「オイラとしては出場したい気持ち強いんだけど、参加条件を満たせなくて……」
なるほど、あの優柔不断な態度の裏にはそういう理由があったか。
「参加します」とのたまっておいて「参加できませんでした」では格好つかないからな。
それにしても、あの番組の参加条件ってそんなに厳しかっただろうか。
それなりに健康で、年齢基準さえ満たしていれば参加できたはずだが。
「条件って、何がダメなんだ」
「アシスタント、パートナーがいるんす。出場者を痛めつけるための」
なんだそりゃ。
「今までそんなレギュレーションなんてなかったと思うが」
「番組スタッフが一般人の参加者を痛めつける行為はどうか、ってクレームが出てきたらしくて」
だから痛めつける役も任意の参加者から募る方式にした、ってことか。
ローカル番組でもそういう目配せをしなきゃいけないんだなあ。
……いや待てよ。
パートナーか。
「よし、分かった。俺がお前を痛めつけてやろう」
俺は演技派ではないし、痛いのも好きではないから乗り気じゃなかったが“そっち”ならアリかもしれない。
番組の花形は痛がる方なのだから大してカメラに映らないだろう。
そして俺自身は痛くも痒くもない。
賞金を山分けすることを考慮しても、それならやってもいいと思えた。
「ええ~、マスダがあ?」
カジマが白々しい反応をする。
こういう無駄なやり取りを挟むのは嫌いってわけじゃないが、こっちにその気がない時までしてくるのは癪だ。
「俺がそう切り出すことを期待したから、そんな話をしたんだろう」
「まあ、そうっちゃあ、そうなんすけど……マスダが痛めつけるのかあ……」
こうしてカジマは『イタガリアン』への出場を決め、俺はそのパートナーとして出るってわけだ。
「参加しない」と言っておいて、実質的に参加していることに少し疑問を持たなくもなかったが、それは賞金の前では気にすることではない。
「カウントダウン、3、3、2、2……」
「あー、なんだかんだいって緊張するっすねえ~」
収録が近づく中、カジマが俺にだけ聴こえるようにそう呟く。
しかしそれを言えるってことは、カジマのコンディションは万全であることを意味する。
優勝は貰ったな。
「さあ、今回も人気コーナー『イタガリアン』のお時間が始まりました~」
司会のコールとともに、いよいよ収録が始まった。
俺はカジマの影に立つようにして、カメラに極力映らないように、印象が残らないように努める。
どうせここら辺のくだりはダイジェストで流れるだけだろうとは思うが。
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