いよいよ本番だが、さてどうしたものか。
渡された木の棒は野球バットほどの太さと長さがあるが、持ってみると予想外に軽くて柔い。
これだと殴ってもそこまで痛くないな。
「どこを殴る?」
出来る限り唇を動かさないようにして、カジマにそう尋ねた。
主役は痛がる方だとはいえ、俺も下手なことは出来ない。
攻撃が痛そうでなければ、いくらリアクションが良くても薄っぺらくなる。
カジマはそう言ってニュートラルに立つ。
いきなり直球勝負か。
よし、やってやろう。
カジマを信頼し、小さく頷いて見せた。
「行きまーす!」
そう宣言をして、俺はパワーヒッターのような独特の構えをする。
当然これはハッタリだ。
「くたばれ!」
「がっ……!?」
振りぬかれた木の棒は見事、カジマの脛にクリーンヒットした。
直立だったのもあり、両方の脛に当てることができた。
「あ``あ``あ``あ``~っ」
ダミ声を発しながら、カジマはその場に崩れ落ちる。
「お~っと、これは素晴らしい痛がりです! カジマ選手の悲鳴が、観客たちの笑い声に負けていません!」
痛めつけ役の俺ですら、分かっていたにも関わらず感心するほどだ。
カジマの実力を改めて痛感した。
「いや~、いきなりレベルの高いイタガリアンが出てきましたね。これはシロクロ選手やりにくいでしょうね~」
そしてシロクロの番がまわってくる。
なにせシロクロは性格上、プレッシャーなんてものとは無縁のヤツだ。
多少の無茶は可能だろう。
「シロクロ、どこに攻撃すればいい? 相手と同じ場所だと分が悪そうだけど……」
シロクロはそう言いながらガイドに頭を小突いて見せた。
なるほど頭か。
シロクロにしては考えたな。
カジマのターンで、木の棒の柔さに観客たちは気づいている。
だが頭なら衝撃が伝わることで痛さを演出できるだろう。
「じゃあ、行くよ~……そらっ!」
まるで剣道の面打ちように、ガイドはシロクロの頭に木の棒を当てた。
これはガイドの痛めつけ方が悪い。
そこは大根切りのように振りぬくべきだ。
「……効かぬぅ!」
そんな哀れな攻撃を受けて、シロクロはリアクションを拒否した。
「おーっと、シロクロ選手。どうやら痛くないようです!」
ゲームの趣旨を理解していないシロクロの反応に、ガイドは戸惑う。
「何で痛くないのに痛がらないとダメなんだ?」
それに対しシロクロは、番組の趣旨そのものを否定するようなことを言っている。
この『イタガリアン』ではリアクションが自分の中で納得できなかった場合に、一度だけやり直しが可能となっている。
ガイドの痛めつけ方が半端なのは明らかだったので、ここでの「痛くない」宣言は妥当だ。
だが俺たちが有利であることは何ら変わらない。
先ほどの攻撃を痛くないと言ってしまった以上、ガイドはあれよりも明らかに痛そうな攻撃をしないといけないからだ。
俺が先ほど推奨していた大根切りですら不十分だろう。
「もっとだ! オレを殺すつもりで来い」
「いや、そんなことしたらダメだろ」
「オレは最強の男だ! 殺しても死なない!」
「もう、わかったよ……まずこのアーティファクトで木の棒を堅く。そして次にボクの身体能力を……」
どうやらガイドのやつ、未来のアイテムを使って強化を施しているようだ。
何だかインチキくさいが、物申すのも話がこじれそうなので黙って見ているしかない。
シロクロの肩めがけて棒が振りぬかれた。
バギャッァウ!
俺の知っている、あの柔い木の棒とは思えないほどの音が鳴り響いた。
「うぉっ!」
絵としてのインパクトは抜群だ。
「あ~っと! なんとシロクロ選手が流血! ケガをしてしまうほどの攻撃は失格となります」
「ああ、やりすぎてしまった……シロクロが丈夫すぎるから、加減の仕方が分からないんだよ」
「なぜだ、全然痛くないぞ?」
「オレはまだ倒れていないぞ!」
「……なんか、本気でリアクションしたオイラが馬鹿みたいなんすけど」
こんなことやってる時点で、いずれにしろ馬鹿みたいであることには変わらないから。
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