千葉県警松戸署は4日、電車内で女性の寝顔を撮影したとして、松戸市の会社員(46)を県迷惑防止条例違反(盗撮)の疑いで現行犯逮捕した。
発表によると、会社員は4日午後11時40~45分頃、JR常磐線北千住―松戸駅間を走行中の下り快速電車内で、右隣に座って寝ていた我孫子市の女子専門学校生(24)の顔など上半身を携帯電話のカメラで盗撮した疑い。専門学校生がシャッター音に気づき、会社員を取り押さえた。「かわいかったので撮ってしまった」と容疑を認めているという。
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.yomiuri.co.jp/national/news/20110905-OYT1T00316.htm
千葉県の県迷惑防止条例とは、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」かと思うが、同条例は盗撮自体を禁止していない(記事に県迷惑防止条例違反(盗撮)とあるのは疑問だが)。
おそらく、同条例3条2項のことだろう。
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(千葉県)
第三条 (略)
2 何人も、女子に対し、公共の場所又は公共の乗物において、女子を著しくしゆう恥させ、又は女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。男子に対するこれらの行為も、同様とする。
(以下略)
(罰則)
第十三条 第三条第二項、第十一条又は前条第一項の規定のいずれかに違反した者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 常習として第三条第二項、第十一条又は前条第一項の規定のいずれかに違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
したがって、寝顔の無断撮影につき「女子を著しくしゆう恥させ、又は女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動」であると千葉県警松戸署は判断したことになる。
特に撮影は要件ではない。あくまで「女子を著しくしゆう恥させ、又は女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動」にあたるか否かだ。
この点について、比較的最近の判例(最3小平成20年11月10日刑集62巻10号2853頁)がある。
北海道の迷惑防止条例に関する判決だが、「卑わいな言動」について判示している。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37011&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090203172548.pdf
asahi.com(朝日新聞社):無断でお尻撮影、ズボン姿でも「卑猥」 最高裁判断http://b.hatena.ne.jp/entry/www.asahi.com/national/update/1113/TKY200811130077.html
多数意見の判示するところによると、
憲法31条,39条違反をいう点については,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうと解され,同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような」と相まって,日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり,所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
つまり、「卑わいな言動」とは「社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」のことである。
もっとも、これは北海道迷惑防止条例に関する判決なので、ただちに千葉県条例の解釈もそうなるとは限らない。
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(北海道)
(卑わいな行為の禁止)
第2条の2 何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。
(2) 衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。
(3) 写真機等を使用して衣服等を透かして見る方法により、衣服等で覆われている身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。
(4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、公衆浴場、公衆便所、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態の人の姿態を、正当な理由がないのに、撮影してはならない。
http://www.reiki.pref.hokkaido.jp/d1w_savvy/HTML_TMP/svhtml-972975684.0.Mokuji.0.0.DATA.html
北海道は4号で包括指定としてるが、それでも北海道の条例の方が、卑わいな行為の内容について千葉県よりもまだ具体性があるのである。
また、判例の事件は、デパートでジーンズをはいた27歳女性の臀部を多数回にわたって撮影するというものであったが、これが卑わいな言動にあたるかについては裁判官でも意見が割れている。反対意見(田原睦夫)は、衣服の上から臀部を視る行為や、衣服を上から臀部を撮影する行為それ自体を卑わいか疑問だとする。
本件の寝顔の無断撮影はどう判断すべきだろうか。
千葉県条例の不明確さは置いて、仮に千葉県迷惑防止条例3条2項を上記判例と同様に解釈すると、「卑わいな言動」とは「社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」ということになる。
上記判例の反対意見でも衣服をはいた臀部に卑わい性があるのか疑問視してるが、今回は寝顔であり、より性的な意味合いがなく、卑わい性をみたさないのではないかという疑問が生じる。男性も「かわいかったので」と答えているが…
無断で顔を撮影されるのが迷惑としても、性的道義観念に反するのかというと少し違う気もする。
これすごい近くから撮ってるじゃん? 電車内で隣に座ってる人が隣の人を撮ると超アップだよね。十分「女子を著しくしゆう恥させ」ると思う。 しかし見知らぬ人から接写されるとか...
「卑わいな言動」については最近の判例がある http://anond.hatelabo.jp/20110905193612 判例に従えば、卑わいな言動とは「社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」のこと...
しかしさ。 判例で物を語る奴ってのは、最初の一回目をどう判断するんだろうか? 裁判で判決が出ていないからどちらとも判断ができない、とか言うのかね。 件の逮捕者が類似の案件...
「寝顔」じゃなくて「顔など上半身」だから、胸元とかも撮ってたんじゃないのかな。 胸元の盗撮なら「卑猥な言動」としてもまず差し支えないと思う。