「アイ アム サム」とは知的障害を持つ青年が幼い子供を育てていたが養育能力が無いとみなされ子供を取り上げられそうになる話です。
「おおかみこども」の花は、サムのように知的障害はありませんが社会で生きていくうえにおいて
なんらかの障害を抱えていると仮定すると、物語上のいびつなところがきれいにまとまると思います。
「父親が『つらいときほど笑っていなさい』と言ったので、葬式でも笑っていたら不謹慎だと怒られた」
一見けなげなエピソードに思われますが、高校生にしては幼すぎるのではないでしょうか。
つまり花は
「言葉を言われたとおりに受け取ってしまう(皮肉や行間が分からない)」
「いったんインプットされたことに強くこだわる」
という傾向があると推測されます。
彼女が大学で親しい友人がいないこともこれが原因と思われます。こういうタイプは
学校や職場など閉じられたコミュニティーならやっていけるのですが、
大学のように自由度の高いコミュニティーでは孤立する傾向が高いのです。
だから彼に惹かれたのでしょう。
また、花は短期的なことは考えられるが中長期的な計画を考えるのは苦手であるようです。
おおかみこどもをどうやって育てるか、病院や学校ははどうするのかなど本来なら雪の妊娠中から
相談しておくべきことなのに、彼女は本当に問題が差し迫ってこないと考えられないのです。
(雪が赤ん坊の時に何度か熱を出しているはずなのですが、おそらく自宅療養で乗り切ったと思われます)
そして同時に二つのことに対処できないのかもしれません。雨に比べて雪は放置されがち
(溺れた雨を助けた雪もびしょぬれであえいでいるのにほったらかし、嵐の日雨を追いかけるのに夢中で
学校の雪は待たせたまま)ですが、一つのことで頭がいっぱいになってしまうともう一つのほうは
お留守になってしまうのでしょう。
あの時ゴミ収集車の職員がなにか訴える花に取り合わないのはおかしいのですが、
花がうまく説明できなかったと考えれば納得できます。
(突然おおかみおとこなどと言われたらとても信じてはもらえないでしょう)
おおかみおとこを失ってしまったので、今までの生活は破綻してしまいます。
これまでのように親子だけで暮らすことは不可能になってしまったのですが、
花にとってはおおかみおとこの「人目を避けて暮らしてきた」という
普通なら最悪の事態を招くところですが、彼女には一つだけ天から与えられた能力がありました。
それは「短期的な目標を与えられればがむしゃらに頑張れる」というものです。
たった一人で廃屋を修理し、畑仕事をこなすのは超人的な能力ですが、
映画「レインマン」でサヴァン症候群の兄が驚異的な記憶力でポーカーに勝つようなものかもしれません。
周囲の人間もそんな花の能力を認めたからこそ共同体の一員として受け入れることができました。
うまく行っているように見えた花と子供たちの生活ですが、しかしやはり破綻はきてしまいます。
花は生活を回すことは出来ても、社会でいかに生きていくかということは教えられないのです。
自分が上手く出来ないことを子供に教えられるはずがありません。
「おおかみになってはいけない」としか教えられず、コントロールの仕方は知らない雪は学校で友人を傷つけてしまいます。
「他の動物をばかにしてはいけない」と雨は教えられましたが、狼の役目は食物連鎖の頂点で他の動物を捕食することです。
だから雪は母親に無断で信頼できる友人に秘密を打ち明け、雨は自分の力で山の先生を見つけ出しました。
そして花は雨にこう言います。
「あなたにまだなんにもしてあげてないのに!」
その時おおかみの雨は驚いたようなしぐさをしますが、あれは
ということではないでしょうか。