2020-04-03

[] #84-3「幸せ世界

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「さっきの続きだが、“本来なら存在しなかった世界”って何だ?」

分岐によって自然発生的に生まれ世界ではなく、次元の過干渉により発生した世界システム不具合バグのようなものだよ」

それからガイドは色々と説明してくれたが、俺はSFが得意ではないため雰囲気理解することにした。


噛み砕いていうなら、世界ってのは木のようなものだ。

可能性の数だけ枝分かれするが、逆に言えば可能性が0ならば枝分かれもしない。

しかし“本来なら存在しなかった世界”は、その“0を無理やり1にする”ことで生まれる。

木をいじくって枝分かれさせたり、枝を折って別の土地に植えているってことだ。

「ボクの時代では、そういったものは“分裂世界”と呼んでる」

「だが、お前も未来からやってきて俺の時代干渉しているじゃないか。それと何が違うんだ?」

「ボクは世界が分裂しない程度の干渉に留めてる」

「俺の知る限り、そうとは思えないんだが」

「そう簡単に分裂したりしないよ。“因果力”があるからね」

専門用語固有名詞を使うときは、先に説明してくれ」

ガイド曰く、その“因果力”ってものが働いているおかげで、多少の変化なら世界帳尻を合わせてくれるらしい。

要はフィクションとかでよくある“運命は変えられない”ってやつだ。

しかし、その“因果力”を超える程の変化が起きると、運命は変えられる。

それと同時に世界は分裂してしまうんだ。

そして“因果力”は世界のものが持っており、分裂すると弱まってしまう。

そのまま弱り続ける(分裂し続ける)と世界は形そのものを保てなくなり、やがて消滅してしまうってわけだ。

ポケットを叩くとビスケットが増えるが、実際は割れて二つになるだけってことだな。そのまま叩き続けると粉々になる、と」

「その分かりにくい比喩、前も言ってたけど……本当に覚えてない?」

そういえば、何となく覚えがあるな。

同じ喩えを使いまわすとは、我ながらよほど気に入ってたと見える。

まあ、とにかく世界が分裂するのは危険だってことは分かった。

このままだと俺のいる世界も消えてしまうから、放っておくのがマズいってのも分かる。

今までガイド目的を知らないでいたが、こういった次元トラブル解決するためだったんだな。

にわかには信じがたいが、信じなかった時の代償があまりにも大きいので協力するしかない。

だけど、まだ気になることは残っている。

その解決に、何で俺が必要なんだろうか。

「もう一つ疑問があるんだが……」

尋ねようとした時、間が悪くアナウンスが入る。

「間モナ目的地デス」

機械音声により、俺の質問はぶった切られた。

「衝撃ニ備エテクダサイ」

「よし、次元の歪みに入るから気をつけて!」

「気をつけてって、一体どう気をつけ……」

その後、体全体に凄まじい衝撃が走り、またも俺の言葉は掻き消された。

・・
・・・
・・・

「ほら、着いたよ! 起きて! しっかり!」

心なしか、声が聴こえる。

俺はゆっくりと瞼を開いた。

「あ、やっと起きた」

どうやら気絶してしまったようだ。

「気絶って、こんな風になるんだな……いつつ」

気だるさと共に、頬に僅かな痛みを感じる。

俺を起こそうと、ガイドが引っ叩いたのだろう。

「さあ、ついてきて!」

ガイドが遠くから手招きしているのが見える。

意識朦朧としていて、まだ状況を把握し切れていない。

だが、酷い目に遭っているのだけは確かだ。

不本意、不可解、不愉快

やっぱりエイプリルフールで、俺は弄ばれているんじゃないのか。

「不」の感覚から、「負」が、疑念が湧き上がってくる。

何はともあれガイドの頬を引っ叩こうと、俺は身を乗り出した。

しかし、そんなことはすぐにどうでも良くなってしまった。

「なんだ、ここは……」

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記事への反応 -
  • ≪ 前 ガイドと初めて出会ったのもエイプリルフールだった。 恐らく、こいつの時代にはそういう文化がなく、たまたま巡り合わせが悪かっただけなんだろう。 「これがこうなって、...

    • 幸せって何だろう。 ……なんてことをシラフで管まく奴がいたら、それは人の温もりに飢えているドランカーか、時間を持て余したバックパッカーのどちらかだ。 それ以外だと、弟み...

      • あのさ もう何年もここで書いているのは分かるし自己満足なのも分かるんだけれど 圧倒的につまらないんだ 自分用に書いているというのもあると思うけれどまったく面白くもないもの...

    • ねえ みんな面白くないとか、延々とスパムみたいなつまらないことやめて欲しいって言ってるよ そんなに強情にならないでいい加減やめたほうがいいよ ここらが引き際としていいタイ...

  • いい加減諦めなよ 本当につまらないんだよ 何回も言われてるんだからさ 意固地にならずにここは清々しくやめようよ みんなそう思ってるよ だからやめようよ

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        • ≪ 前 信者たちは難なく撒くことができた。 彼らのダボダボな白装束は、人を追いかけるのには適していないからな。 こういう時ですら、なりふり構う必要があるんだから信者は大変...

          • ≪ 前 レーダーを頼りに信者達の目を掻い潜り、俺たちは慎重に歩を進めていく。 不幸中の幸いというべきか、道中は信者たちの手が及んでいない場所が多く、労せず次元の歪みに辿り...

            • 何度も言うけどさ 本当につまらないんだよ だからさ もういい加減やめたほうがいいって どうしてそんなに頑固になるの こうやって言ってることを素直に受け止めて

            • ≪ 前 「なんで俺が?」 「キミじゃなきゃ次元に直接干渉できないからだよ。厳密には“普遍的存在”じゃなきゃ、だけど」 さも当然のように、また固有名詞を出してきた。 いや確...

              • ごめん やっぱり面白くないよ 本当に何度もいうんだけれどさ 才能もないし諦めたほうがいい もう投稿しないほうがいいよ

              • ≪ 前 ・ ・・ ・・・ ・・・・ 「ほら! 起きて! しっかり!」 朧げだが、既視感のある声が聴こえる。 俺はゆっくりと瞼を開いた。 「あ、やっと起きた。あの後キミはぐったり...

                • ≪ 前 「フラッガー?」 「宇宙規模で有名な指名手配犯さ。SSS+級のね」 「そいつは激レアだな」 そのフラッガーとやらは様々な世界を行き来して、幾度も次元を分裂させているらし...

                  • ≪ 前 「なあ、今すぐじゃないとダメなのか? また次回にでも……」 「頼むよ。こんなチャンス、二度とこないかもしれない」 ガイドたちは、今までフラッガーの犯行に悪戦苦闘し...

                    • ≪ 前 俺たちはフラッガーを拘束して、次元警察に引き渡すまで船で待機することになった。 「ふふふ……己(おれ)も年貢の納め時が来たというわけか」 信者達が俺たちを捕まえよ...

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