。
実際に私が誰かにこんなことを言ったら、「育ててもらっておいて」「いい歳をして」と言われるでしょう。あるいは「あなたの家族は、ちゃんとあなたを好きだよ」か。そんなことは絶対に言ってほしくないんです。だからこれを書いて終わりにします。
それから、もしも死にたいと思っている人がいたら。こんな私がのうのうと生きているんだから、死ぬことなんてないです。