「年齢は近いほうがいいですかね。あ、あと異性で」
「他にはありませんか?」
「自分が働いているので専業で家事ができる人……いや、家事代行を頼める資金があるなら、共稼ぎでもいいのか」
結局、タケモトさんは建前の、あってないような条件を挙げることしかできなかった。
“選ばれる側でもあるが、選ぶ側でもある”
コンサルタントがそう言った意味を表面上では分かっていたが、内包するものまでは理解できなかった。
自身の人格や経歴といったものが、他人から見て魅力的に映るかどうか。
そこに懐疑的な以上、まず相手が選んでくれるかが重要だという考えは変えられなかったんだ。
「あなたのように漠然としたまま、我が相談所に足を運ぶ人は少なくありません。そういった人に勧めるのが、このパーティなんです」
結婚したい人間たちが一同に介する、俗に言う「お見合いパーティ」の会場だった。
「コンサルタントとしての経験から言わせてもらえば、あなたが今回で“運命の出会い”を果たせるとは思っていません」
「じゃあ、どうしてここに案内したので?」
コンサルタントは語る。
「婚活とは実際に物件を探している状態です。冷やかしたり、引越し予定もないのに理想の物件を呟くのとはワケが違います」
「物件……ですか」
勿論この例えはもちろん不適切ですが、と断わった上で話を続ける。
「あなたに必要なのは、どういった物件があるかを見学してもらうことです。どこが譲れないか、どこなら妥協できるか、そうして初めて見えてくることもあるでしょう」
「見えてくるもの……」
しかし、それが具体的に何なのかを、この時のタケモトさんはまだ計り兼ねていた。
「お集まりの皆様、お時間となりましたので、本日の催しを始めさせていただきます」
アナウンスが開始の合図を告げる。
「あ、あの、何かアドバイスはありませんか?」
「気を張り過ぎない、見栄を張り過ぎないことですかね……ああ、あとタバコはおやめになるか、せめて匂いに気をつけた方がチャンスは増えると思いますよ。服などに残った匂いだけでも気にする人はいるので」
前回、タバコを吸ってから相談所に赴いたことを遠回しに指摘してきた。
今このタイミングで言ってくるとは、このコンサルタントは中々いい性格をしているらしい。
「それでは参加者の皆さん、胸の番号札順に席に座ってください!」
≪ 前 「あれは確か数年前、いわゆる倦怠期での話ですが……」 マスターは惚気話だと思われないよう自嘲を多分に交えつつ、自身の結婚エピソードを語っていく。 それは如何にもあ...
≪ 前 少し前までタケモトさんは結婚願望というものがなかった。 厳密に言えば、それが自分にあるかどうか考える余裕すらなかったんだ。 退屈させてくれない労働、ソリが合わない...
「“結婚はゴールじゃない”なんて言う人いるけど、あれ大した理屈じゃないよな」 俺がそう言うと、兄貴は体の向きを変えないまま「そうだな」と答えた。 「“じゃあ、あんたのゴ...
もうやめなよ・・・。 誰も君の小説を読まないよ・・・。
≪ 前 コンサルタント曰く、この婚活パーティの参加者は常連が約8割。 つまり結婚したくてもできない人間、“売れ残り”ばかりが棚に並んでいるんだ。 そしてこのお見合いパーティ...
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≪ 前 もちろん、個人の心構えが変わったところで物事はそう簡単に好転したりはしない。 亀が死ぬ気でやってもハードルは跳び越えられないし、居眠りしない兎に勝つなんて無理だ。...
≪ 前 パーティ終了後、タケモトさんは彼女と連絡先を交換。 それから連絡を取り続けて数週間が経った、ある日。 結婚相談所に近況報告をしにきていた。 「昨日、二人でデートみ...