2020-04-02

[] #84-2「幸せ世界

≪ 前

ガイドと初めて出会ったのもエイプリルフールだった。

恐らく、こいつの時代にはそういう文化がなく、たまたま巡り合わせが悪かっただけなんだろう。

「これがこうなって、あれがああなって……」

そう頭では理解していても、俺はテキトーに聞き流した。

ガイドの話は右から左へ抜けていく。

俺にとっては、こいつが嘘つきでも正直者でも大した違いはないからだ。

上手く言えないが胡散臭い、なんと言うか人として信頼できない。

ましてや今回は自分時間が潰されたのだから、関わりたくないっていう気持ちはより強まる。

「……というわけなんだ。大分はしょったけど、分かった?」

「ああ、だいたい分かった」

しかし、俺はあえて話に乗っかってみることにした。

普段なら常識的対応をしつつ、露骨な態度で追い返してきたが、結果として話がこじれることが多い。

それを踏まえると、こいつに気分よく帰ってもらった方がスムーズだと思ったんだ。

「じゃあ、早速向かおう!」

「移動って、どこに行くんだ?」

「だから、こことは違う世界、分裂した世界にだよ!」

…………

ガイドは俺を庭に連れて行くと、腕についた端末を何やら操作し始める。

すると目の前に、大きな球体が突如として姿を現した。

扉が付いているので、恐らく未来の船的なモノだろう。

「人の敷地に、いつの間にこんなものを……」

ステルス機能で見えないようにしていたんだ」

球体に近づくと、おもむろに扉が開いた。

俺は扉越しに、恐る恐る中を伺う。

2人分の座席が見え、それが縦一列に並んでいる。

後は給水らしきタンクと、仮眠できそうなカプセル式のベッドが備え付けられていた。

他は特筆して説明することがないほど簡素な作りだ。

「夢のないデザインだな」

乗り物なんだから、乗れれば十分だろ。どんな夢を抱いてかは知らないけど、未来現実の延長線上にあるんだよ」

自分時間を潰してまで協力するんだからちょっとくらい期待はしてもいいじゃないか

いちいち偉そうなんだよな、こいつ。

「さっ、早く乗って乗って」

急かすガイドに押され、俺は渋々と後ろの席に座った。

ちょっとちょっと! 後ろは操縦席だよ! 助手席は前!」

何で操縦席が後ろ側なんだよ。

七面倒くさい乗り物だ。

というか、何でこれに乗っていかなきゃならないんだ。

「なあガイド、前に別次元に行ったとき、こんなのに乗らなくても良かっただろ」

「これから行く世界は、“本来なら存在しなかった世界”なんだ。生身で跳ぶと次元の歪みに持っていかれる」

本来なら存在しなかった世界”って、どういうことだ?

世界線は可能性の数だけあるんじゃないのか」

「それ説明したことあるけど忘れたの?……じゃあ、詳しいことは移動中に説明するよ」

その世界のことも気になるが、ガイドがさっきから端末の操作しているのも気になる。

俺の席からだと様子が見えないから、ピポパポ音だけが聴こえてきて煩わしい。

「さあ、行くよ!」

ガイドがそう言うのと同時に、船の扉がゆっくりと閉まる。

その後すぐ、自分の体に僅かな圧力がくるの感じた。

どうやら船が移動を始めたらしい。

窓とかもないから外の景色すら見えなくて、実際何が起こっているかは良く分からないが。

次 ≫
記事への反応 -
  • 幸せって何だろう。 ……なんてことをシラフで管まく奴がいたら、それは人の温もりに飢えているドランカーか、時間を持て余したバックパッカーのどちらかだ。 それ以外だと、弟み...

    • あのさ もう何年もここで書いているのは分かるし自己満足なのも分かるんだけれど 圧倒的につまらないんだ 自分用に書いているというのもあると思うけれどまったく面白くもないもの...

  • ねえ みんな面白くないとか、延々とスパムみたいなつまらないことやめて欲しいって言ってるよ そんなに強情にならないでいい加減やめたほうがいいよ ここらが引き際としていいタイ...

  • ≪ 前 「さっきの続きだが、“本来なら存在しなかった世界”って何だ?」 「分岐によって自然発生的に生まれた世界ではなく、次元の過干渉により発生した世界。システムの不具合、...

    • いい加減諦めなよ 本当につまらないんだよ 何回も言われてるんだからさ 意固地にならずにここは清々しくやめようよ みんなそう思ってるよ だからやめようよ

    • ≪ 前 その地に足を踏み入れた瞬間、すぐに異様な空気感が襲った。 場所は先ほどいた庭と同じ。 目に映る景色も代わり映えしない。 だが「何かが違う」という感覚。 リメイク、リ...

      • ≪ 前 生活教は“生活をより良くする”という教義のもと、日々ライフハック的なことを広めている。 この辺りを中心に活動しており、地域新聞に載る程度には有名な新興宗教だ。 し...

        • ≪ 前 もしかしたら、この世界では普通のことなのだろうか。 価値観が矯正されているから、彼らにとっては問題ではないのかもしれない。 集金が阿漕だとしても、それが“救い”へ...

          • ≪ 前 信者たちは難なく撒くことができた。 彼らのダボダボな白装束は、人を追いかけるのには適していないからな。 こういう時ですら、なりふり構う必要があるんだから信者は大変...

            • ≪ 前 レーダーを頼りに信者達の目を掻い潜り、俺たちは慎重に歩を進めていく。 不幸中の幸いというべきか、道中は信者たちの手が及んでいない場所が多く、労せず次元の歪みに辿り...

              • 何度も言うけどさ 本当につまらないんだよ だからさ もういい加減やめたほうがいいって どうしてそんなに頑固になるの こうやって言ってることを素直に受け止めて

              • ≪ 前 「なんで俺が?」 「キミじゃなきゃ次元に直接干渉できないからだよ。厳密には“普遍的存在”じゃなきゃ、だけど」 さも当然のように、また固有名詞を出してきた。 いや確...

                • ごめん やっぱり面白くないよ 本当に何度もいうんだけれどさ 才能もないし諦めたほうがいい もう投稿しないほうがいいよ

                • ≪ 前 ・ ・・ ・・・ ・・・・ 「ほら! 起きて! しっかり!」 朧げだが、既視感のある声が聴こえる。 俺はゆっくりと瞼を開いた。 「あ、やっと起きた。あの後キミはぐったり...

                  • ≪ 前 「フラッガー?」 「宇宙規模で有名な指名手配犯さ。SSS+級のね」 「そいつは激レアだな」 そのフラッガーとやらは様々な世界を行き来して、幾度も次元を分裂させているらし...

                    • ≪ 前 「なあ、今すぐじゃないとダメなのか? また次回にでも……」 「頼むよ。こんなチャンス、二度とこないかもしれない」 ガイドたちは、今までフラッガーの犯行に悪戦苦闘し...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん