最近獣医学部の新設について取りざたされているが、正直公務員獣医の不足は新設以前の問題だと思う。その理由をこれからあげていく
①仕事内容
公務員獣医、特に保健所など公衆衛生の分野で働く獣医師はいわゆる「動物のお医者さん」とは大分かけ離れた仕事をしている。だから「動物のお医者さん」になりたくて入ってくる獣医学生から敬遠されるのは仕方ない部分もあるのだが、それでも狂犬病予防員や人獣共通感染症の対策など獣医師でなければできない仕事ならば少なからずやりがいはあるはずで、ここまでの不足にはならないと思う。現状の公務員獣医は、それらの仕事に加えて旅館の調査や美容所の監視など獣医師でなくてもできる仕事まで任されている。不足している状況で、獣医師でなくてもできる仕事まで押し付けていたら人が集まるわけがない。
接客や応対の仕事をしている人たちならば大なり小なりクレームに悩まされるだろうが、公務員獣医はその中でも大分粘着質なクレームに悩まされることになる。なぜかというと、保健所の獣医師は引き取った動物の殺処分も仕事に入るのだが、これに関して動物愛護関連の団体が何度もクレームをつけてくるのである。また団体だけでなく個人によるものもあり、ネットで実名をあげて非難してくる者もいる(公務員獣医 殺処分で検索すると、香ばしいサイトがいくつも見つかる)。しかもこの手の連中は、なぜかペットを捨てた飼い主よりも獣医師をやっきになって叩いてくる。獣医というのは基本的に動物好きの集まり(偏差値が上がってからは特にその傾向が強い)であり、したくてそんなことをやっているわけではない(もちろんどうしようもない獣医も一定数はいるが)。殺処分などしたくなくて、少しでも減らそうと頑張っている人たちが理不尽な罵倒をくらっている現実を考えれば、不足するのも当然だろう。
③待遇
医療系専門職の公務員の給与というのは医療職棒給表に基づいており、医療職1が医師・歯科医師、医療職2が獣医師・薬剤師・栄養士といったように区分されている。獣医学部・薬学部は以前4年制であったため医学部・歯学部と区別されていたのだが、6年制になった現在も改正されていない。当然医療職1が一番給与が高いのだが、ここでいう医師・歯科医師というのは臨床の現場で働いている人たちだけでなく、保健所で働いている人たちも含んでいる。そして、保健所で働いている医師の仕事というのは基本的に公務員獣医と同様公衆衛生に関わる業務で、仕事内容に多少の差はあれど大枠は同じで勤務時間も変わらない。さて、それで医療職1と医療職2でどれほどの差があるのかという話だが、こんなブログを見つけた。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20090717
このブログによると、公務員医師、獣医師の月収は次のようになっている。
初任職員 58万7200円 21万4700円 37万2500円
本庁課長級 71万7655円 58万1620円 13万6035円
このブログの主は開業医で、本庁課長級(獣医師として出世できる最高職)まで昇進すれば同格の医師との差は大分縮まるため、給与にそこまでの差はないと述べているのだが、悲しいことに獣医師のトップの収入は新人の医師の収入に負けているのである。個人的には、医師と獣医師ではこんなに収入差があると言われるよりも、獣医師はどんなに頑張っても新人の医師に負けますよと言われるほうがよほどやる気をなくす。これで公務員の獣医師と医師でそこまで差はないと言われてもしらけるだけである。
またこれに関連して言えることだが、公務員獣医の不足解消のため高校生に対して公衆衛生や大動物臨床に関する広報活動を積極的に行っていくべきではないかという話を聞いて、正直逆効果にしかならないのではないかと思った。獣医ならではの仕事である牛や馬の臨床は確かに高校生も興味を持ってくれるかもしれないが、同様の仕事内容、勤務時間でこれだけの収入差がある公衆衛生の現実を知ったら、だれも獣医学部を出て公務員になろうとは思わないだろう。