2020-04-08

[] #84-8「幸せ世界

≪ 前

レーダーを頼りに信者達の目を掻い潜り、俺たちは慎重に歩を進めていく。

不幸中の幸いというべきか、道中は信者たちの手が及んでいない場所が多く、労せず次元の歪みに辿り着くことが出来た。

「あった、あれだ!」

そう言ってガイドは虚空を指を差した。

「何もないぞ」

「よく見て!」

言われたとおり凝視してみる。

「……あっ」

かに何もないはずの空間に“何か”あるのが見えた。

景色が淀み、歪んでいるのが分かる。

「あれが“次元の歪み”ってやつか」

そして世界が分裂した箇所でもある。

あそこを再結合してやれば元通りってわけだ。

しかし、まさか“こんな所”にあったなんてなあ」

意外だったのは、その歪みが見覚えのある場所存在していたことだ。

人通りの少ない場所にポツリと佇む、廃屋まがいの一軒家。

それはシロクロと呼ばれる、弟の友達が住んでいる屋敷酷似していた。

ガイドはそこに居候しているため、尚さら馴染み深かっただろう。

「跳ぶ前に、あらかじめ知れていたら、もっと楽できたかもしれないな」

「ボクだって出来るならそうしたかったけど、別世界からだと探知できないんだよ」

まあ、今さら言っても仕方ない。

「人がいないうちに、さっさとやってしまおう」

取り掛かろうとした、その時である

「いたぞー!」

遠くから声が聴こえ、俺たちはギクりとした。

「まずい、見つかった!?

逃げようという間もなく、すぐさま信者達が寄り集まり、俺たちの周りを囲んだ。

ちくしょう、展開が早すぎるだろ」

この状況じゃあ一時撤退不可能だ。

ここまできて万事休すか。

悪魔……じゃなくて闇の精霊め、神妙にお縄を頂戴しろ!」

信者達がジリジリと距離をつめてくる。

「そうは問屋が卸さないよ!」

その距離が1メートルほど近づいた時、ガイドはおもむろに手首の端末を弾くように押した。

瞬時、落雷の如き轟音が鳴り響く。

「な、何だ……これは!?

「体が、し、痺れるっ」

「これが悪魔……じゃなくて闇の精霊の力だとでもいうのか!?

信者たちは身動きがとれず、自分の身に何が起きたのか理解できないようだ。

「お前、何をしたんだ?」

「多人数を無力化する、ハイパースタングレネードさ。これで数十分はマトモに動けないよ」

「そんなのがあるなら、最初から使えよ」

「あの数を、しかも広範囲に無力化するのはさすがに無理だよ。それにキミを巻き込まないように射程を設定する必要もある」

そういえば確かに、近くにいた俺とガイドだけは何ともない。

厳密には、爆音のせいで耳がキンキン鳴っているから無事ではないが。

「連発はできない。次、来られたら本当におしまいだよ」

「だったら今度こそ、さっさとやってしまおう」

俺は投げやり気味に、次元の歪みに向けて親指を差し向けた。

しかガイドはキョトンしている。

「……どうした? 早く再結合とやらをやれよ」

「いや、再結合はキミがやるんだよ」

ちょっと待て、そんなの聞いてないぞ。

次 ≫
記事への反応 -
  • ≪ 前 信者たちは難なく撒くことができた。 彼らのダボダボな白装束は、人を追いかけるのには適していないからな。 こういう時ですら、なりふり構う必要があるんだから信者は大変...

    • ≪ 前 もしかしたら、この世界では普通のことなのだろうか。 価値観が矯正されているから、彼らにとっては問題ではないのかもしれない。 集金が阿漕だとしても、それが“救い”へ...

      • ≪ 前 生活教は“生活をより良くする”という教義のもと、日々ライフハック的なことを広めている。 この辺りを中心に活動しており、地域新聞に載る程度には有名な新興宗教だ。 し...

        • ≪ 前 その地に足を踏み入れた瞬間、すぐに異様な空気感が襲った。 場所は先ほどいた庭と同じ。 目に映る景色も代わり映えしない。 だが「何かが違う」という感覚。 リメイク、リ...

          • ≪ 前 「さっきの続きだが、“本来なら存在しなかった世界”って何だ?」 「分岐によって自然発生的に生まれた世界ではなく、次元の過干渉により発生した世界。システムの不具合、...

            • ≪ 前 ガイドと初めて出会ったのもエイプリルフールだった。 恐らく、こいつの時代にはそういう文化がなく、たまたま巡り合わせが悪かっただけなんだろう。 「これがこうなって、...

              • 幸せって何だろう。 ……なんてことをシラフで管まく奴がいたら、それは人の温もりに飢えているドランカーか、時間を持て余したバックパッカーのどちらかだ。 それ以外だと、弟み...

                • あのさ もう何年もここで書いているのは分かるし自己満足なのも分かるんだけれど 圧倒的につまらないんだ 自分用に書いているというのもあると思うけれどまったく面白くもないもの...

              • ねえ みんな面白くないとか、延々とスパムみたいなつまらないことやめて欲しいって言ってるよ そんなに強情にならないでいい加減やめたほうがいいよ ここらが引き際としていいタイ...

            • いい加減諦めなよ 本当につまらないんだよ 何回も言われてるんだからさ 意固地にならずにここは清々しくやめようよ みんなそう思ってるよ だからやめようよ

  • 何度も言うけどさ 本当につまらないんだよ だからさ もういい加減やめたほうがいいって どうしてそんなに頑固になるの こうやって言ってることを素直に受け止めて

  • ≪ 前 「なんで俺が?」 「キミじゃなきゃ次元に直接干渉できないからだよ。厳密には“普遍的存在”じゃなきゃ、だけど」 さも当然のように、また固有名詞を出してきた。 いや確...

    • ごめん やっぱり面白くないよ 本当に何度もいうんだけれどさ 才能もないし諦めたほうがいい もう投稿しないほうがいいよ

    • ≪ 前 ・ ・・ ・・・ ・・・・ 「ほら! 起きて! しっかり!」 朧げだが、既視感のある声が聴こえる。 俺はゆっくりと瞼を開いた。 「あ、やっと起きた。あの後キミはぐったり...

      • ≪ 前 「フラッガー?」 「宇宙規模で有名な指名手配犯さ。SSS+級のね」 「そいつは激レアだな」 そのフラッガーとやらは様々な世界を行き来して、幾度も次元を分裂させているらし...

        • ≪ 前 「なあ、今すぐじゃないとダメなのか? また次回にでも……」 「頼むよ。こんなチャンス、二度とこないかもしれない」 ガイドたちは、今までフラッガーの犯行に悪戦苦闘し...

          • ≪ 前 俺たちはフラッガーを拘束して、次元警察に引き渡すまで船で待機することになった。 「ふふふ……己(おれ)も年貢の納め時が来たというわけか」 信者達が俺たちを捕まえよ...

            • ちゃんとトラバ読んでる? つまらないからもうあきらめようよって 何回も書き込んでいるよう 誰も求めていないことだし 本当にもうやめようよ

            • ≪ 前 「これは使命だと思った。全ての人間、いや森羅万象を幸福にせよという己(おれ)の使命だと」 彼はそのフラグで、悪魔的なヒラメキを得たのである。 それが世界を分裂させ...

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