第一回戦は早速、俺たちの出番だ。
ウォーミングアップを始める俺たちのもとに、見学に来ていた母は心配の声をかける。
「あなたたち本当にやるつもり?」
「ここまできて『やっぱりやめる』って選択はないよ。だったら最初からやるなって話になるからね」
俺と同じく、母もこの番組を面白いと思っている人間ではなかった。
だが、俺みたいな漠然としたものではなく、一応の“背景”があるから嫌悪感を露にしているのだと思う。
「“痛み”をエンターテイメントにするなんて低俗だし、それを楽しむのは不健全じゃないかしら……」
同じく見学に来ていた弟が母をなだめる。
弟は『イタガリアン』のファンで、俺が参加するとなったときも大層喜んだ。
今回の件で一番盛り上がっているのが、傍観者の弟ってのも妙な話である。
「諦めなって母さん。残念だけど、母さんみたいな繊細な人間相手にこの番組は作られていないし、そんな義務もないんだからさ」
「あなたたちは痛みに慣れすぎて、鈍感になってるのよ……」
母が言うと中々に重みのある言葉だ。
と同時に空虚さも感じる。
昔は人間の体のほうが多く比率を占めていたが、今では脳と心臓のみ。
つまり母は“痛み”に鈍感ですらなく、今では感じることすらできないわけだ。
だからこそ、自分が感じることができないものに対して慎重にモノを考えようとしているのかもしれない。
まあ、実際のところどうかは知らないし、知ったところで俺がどうこうするってわけでもないんだが。
「安心しろって。痛い思いをするのは俺じゃなくて、出場者のカジマのほうだからさ」
「そうそう」
「いや、それはそれでどうかと思うんだけど……」
そして第1回戦が始まる。
地元から参加者を募るから分かってはいたが、いきなり知り合いとの戦いである。
「お前ら、何で出場したの」
「オレはシロクロ! 最強の男!」
シロクロはそう言ってボディビルダーみたいなポージングをした。
どうやら大した理由ではないらしい。
恐らくシロクロの突発的な行動で、ガイドはそれに巻き込まれたってところだろう。
「さて、今回は“木の棒”です」
「出場者の方々は理解しているでしょうが、視聴者の方へ向けてルールを改めて説明をさせていただきます……」
数分かけて、司会者が丁寧すぎる説明を始めるが、ぶっちゃけ大したルールはない。
要はテーマ毎に決められた方法で痛めつけ、出場者はそれにいい感じのリアクションをすればいいだけだ。
こうやってルールを確認してみても、やっぱりこれゲームとして粗末すぎるな。
ルールを複雑化したら大衆ウケが悪くなるとはいえ、これだとテキトーすぎないか。
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