知らない世界を見てみる、というのは多分何かを期待したいっていう無自覚の意図があるからなんだろう。
アニメ全般的に嫌いなわけではないが、最近のアニメのほとんどは嫌いである。理由を上手く説明できないので生理的というしかないが、多分アニメそのものが嫌いなのではなくて、なんていうかそこにある空気、ノリみたいなものが性に合わないのだ。生まれつき、徒党を組んだり、人の輪の中に入ったりすることがどうにも苦手で、孤独であることを選択してきたようなところがあるし、多分私は遺伝的にどこかおかしいのかもしれない。だからか、知らない世界に対する興味が人一倍大きいところがある。孤独は広い一つのこの世界を極端なくらい小さな世界と大きな世界に分断し過ぎてしまうからだ。そして、無自覚的に本能的に避けてきたそういう私の知らない世界に入ってみると大抵の場合、痛い目に合う。そもそも私には無理な世界なのだ。私の世界の外に出てはいけなかった。
そんな作品が『秒速5センチメートル』だった。
もう結構な歳だから、おそらく若い世代向けの作品だろうし、そもそもこの映画アニメのタイトルすら知らなかった。いつ頃からか、ネット配信で色々と見るようになってたから、作品リストに入っていれば視覚を通じて脳の中に勝手にそのタイトルがインプットされてしまう。で、「君の名は。」が現在大ヒット中で、新海誠って名が結びつけられてしまい、興味を惹かれてしまったのであろう。こういう流れで成功したのは、あのエヴァンゲリオンくらいだ。私はそもそもエヴァ的なムーブメントは反吐が出るほど嫌いだったのに、何かのきっかけでふと見てしまいその漆黒のブラックホールから抜け出ることは永遠に叶わなくなるほどの体になってしまった。
今回は正真正銘大失敗だ。この、度肝を抜くほどの「誰にだってそんな経験はあるだろう?」「誰もが感じたことあるだろう?こんな感じの切ない経験」感たらありゃしない。これほどまでに押し付けがましい作品を私は見たことがない。ええ、私にだってありましたよ、こんな感じの青春恋愛物語。だけどね、私の場合思い出すのも憚られるほど自分が嫌になるちっとも綺麗な思い出じゃないんです。かつて、いや今も私は最低下劣な人間だから、自分の過去が美化など出来るわけはない。だから、えげつないことに旧劇場版エヴァでシンジがアスカの前でオナニーして「俺って最低だ」ってところで「こ、これは俺だ、俺自身だ」って一番見たくもないものを見せられて吐きそうになったんです。心底大笑いしましたね、あの時は。
「秒速5」を見た人ならわかるはずです、涙した人ならもっとわかるはず、喩えようもないほどこの作品が描いた世界は美しい世界だった、って。このタイトルが示す、桜の花びらが大気圧下で重力落下する速度が秒速5センチメートルだっていう表現の綺麗さったらありゃしない。最初から最後まで徹底的に美しい。その美しさをね、嫌という程こっちに押し付けてくるんです。シンジ君である私にこれが受け入れられるはずはない。ええ、どんなに必死こいてミサトに説得されたって私はエヴァには乗りません(笑)。
というわけでごめんなさいです、「秒速5」は駄作です。だから、もう二度と新海誠に近づくことはないでしょうね。私は虚飾の世界にうんざりなんです。それが綺麗であるかどうかは私が決めることであって、そこにある世界の方ではないのです。