2014年12月11日にヨルダンは8年間停止していた死刑執行を再開した。
●ソース http://www.hrw.org/news/2014/12/21/jordan-resumes-death-penalty-executes-11
ヨルダンの死刑囚でもっとも有名なのは、今回の件で一躍日本でも知られることとなったSajida Rishawiであり、死刑再開を伝えるアルジャジーラの記事にも写真入りで取り上げられている。
●ソース http://www.aljazeera.com/news/middleeast/2014/12/why-did-jordan-resume-death-penalty-201412271125989644.html
イスラム国ならずとも、このまま行けば何が起きるかは明らかだった。
さて、イスラム国が現在握る握る一番強い対ヨルダン交渉カードといえば、やはりヨルダン空軍中尉、Mu'ath Safi Yousef al-Kaseasbehである(http://chutoislam.blog.fc2.com/blog-entry-264.htmlではMuadh al-Kasasbehと表記されているが、欧米メディアではこの形かMoaz al-Kasabaという表記が多いようだ)
「テロリストとは交渉しない」は建前であり大原則でもあるが、単なる人質でなく、軍務に従って行動していた人物が作戦行動中に捕虜になった、というのであれば、「捕虜交換」というのは、通常の交渉よりも遙かに名分が通りやすい。
確かにヨルダン国民にとって、サージダ・リーシャーウィー死刑囚というのは絶対に許せないテロリストで極悪人ではあるけれども、ではムアーズ・カサースベ中尉の命とどちらが上かというと、かなり天秤は拮抗していると言える。実際、そのせいでヨルダン世論は混乱している。
さらなる問題はイスラム国との交渉にはアメリカがあまりいい顔をしないことであり、たとえば身代金交渉であれば黙認される可能性はあっても、テロリストの釈放は反発を招く可能性は高い。
ヨルダンはもともと周りにイラク・シリア・イスラエル・サウジアラビア・パレスチナ・エジプトとそれぞれに付き合いの難しい国しか存在しない。
日本人には想像できぬぐらいサバイバル能力に長けた先代国王、フセイン1世の立ち回りの上手さだけで今日まで存続できたと言ってよいぐらい国家基盤は危うい。
「アメリカの不興を買う」というのはそれら隣国との関係を損なうのに勝るとも劣らないぐらいの危険である。
ここで、今回の日本人人質の話が入ると、ヨルダンにとって、事態は相当に改善される。
仮にリシャウィ死刑囚の釈放と引き替えにカサースベ中尉と後藤氏が解放される、という形で妥結すれば、ヨルダンは面子を立てつつ、日本に恩を売ることができる。
ヨルダン単独で取引に踏み切った場合よりも、アメリカの反発が緩和されるのは確かだし、「日本を助けた」ということで一応は国内世論対策にもなる。
シリア内戦開始後、ヨルダン国内に流入している難民はヨルダン総人口の1割、それ以前からの流入も含めれば人口の2割という破滅的な数字である。
●ソース http://www.taro.org/2014/05/post-1474.php
仮に「テロリストとの取引」を原因に、アメリカからの難民関係の援助金が削減されれば、それだけでヨルダンは存亡の危機に直面する。日本が加わってアメリカをなだめる、あるいはもっと直接的に日本が資金を肩代わりしてくれれば、話は変わる。
イスラム国にしてみれば、もともと日本は有志連合にも加わっておらず、テロを仕掛ける先としても足場がなさすぎる。もちろんカネを出してるから一応は敵であるが、さらにそこから踏み込ませて、本格的な敵に格上げする理由はない。
もちろん宝石よりも貴重な有志国連合の捕虜を釈放するというのは大問題だが、「獄中の同志の解放」はあらゆるテロ組織にとって、最優先といってよい問題である。それに加えて、日本とヨルダンが、アメリカとの関係を多少とも損なわせることができるのは確実で、取引手数料としては悪くない。
つまり、ヨルダンとの捕虜交換をまとめるための触媒として、今回の日本人人質事件を組み立てた、というのが本稿の主張である。
以上はすべて単なる仮説であり、妄想である。IS内でもトップに近いレベルでの判断が要求されるであろう事項であり、映像の出来が雑だったとか、発表の仕方が従来のやり方と違うとか、その種の辻褄が合わない点を考えると、推理と言えるほどの論拠は存在しない