2013-05-13

卵子精子劣化の話、ヒトという生き物の特徴から

卵子劣化の話をしている時に、何がスイッチになるのかは分かりませんが、でも精子劣化するよね!とか、人類史的にはここ100万年、精子劣化しているよね!というような話をしたがる人がいます

精子の話と卵子の話はまったく異なるのですが、男性場合、加齢とともに精巣の精子製造能力やその品質劣化が若干生じることはあります。ただしそれはほぼ誤差の範囲内で、男性場合生殖でより問題になるのが勃起射精の問題です。

はっきり言って、二十三十の時に例えば十人の女性と寝てそれぞれ妊娠させたような男性は、七十八十になっても子づくりすることには精子的にはほぼ確実に問題はありません。精子毎日製造されていますので、それ自体が劣化することはないのです。劣化しているとすれば、最初からそういう精子なのであって、精子の数が少ない人、不具合のある精子が多い人は、年齢に関係なく自然妊娠をさせる力がありません。これは加齢の問題ではなくて、個体差の問題なのです。

ヒトの精子運動率が悪く、特に近来、減少を続けているというのは事実です。

これはY染色体が交雑しないために、エラーの修正を受けることなく、エラーが蓄積されて、「劣化」してゆくのがそもそもの原因ですが、哺乳類の多くはヒトと同じく雄ヘテロXY型の性染色体であるのに、ヒトともっとも近縁のチンパンジーでは、同じ面積であればヒトの場合精子はまばらにしかなくしかも動きが小さかったり、そもそも動かなかったり、変な行動が見られるのに対して、チンパンジー場合は隙間なく、健康精子が活発に動き回っているのが見られます。これはつまり、ヒトの精子劣化は、Y染色体エラーの蓄積だけでは説明できない、ということです。

直接的にはヒトの繁殖行動、一夫一婦制が原因になっています

ヒトは子育てに膨大な労力を注ぎ込み、自然状態では子供が育ちあがるまで15年はかかり、せいぜい、3人から4人の子を育てるのが限度と言われています(農耕社会はこの数を飛躍的に増大させましたが)。哺乳類は基本的には一夫多妻制がデフォルトで、オスは子育てに関与しません。その結果、オスにかかる性淘汰圧力が激しくなり(メスがオスを選ぶので)、哺乳類のオスには異形のものが数多くあります一夫多妻制の社会では肉体的にも生殖能力的にも優れたオスが生殖機会を独占することで、絶えずY染色体の選別が行われ、その結果、Y染色体健全性が維持されています

チンパンジー場合は、一夫多妻制ではなくて、メスが群れのあらゆるオスと交尾する乱婚制ですが、これは一夫多妻制における個体間の同性間競争がそのまま精子に置き換えられるのであって、複数のオスの精子が同時にメスの胎内にあり、精子競争によって優秀な精子が選別されます。その結果、チンパンジーY染色体健全性が担保されているのです。

一夫多妻制や乱婚制の社会では子育てはメスのみが行うことになります。ヒトの場合育児にかかる労力が桁外れに膨大なため、メスだけでは子育ては出来ず、子育てにおいてリソースが最大化される一夫一婦制を発達させてきました。哺乳類一夫一婦制採用している例は稀少で、鳥類等の例を見ても、基本は肉食動物、つまり育児にかかるコストがもともと大きな生物ほとんどです。

女性一年子供をひとり産めるとして、同じ期間に男性原理的には何百人もの父親になることが可能です。この生産性の差が、生産性が低い方の性の不足を招き、その結果、ほとんどの種で性淘汰はメスによるオスの選別という形になるのですが、ヒトの場合は子を産ませるにしても、その後、子育てに父親も従事しなければならないので、結局、何百人産ませても育てられないわけで、この一般的な性淘汰が働きません。むしろ、メスはどのみち子育てからは逃れられないのに対して(特に哺乳類場合は哺乳と言う育児が必ずある)、オスは本来、子育てには注がないでもいいリソース一夫一婦制では注ぐということになりますから、オスがメスを選ぶのです。

ヒトの形態を見る限り、乳房や臀部の肥大化など、性淘汰による異形化が進んでいるのはむしろメス(女性)であって、人類においては一夫一婦制採用したために、性淘汰圧力はむしろ女性に対してかかってきたと言えます

一夫一婦制、つまり男が妻と子を養う体制は、生殖に関与する男性を最大化するシステムであり、生殖に関与する男性が最大化するということは同性間の性競争が極限にまで小さくなると言うことであり、男性女性を巡って争う理由がなくなる、ということを意味します。この男性間の平和によって、男性女性すべてを内包する社会を構築することが可能になったので、ヒトにおける社会とはそもそも男社会です。

それはともかく、ほぼすべての男性生殖に参加するということはY染色体が淘汰されないということを意味します。その結果、ヒトにおいてはY染色体劣化が飛躍的に加速してきたのです。

これがヒトにおいてY染色体精子劣化(他の近縁種と較べて)が起きているという意味です。

これは種としての問題ですから、ある特定の個人の男性が、妊娠させられないということとはまったく次元の異なる話です。そうした問題を抱えていない男性場合、七十になっても八十になっても精子の老化は程度としては発生しないと断言してもいい、というかそうとらえておいた方がいいと思います(もちろん勃起不全など別の理由で性交渉が困難になる例は多いのですが)。

卵子の老化および個人差によって約10年の開きはありますが加齢による事実上不妊化は無差別に発生する問題ですから、特定の女性個人の問題ではなく、女性全体が知っておくべき問題です(むろんその配偶者である男性も)。個人の特性の問題と生物としてのシステムの問題を、卵子の老化の話をする時に精子の話をしたがる女性はごっちゃにしている傾向があります。それによって何を守ろうとしているのかは分かりませんが、願望や「であるべき」論によって科学事実の周知徹底が遅れたために、結果的に子が欲しくても妊娠出来ない女性を生み出してしまったのではないでしょうか。卵子の老化の話をしている時に、精子の話をして魂の安寧を得ようとするような女性がいるとしたら、そのマインド自体が批判されるべきだと思います

  • これは一夫多妻主義者の詭弁だね。 それなら一夫一妻制の全ての哺乳類はその劣化とやらで絶滅してるじゃないか。 劣化じゃなくて、種の偏りが修正され、種が多様化しただけだ。 現...

  • 面白い観点ですね。ちらほら検索してみました。   オスの世界 http://d.hatena.ne.jp/pal-9999/20070725/p2 チンパンジ-やピグミーチンパンジーの睾丸は、人類のよりもずっと大きい。 乱交形...

    • こういう馬鹿がいたから、日本はゲイシャ遊びのゲスだらけで敗戦したんだよね。原爆開発能力者が生殖能力なかったら「退化」扱いする日本女は馬鹿。

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