2023-11-23

家に帰れなかった

14時くらいに、出かけることにした。

部屋の細々したもの収納するカゴが欲しかたからだ。

寒いから黒のパーカーに黒のロングスカートタイツにブーツを履いた。髪は後ろに一つで束ねて、化粧をした。

マスカラは塗り方ひとつで目の形が激変する。研究研究を重ねて、新しい塗り方を試してみたらうまく行った。嬉しかった。

音楽を聴きながらニトリへ向かう。冬の空気は大好きだ。

ニトリで、ちょうどいいサイズ可愛いカゴを見つけた。セールで699円になっていた。ラッキーだ。今日はついている。

支払いをして、帰路につく。音楽は何にしよう。

最近テイラーが好きだ。冬だけど、Cruel Summerにした。

信号が赤だったので立ち止まる。たくさんの人がいる。

逆側の信号は青だから、多くの人が横断歩道を渡ってきた。

白いシャツの、細身の男が私の前を通り過ぎた。

通りすぎ間際に、私の顔を覗き込んで、ニヤリと笑ってそのまま去っていった。

通りすぎ間際に男に顔を覗き込まれる。

追い越し間際に振り返られて、男に顔を覗き込まれる。

すれ違い側に男に顔を覗き込まれる。

よくあることだ。もちろん気分は良くない。あまりにも失礼だ。

私は心の中で悪態をつきながら、青になった横断歩道を渡った。

お腹が空いている。コンビニサンドイッチでも買おうか。

家にキャベツと、鳥もも肉がある。それで炒め物でも作る?

そんなことを考えながら、家に向かって歩く。

曲はチャーリープースのAttentionになっていた。

ベースラインが大好きだ。

男が私を追い越していった。

白いシャツの細身の男。

さっきの男だ。

またも、私の顔を覗き込んで、ニヤリと笑った。

ザッと血の気が引いた。

男がさっき渡ってきた横断歩道はどう考えてもこの道にはつながらない。

偶然じゃない。

「こいつは私に用がある」

「こいつは私を不快にさせるという目的のもと、この行為を行なっている」

家はすぐそばだ。

ただ、家に向かえば向かうほど人通りの少ない道になっていく。

このまま真っ直ぐ帰れない。

私は一目散に来た道を引き返した。

一番近いコンビニはどこだっけ?一番メインの人通りが多い道はどこだっけ?

交番に行って、まともに相手してくれる?

奴を撒こうと、私はあらゆる曲がり角を曲がり、走り、あの男はいいかと、後ろも、前も、横も凝視した。

白い服を着ている男は全員そいつに見えた。そしてこの季節だ。コートパーカー羽織られたら、もう遠目からじゃ気づけない。

何度も曲がり角を曲がって、私は小さなスーパーに飛び込んだ。

安っぽい呑気なBGM。ごちゃっと並んだ野菜。肉。私が直面する恐怖と対角線上にいるような、何も知らない空間だ。

店内はガラス張りだから、店の奥に進んだ。お酒のコーナーだった。

ようやく少し冷静になる。

明るい時間帯に、普通の服をきて、買い物をして、普通に家に帰ろうとした。

それだけだった。

「家に帰る。」

これができなかった。

むしゃくしゃして、ワインボトルビールを買った。これ以上、もう何も考えたくなかった。

店を出る。後ろ、前、左右を確認する。鍵を握りしめた。

鍵を取り出す瞬間を見られたらまずい。「家が近いんだ」とバレてしまう。

イヤホンはつけなかった。何度も周囲を見渡し、私はマンションに飛び込んだ。

再度振り返り、急いでエレベーターに乗り込んだ。

疲れた。今、ワインを流し込みながらこれを書いている。

ナンパされて、しつこいから遠回りする。

交番の前をわざと通ろうと、遠回りする。人通りの多い道を、と遠回りする。

鍵を握りしめて、何度も後ろを振り返る。

時として、誰かと電話する振りをする。

時として、誰か友達に「あとつけられてるかも、やばい」とラインして、その子から緊迫した声の電話がかかってくる。

すれ違い側に、目をガン見されて顔を思い切り覗き込まれる。数百メートル以上、横で顔を覗き込まれて話しかけられ続ける。

最後に「ブス」「死ね」と吐き捨てられる。

腕を掴まれる。

目の前に立ちはだかれて、真っ直ぐ歩けない。

男性は、こういう経験がある?

見た目が気に入ったから、後をつけてやろう。話しかけてみよう。

声をかけたけど、つれない反応をされた。じゃあ暴言吐き捨てて嫌な気持ちにさせてやろう。

なぜ、そんな思考になる?

普通休日だった。普通に過ごしていた。これでも自衛だとか、なんとか言う?

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