2020-04-12

[] #84-12幸せ世界

≪ 前

「なあ、今すぐじゃないとダメなのか? また次回にでも……」

「頼むよ。こんなチャンス、二度とこないかもしれない」

ガイドたちは、今までフラッガーの犯行悪戦苦闘していたらしい。

フラグを立てられたら修正して、他の世界が分裂したら繋げて……

そうしてイタチごっこネズミごっこを繰り返してきた。

だがフラッガーを捕らえることができれば、その“ごっこ遊び”も風化していく。

イタチネズミ危険外来生物絶滅危惧種になるわけだ。

俺の世界でも転売ヤーとかがイタチごっこに興じているが、もしいなくなったら世界はより良くなるかもしれない。

次元の分裂だとかは壮大すぎてピンとこないが、そう考えると躍起になるのも分かる気がしてきた。

「さあ着いたよ、この辺りだ」

移動を始めて数分、あっという間に人気のない森深くまで辿りついた。

船には窓がついていないので分からなかったが、とてつもないスピードで走っていたようだ。

ステルス機能で隠していたようだけど、場所さえ分かれば関係いね

ガイドが手元の端末を操作すると、目の前にフラッガーの船が現れた。

俺たちが乗ってきた船とフォルムが似ている。

だが、こちらは全体的にチグハグデザインで、機体に見合わない部品が至る所に取り付けられている。

たぶん改造しているのだろう。

おかしい、船を放置したままなんて」

つつがなくフラッガーの船を見つけたはいものの、肝心の本人がいない。

「こんな大きな痕跡を残したら、見つけてくれと言っているようなもの。ただでも防護バリアを破るために、一刻も早く船に乗って脱出したいはずなのに」

「一刻も早く船に乗れない事情でもあるんじゃないか? 昼寝の真っ最中とか」

何の気なしに言った、テキトー意見のつもりだった。

「昼寝……そうか、それだよ!」

だけどガイドは、それで天啓にうたれたらしい。

…………

一体どこに行くかと思いきや、そこは俺たちが先ほどまでいた、次元が分裂した場所だった。

犯人現場に戻ってくる、ってやつか?」

現在進行形でね」

しばらく経っているはずだが、信者達は未だ痺れて動けないようだ。

ガイドはまたも珍妙装置を取り出すと、彼らにそれをあてがう。

「お次は何だ?」

スキャンしているんだよ。この世界と適合している存在か」

世界と適合している存在……まさか

「この中にフラッガーが紛れてるってのか?」

「いま考えると、辻褄は合うよ。この世界はボクたちに敵意を感じるようルールが設けられていた。次元を元に戻そうとする者たちの妨害、あわよくば排除目的だろうね」

「この世界の俺が粛清されたのも、フラッガーの思惑通りだったってわけか」

ルールを作るには裁定者に取り入って、内部から民意コントロールする方が合理的だ。

それは自分が逃げやすいようにする、保険でもあったのだろう。

もし俺たちのような存在が別次元から来て、偶然かち合ったとしても逃げる時間を稼げる。

しかガイド世界全体にバリアを張ったことで、早期の脱出が困難になってしまった。

そこで俺たちを排除してからゆっくり時間をかけて脱出することにしたんだ。

「確実に始末するため、念には念を入れて自ら前線に出たんだろうね」

「周りくどい割に、強引なやり方だな。クレバーなんだかクレイジーなんだか」

「それほど追い詰められていたってことさ」

そして、俺たちを捕らえる寸前までいったはいものの、ここでも誤算が起きる。

ガイドが強力な護身武器を、ためらいなく使ったんだ。

あえなく他の信者共々、スタングレネードの餌食となってしまう。

こうして俺たちが世界を元に戻すのに必死だった間、フラッガーはずっと地面に突っ伏していたわけだ。

「いたよ、こいつがフラッガーだ!」

SSS+級犯罪者の幕切れとしては、随分と不恰好だな。

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記事への反応 -
  • ≪ 前 「フラッガー?」 「宇宙規模で有名な指名手配犯さ。SSS+級のね」 「そいつは激レアだな」 そのフラッガーとやらは様々な世界を行き来して、幾度も次元を分裂させているらし...

    • ≪ 前 ・ ・・ ・・・ ・・・・ 「ほら! 起きて! しっかり!」 朧げだが、既視感のある声が聴こえる。 俺はゆっくりと瞼を開いた。 「あ、やっと起きた。あの後キミはぐったり...

      • ≪ 前 「なんで俺が?」 「キミじゃなきゃ次元に直接干渉できないからだよ。厳密には“普遍的存在”じゃなきゃ、だけど」 さも当然のように、また固有名詞を出してきた。 いや確...

        • ≪ 前 レーダーを頼りに信者達の目を掻い潜り、俺たちは慎重に歩を進めていく。 不幸中の幸いというべきか、道中は信者たちの手が及んでいない場所が多く、労せず次元の歪みに辿り...

          • ≪ 前 信者たちは難なく撒くことができた。 彼らのダボダボな白装束は、人を追いかけるのには適していないからな。 こういう時ですら、なりふり構う必要があるんだから信者は大変...

            • ≪ 前 もしかしたら、この世界では普通のことなのだろうか。 価値観が矯正されているから、彼らにとっては問題ではないのかもしれない。 集金が阿漕だとしても、それが“救い”へ...

              • ≪ 前 生活教は“生活をより良くする”という教義のもと、日々ライフハック的なことを広めている。 この辺りを中心に活動しており、地域新聞に載る程度には有名な新興宗教だ。 し...

                • ≪ 前 その地に足を踏み入れた瞬間、すぐに異様な空気感が襲った。 場所は先ほどいた庭と同じ。 目に映る景色も代わり映えしない。 だが「何かが違う」という感覚。 リメイク、リ...

                  • ≪ 前 「さっきの続きだが、“本来なら存在しなかった世界”って何だ?」 「分岐によって自然発生的に生まれた世界ではなく、次元の過干渉により発生した世界。システムの不具合、...

                    • ≪ 前 ガイドと初めて出会ったのもエイプリルフールだった。 恐らく、こいつの時代にはそういう文化がなく、たまたま巡り合わせが悪かっただけなんだろう。 「これがこうなって、...

                    • いい加減諦めなよ 本当につまらないんだよ 何回も言われてるんだからさ 意固地にならずにここは清々しくやめようよ みんなそう思ってるよ だからやめようよ

          • 何度も言うけどさ 本当につまらないんだよ だからさ もういい加減やめたほうがいいって どうしてそんなに頑固になるの こうやって言ってることを素直に受け止めて

        • ごめん やっぱり面白くないよ 本当に何度もいうんだけれどさ 才能もないし諦めたほうがいい もう投稿しないほうがいいよ

  • ≪ 前 俺たちはフラッガーを拘束して、次元警察に引き渡すまで船で待機することになった。 「ふふふ……己(おれ)も年貢の納め時が来たというわけか」 信者達が俺たちを捕まえよ...

    • ちゃんとトラバ読んでる? つまらないからもうあきらめようよって 何回も書き込んでいるよう 誰も求めていないことだし 本当にもうやめようよ

    • ≪ 前 「これは使命だと思った。全ての人間、いや森羅万象を幸福にせよという己(おれ)の使命だと」 彼はそのフラグで、悪魔的なヒラメキを得たのである。 それが世界を分裂させ...

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