「再開は30分後となります。それまでは、しばし休憩を」
折り返し地点にさしかかったところで休憩が入った。
とはいえ、この時間は自由な交流が認められている、いわば追加のアピールタイムにもなっている。
ただ一人、タケモトさんを除いて。
「ふぅ……吸わない奴らは、よくコレなしでやっていけるよな。感心するぜ、まったく」
タケモトさんは、その30分を全て喫煙場で過ごした。
探しにきたコンサルタントが、その姿を見て溜め息を漏らす。
「せめてイコスを使いませんか」
「あれで吸った気にはなれませんし、普段なら吸うの自体を我慢しますよ。ただ、今回はしんどい」
この時間帯も有効に使うべきという話はコンサルタントから聞かされていたし、今日はタバコを吸わない方がいいことも覚えている。
「『反りが合わない』って言葉は、刀からきているんでしたっけ」
「ええ、そうですね。刀の反りと鞘の曲がり具合が合わないと、綺麗に収まらないことから来ています」
「刀と鞘か……ふっ、言い得て妙だな」
タケモトさんは表情を変えず、声だけで笑った。
反りの合わない相手と結婚を意識して会話をすることは、それほどまでに体力を失うようだ。
「オレには“選ぶ側でもある”という意識が薄いらしいですが、ここにいる人たちは逆に“選ばれる側でもある”という意識が薄いように感じました」
これらの対比は程よい按配にはならず、むしろ歪さを際立てることをタケモトさんは実感した。
「上昇婚、高望み?……っていうんですかね。ハナっから歩調を合わせる気がないってのが、態度の端々に出ている」
「より良い結婚、その生活のためにより良い条件を望む。それは非難されるべきではない、当然の要求であり欲求ですよ」
「コンサルタントは仕事上そう言うしかないでしょうけど、オレが言っているのはもっと現実的な話です」
その言葉は今までのお見合い相手に、そして自分自身に言い聞かせるようだった。
「地に足をつけて、前に進む気が本当にあるのか疑問なんですよ。ゴール地点を見据えて、そこにたどり着けるって自信が一体どこにあるのか」
体力は既に消耗しきり、判断力も鈍ってきている。
タケモトさんは半ばヤケになっていた。
傍から見て、ただの面倒くさい人状態になっていたが、コンサルタントもここで投げ出すわけにもいかなかった。
「はあ、やれやれ」
コンサルタントは、おもむろにポケットからタバコを一本取り出した。
「え、あんたも吸う人なんですか」
そうして煙が出ていないタバコをくわえたまま、コンサルタントは先ほどより調子の低い声で語りだした。
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もうやめなよ・・・。 誰も君の小説を読まないよ・・・。
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