はてなキーワード: 8ミリフィルムとは
以前あるサイトで、音楽を聞く際はミュージッククリップも見るよね、と発言したところ、非常に反応が鈍かった。
完全否定というわけではなく、何となく違うかなというもの。しかし、かつて渋谷系や90年代ミュージックを聴いてきた自分からは深夜番組で流れるPVは、それ込みで別世界へと自分を連れ出してくれる映画のようなものだった。
しばらくして、すっかりおじさんになった私は久しぶりに音楽の世界を思い出そうとしていた。今はSNSの時代であるからして、選択する音楽は自然とネット世代のものとなった。彼等の主戦場はYouTube。そこでは彼等が作った楽曲とイラスト等込みのPVが流される。このとき冒頭の彼等の反応が鈍かった理由がわかった。PVは80~90のような大げさなロケ地がなく、8ミリフィルムのわざとらしいかっこよさがなく、海岸線をピーコートを着た男女が走り抜けたりもしない。ちょんまげをつけた殿様が吹き矢で狙撃されるわけでもなかった。
イラストは可愛いものから面白いもの、拙いものまで多種あったが、あくまでコラボとして成立した結果であって、PVがアーティストたちを一方的に盛り上げるものではなかった。しかしそれは同時にアーティストを最大称揚するがゆえに、映像美に目が行き映像を作ったディレクターの名前が売れるという構造でもないような気がした。この場所はどこまでもインディーズであると自他共自認しているようでもあった。だから彼等は仕事して挑んだりコンテストに望む様相で挑んではないのだ。一旦完結してあとはSNSのユーザー数が増えるのを待つばかりである。大きなたまねぎの下に集まる気もあまりない。
それから数年たち、PVは再び金がかかるようになった。いや、今でも金はかかってないかもしれない。ロケ地ではなく、少なくとも機材の発達からか、かっこよく見栄えのするPVも見かけるようになったし、有名なアーティストだとイラストも目まぐるしく動くようになった。Live2Dなどの発展もあると思う。しかし未だ圧倒的に遊び足りない印象がある。いわばスタジオ撮りでそこそこの絵が取れたので良しというものだ。最近『ODD TAXI』で有名になった(これはなんとなく悔しい気持ちでいる反面、嬉しさもある)『スカート』はアニメ系PVでも面白いものが多い。まるでNHKの子供番組に迷い込んだようなものや、スカートのボーカルがメタ的に登場するものまである。
自分の好きだった音楽が異世界への扉を開いてくれるという空気が少しずつ復活しつつある。景気の良さ悪さにも関係があるように思えるが、もっとぶっ飛んでて面白く、かっこよいPVや可愛らしいもので少年に戻してほしいと思うのだ。