2019-10-17

[] #79-10高望みんピック

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パーティ終了後、タケモトさんは彼女と連絡先を交換。

それから連絡を取り続けて数週間が経った、ある日。

結婚相談所に近況報告をしにきていた。

「昨日、二人でデートみたいなことをしたんですよ」

「ええ、存じています。上手くいきましたか?」

デートの三日ほど前、そのことを相談してノウハウを授かっていた。

そして入念な下準備の甲斐もあって反応は上々、かなりの手ごたえを感じたという。

「ほう、やったじゃないですか!」

コンサルタントが喜んだのも束の間、タケモトさんが表情を曇らせて「ですが」と言葉を続ける。

「……きっぱりフラれました」

「ええ!? まさかデート初日に間合いを?」

「いや、そこまでせっかちじゃないですって」

「では、どうして?」

タケモトさんは「そんなことこっちが知りたい」という顔をしながら、その時の状況を語りだした。

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デートが終わりに近づいたとき彼女唐突に言ってきたらしい。

「……やっぱりダメ

「え?」

「何とか努力してみたけど、ときめけない」

とき……なに?」

あなたじゃメモリアルに残らないんです!」

言っている意味が分からなかったが、自分は今フラれているということだけは確かだった。

しか理由が分からない。

デートでヘマはしていないはずだ。

「何がダメなんです? 言ってくれればオレも改善しますよ。どうかチャンスをください」

「そういうことじゃありません。もっと根本的な問題なんです」

捉えどころのない答えではあったが、つまり何らかのハードルを跳び越えられなかったのだろう。

そうタケモトさんは思った。

学歴? 収入? 見た目?」 

思いつく限りの要素を羅列していくが、その度に彼女は首を振っていく。

「違います、私はそんなことにこだわりません」

「じゃあ、何なんです!?

最初から言っているでしょう。“ときめき”ですよ!」

彼女が告げたのは、タケモトさんにとって最も理不尽ハードルだった。

学歴なら勉強すればいいし、収入なら貪欲に金を稼げばいいし、見た目なら美容整形に行けばいい。

しかし“ときめき”なんていう漠然とした要求は応えようがなかった。

「良い大学に行ってなくても、収入が心もとなくても、容姿が悪くても、それが気にならないほど好きになれる。多少の不安要素があっても、それでも一緒にいたい。そう思える相手がいいのです」

「いや、だから、それはどういう人間なんだよ」と思ったが、タケモトさんは声に出さなかった。

もはやリタイアが覆らないことは明らかだったからだ。

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「それは……お気の毒に」

「『多少の不安要素はあれど、それでも一緒にいたいと思えるほど好きな相手』って何ですか。ある意味で史上最大の高望みですよ」

以前、コンサルタント高望みの定義を「ハードルの“高さ”ではなく“数”」だと言っていた。

しかし今回は逆で、一つのハードルがあまりにも高く、形も歪だったせいで跳べないパターンだったようだ。

自由恋愛時代反動なのかもしれません。婚活の場においても強い恋慕やロマンスを求める人は一定数いるんですよ」

完走者の美談跋扈し、人間の多様な要素に不毛優先順位がつけられる。

それに引っ張られた、一つの側面なのだろうという。

「“結婚”という社会的システムで、そういう部分を何よりも追い求めるのって、矛盾していると思うのはオレだけですか?」

「ここで働いている身からすれば、矛盾していない人のほうが珍しいですからね……」

コンサルタント言葉に、タケモトさんは酷い絶望感を覚えた。

「今回は残念でしたね。運が悪かった……くらいの気持ちでいいと思いますよ」

「はあ……オレも選ぶ側の意識が芽生えてきましたよ」

「それは何より。で、相手に求める条件は?」

「条件を求めてこない人」

「それは……中々の高望みですね」

今でもタケモトさんが婚活をしているのかは知らない。

(#79-おわり)
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