不届き者を成敗したことでヴェノラの溜飲は下がる。
「いやあ、溜飲が下がった、下がった」
だが、体温まで下がってはいけない。
風呂が豪華だったので、食事についてもヴェノラたちは期待していた。
そして、その期待に応えられる豪勢さを確かに持ち合わせていたのである。
「この宿の食事は美味しいな」
宿屋で提供された料理はヴェノラたちの満足のいくものであった。
だが、仲間の一人であるウロナのみ、表情は曇っていた。
「確かに味と質はいいかもしれません。ですがバランスがよくありません。肉の量に対して野菜が少なすぎます。できれば果物も欲しいところです。あと塩分過多です」
ウロナのクレームを見越していたのか、近くにいた宿屋の主は語り始める。
「実はその件なんですが、のっぴきならない事情がありまして。最近ここいらの村で野菜泥棒が出没しているんです。おかげで野菜は質や量の割に値段が上がって困っております」
なんと、それはよくない。
ウロナを筆頭に、ヴェノラたちの正義の心に火が灯る。
「その前に、出された料理を食べてしまいましょう。食べた後は消化するまで激しい運動は控えましょう」
腹が減っては戦は出来ぬというが、満たしすぎても戦は出来ないのである。
ウロナはそのことを説き、ヴェノラたちも静かに頷いた。
準備を調えたヴェノラたちは、野菜が盗まれたという現場で張り込みをしていた。
しかし……
現世の時間で計算すると、およそ午後9時になろうとしており、ヴェノラたちは痺れを切らしていた。
それはヴェノラたちの前回の睡眠から、十数時間が経つことを意味していたからである。
「これ以上の夜更かしは体によくありませんので、帰って休みましょう」
「そうだ。あまりに疲れた状態で寝てしまうと、睡眠のコスパが悪くなり明日に響く」
「そうしよう。あと寝る前に歯を磨こう……うん?」
帰ろうとしていたその時である。
まるでそれを狙いすましたかのように、暗闇の中で明らかに怪しい人物が不審な行動をするのが目に入った。
「来たぞ」
夜も遅いのに大声で喋る、不届きなヤカラである。
「野菜泥棒だぜ。この世界でも泥棒はよくないことだが、それでなお実行する意志があるんだぜ」
「なんですって」
夜も遅かったが、野菜泥棒が登場した以上、見過ごすわけにはいかない。
ヴェノラは戦闘態勢に入る。
だが野菜泥棒は相手がかなりやる奴だと勘付いた途端、踵を返して逃げ出した。
あまりにも予想外な俊敏さに、ヴェノラたちは面食らう。
「ここは我がやろう」
そこで真っ先に気を取り直し、名乗り出たのは歴戦の勇士であるイセカだった。
歴然たる経験の差に、ヴェノラは羨望の眼差しを向けざるをえない。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。あくまで身体能力を客観的に分析した結果、我こそが最適と判断したまで。別にあなたが女性だから特別に庇護しようだとか、そういう意図ではない。差別ではない、差別ではないのです」
「しかし、あなたはそこまで俊敏な人間ではありません。あの野菜泥棒に追いつけるのですか」
「イセカ、それはいけません。チョウナ・ブーメランは野菜泥棒の命が危ぶまれる」
こうなると頼れるのは一人しかいない。
ヴェノラである。
「では仕方ない、皆は先に帰って休んでいてくれ。俺一人で野菜泥棒を捕まえる。個人経営だ」
トアル村の宿には公衆浴場があり、男湯、女湯、混浴、その他にも色々な専用浴場がある大規模なものであった。 ヴェノラ一行は様々な側面から考え、それらを秤にかけた結果、男女別...
前回のあらすじ 四天王の一人、剣姫スミロドン。 四天王の中では最弱らしく、既に他の四天王をこらしめていたヴェノラ一行は余裕だった。 しかしスミロドンは、ヴェノラの「とに...
オープニングテーマ曲:「アドベンチャー・ポージング」 歌:ポリティカル・フィクションズ 作詞:マーク・ジョン・スティーブ 作曲:サトウスズキ 広大な青空に 鳥が飛んで...
≪ 前 「大丈夫ですか。野菜泥棒はかなりの俊敏さを持ち合わせております」 「心配するな。俺には正当な理由があります」 改めて説明しなければならない。 「ジャストコーズ、オ...
≪ 前 エンディングテーマ曲:「リミテッド・フィナーレ」 歌:ポリティカル・フィクションズ 作詞:マーク・ジョン・スティーブ 作曲:サトウスズキ 一枚絵 一枚絵 一枚Yeah...