2019-10-16

[] #79-9「高望みんピック

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もちろん、個人の心構えが変わったところで物事はそう簡単好転したりはしない。

亀が死ぬ気でやってもハードルは跳び越えられないし、居眠りしない兎に勝つなんて無理だ。

そのことが分からないタケモトさんではない。

だが案内してくれたコンサルタント義理立てとして、とにかくパーティをつつがなく終了させようと思い直す。

そのためにやったのは、仕事で培ってきた対人スキルを応用することだった。

そつがない、つまらない接し方だ。

相手に好印象を与えることは難しいが、少なくとも自分精神負担は抑えられる。

期せずして、それはコンサルタント最初に言っていた「気を張り過ぎない、見栄を張り過ぎない」状態に近かった。

チャンスをチャンスだと認識でき、それが手元にきても力みすぎない丁度いいコンディションである


そしてチャンスは意外にも早く、そのお見合いパーティの終盤に訪れた。

よろしくお願いします」

対面した相手は、あまり着飾らないショートヘアー女性だった。

学園でいうなら、クラスに密かなファンの多い地味っ子ってタイプらしい。

タケモトさんの喩え方はイマイチからなかったが、たぶん誉めているのだと思う。

とはいえ最初の内は他の人と同様に接するつもりだったらしい。

だが彼女がふと呟いた言葉に色めき立った。

「この香り、『エブリデイ・ウェンズデイ』ですか」

それはタケモトさんが休憩所で吸っていたタバコ銘柄だった。

コンサルタントに即席の消臭法を教えてもらっていたが、わずかに匂いが残っていたようだ。

「お、分かりますか?」

「ええ、私も同じものを吸っているので。紙タバコありがちな匂いが少なくて、そこまで重たくないから吸いやすいんですよね」

「そうです、そうです。水タバコみたいなまろやかさがあるんですよ」

会話を続けていくと、タバコ銘柄以外の趣味嗜好も近いことが分かった。

「色々やりましたけど、結局はバニラなっちゃます

「そうなんですよ。アイスパイプも結局はバニラ!」

ここに来て初めて、タケモトさんは心地よさを覚えた。

彼女が話すときテンポ、受け答え、ちょっとした所作

それら全てにストレスを感じないどころか、むしろ消えていくのを実感したという。

短絡的だが、運命相手ってのはこんな感じなのかと思ったらしい。

「へー、割と近所じゃないですか。今まで出会ってなかったのが不思議ですね」

「いやあ、まったく本当ですよ」

「お時間となりました。みなさん席を離れてください」

そうして最後まで話が途切れることなく、終了と相成る

なんとも時間が短く感じられた。

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                • anond:20191009070027

                  もうやめなよ・・・。 誰も君の小説を読まないよ・・・。

                  • anond:20191009070216

                    うーん、この場で誰かに読んでもらうかどうかは、さして重要じゃないと思いますよ。 それを前提にするならば、ここで書いている人たちの日記ないし文章はほとんどが同価値といえま...

                    • anond:20191009072053

                      書くのはもちろん自由だけどお前の文章は少なくとも俺にとっては無価値だしバズってもいないようだから他の増田やブクマカにとってもそうだろう はっきり言って荒らしと大差ない

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