水曜日の朝、立派な体格の6人の捜査官が合同テロ対策チームからやってきて、私の家のドアをノックした。
私の夫も私も私達が無実であると疑わないが、もし何らかの過ちを犯したとすれば、それは Google で検索した内容が、
テロリストの判別ルールに当てはまってしまったということだろう。誰かがあちらこちらで監視しているのである。
検索語のピースを組み合わせ危険を示すレッドフラグを上げる仕事を、私達の検索ワードを見ながらしている誰かがいるのである。
大抵の場合それはテロとは無関係である。私は圧力鍋について調べていた、夫はバックパックを検索し、
そして普通はこの2つを検索したとしても問題はないと思われる。しかし私たちは”普通でない”ときに
それをしたのである。
もしあなたが20歳になるとても好奇心旺盛な私たちの息子のようであったならば、あなたもその事件について
多くの時間を費やしニュースを読んだだろう。CNN のニュースに、圧力釜で爆弾を作ったと書いてあれば、
インターネットで作り方を検索するだろう、もしあなたが好奇心旺盛であれば、きっとそのリンクをクリックしただろうと思う。
私の息子のニュースを乱読する癖と私の検索した圧力釜、夫の検索したバックパックが、合同テロ対策チームに出動を命じさせたのだ。
このようにして事件が起きたのだと想像している。テロ対策チーム本部でアラートがけたたましく鳴り、
対策チームはコンピュータに表示される Google の検索ワードを覗きこんだのだろう。
検索をしたのは数週間前のことである。なにゆえ対策チームがこんなに長く手をこまねいでいたのかはわからない。
きっと他の疑わしい Google の検索ワードの事件に関わっていたのだろう。だが、「キヌアとは一体何であるか」とか
「アレックス・ロドリゲスはまだ故障中なのか」といった検索ワードは彼らにはどうでもいいことだったに違いない。
事件が起きた時、私は仕事中で、すべてが終わってから夫が私に電話をかけてきた。笑いながらである。
だが私は一緒に笑う気にはならなかった。夫のかけてきた電話は私を震撼させ怯えさせたのだ。
事の顛末はこうだ。午前9時、前日帰ってきた夫は、リビングルームに飼い犬二匹と一緒にいた。
道路に何台かの車が停まる音を聞き、窓から外を見ると黒い SUV が私達の家の前に停まったのが見えた。
2台は縁石前に、もう1台は夫のジープの前に止まった。逃げられないようにするためである。
カジュアルな服装の6人の捜査官が車から現れ、2人は裏庭に、2人は家の横、残りの2人は家の玄関に向かった。
様々なことが夫の頭には浮かんだという、何が何だか分からない。夫は家の外に歩み出た。
男たちは夫に挨拶し身分証明証を見せた。捜査官全員の腰には銃が下がっていたという。
「あなたは○○さんですね?」、捜査官の一人がクリップボードを見ながら聞いた。夫がそうだと言うと
捜査官たちは家宅捜索をしていいかと訪ねたが、それは任意捜査であることも判明した。
彼らはリビングルームに入り(爆弾の作り方も、アナーキストクックブックもない)本棚の本を調べ始めた。
さらに私たちの写真を一枚一枚確認し、寝室を覗きこみ、ついでに私達の犬を可愛がった。
息子はまだ寝ていると言ったけれども、彼らは息子の寝室にも入っていいかと訪ね入っていった。
その一方で彼らは夫に質問を浴びせていた。「出身はどこ?ご両親の出身は?」彼らは私についても聞いた。
「奥さんはどこ出身?どこに勤務してるの?奥さんの両親はどこに住んでるの?」彼らは「爆弾持ってる?」とも聞いた。
「圧力釜はある?」夫はないと答えたが、炊飯器はあったのだった。「これで爆弾作れる?」夫は作れないと言った。
「妻はそれでキヌアを作るんだ」「キヌアってのは一体全体なんのことだ?」
彼らは裏庭も探した。庭仕事の道具やガラクタが散らばっている車庫の周りも歩きまわった後、家の中に戻ると、
更に質問をぶつけてきた。「今までに圧力釜爆弾の作り方を調べたことはある?」
夫はとうとう堪忍袋の緒が切れ尋ねた。
「あんたらは圧力釜爆弾の原理を知ってるかどうか、それを検索したかが気になっているのだな?」
2人の捜査官がそれを認めた。
この時になってようやく彼らは自分たちが相手をしているのはテロリストではないのだと思い至ったようである。
彼らは夫に仕事の内容と、過去に韓国と中国に行った理由を尋ねた。捜査官の物腰が柔らかくなった。
捜査官たちは検索が行われたコンピュータを見せてくれとは言わなかったし、引き出しもキャビネットも開けなかった、
2つの部屋は捜索もしなかった。彼らの表情から、私達は彼らの捜査対象とは合致しないのだろうと思われた。
彼らが述べたところによると、こういったことは週に100回はしていることなのだという。
そして99回は何も出てこない。私は残り1%がどうなのかということを知らないし知りたいとも思わない。
45分後、彼らは夫と握手をして去っていった。そうして夫は私に電話をしてきて事の顛末を伝えた。
その時から私の恐怖は続いている。私は他にどんな検索をしたっけ?どんな検索をすれば無実だと思われるだろう、
どんな単語と一緒に検索したら有罪だと思われるのだろう?彼らは散らかった私の家を見てどう思っただろうか?
(なんてこと!合同テロ対策チームは汚れた皿がつまれたキッチンシンクを見たのだ)
私は心配で押しつぶされそうだった。要するに私たちは今こういう状況にある。
「私たちのプライバシーはどこにも期待できない。ヒラマメの料理法を検索しただけで監視リストに載ってしまうかもしれない」
あなたは誰かが自分のするどんな些細な事でも見ているとしたら、どのように振舞うだろうか。
私に言えることは将来圧力釜を買うときは、決してネットでは買わないということだ。
今は恐い、何が正しいのかわからない。
説明追記
サフォーク警察署を通じて、今回の捜索は私の夫が以前の職場で検索した内容が関係していると判明しました。
私たちが詮索を受けていた時点ではこのことに思い当たらず、私達の家から行われた検索だけが原因でこういう結果になったのだと信じていたのです。
嘘をついたり、出来事を都合よく改ざんしたわけではありません。あの時点でわかっていたことに基づいて前の文を書いたのです。
私達が知りえなかった事実は、昨日事実として起きたことを元にして書いた文章の、ある部分とは明らかに異なっていました。
私が前回書いた文章は私達が告げられた範囲で知りうる情報でした。何もでっち上げたわけではありません。
あなたが私と面識があれば、私がそんなことをしない人だとわかってくれるはずです。
もし誤解を与えてしまったならば、私は真実を書きたかったのだ、ということをわかってください。
そしてそれは私が10分前まで真実だと信じていたことなのです。私達が知りえなかった他の事情があったということです。
Thank you.