IT営業といっても自社で開発していたわけでなくプログラマーとかテスターを顧客の会社に常駐させるだけの楽な仕事だった。
ある日、大口顧客の担当者からちょっと来てほしいと連絡があった。
僕は技術者ではないので最初はログを見ても内容がよくわからなかった。
横から担当者に「御社の社員達が使っていた私用アプリのログですよ」と言われてやっと事態が飲み込めた。
うちの会社の社員達が常駐先のPCに勝手に私用アプリをインストールし、仕事中に遊んでいたのだ。
ログは膨大な量で日時も細かく記録されていた。
その日時はほとんど仕事をしないで遊んでいたと言われても仕方のない間隔でしかも長期間だった。
その担当社員の部署に常駐している社員達だけでなく、別部署に常駐している複数の社員もやっていた。
とても営業一人で対応できる内容ではなかった。とりあえずのお詫びをし、後日改めてお詫びに伺うことにさせてもらった。
ログをコピーさせて欲しいとお願いしたが断られた。ログは別部門から提供されたもので社外秘の情報が含まれるので渡せないと言われた。
私用アプリで遊んでいた社員達を常駐先での業務終了後にうちの会社に呼び出し、社長を交えて話をした。
社員達は遊んでいた事実は認めたものの、1人の社員がプライバシーがどうのこうの言い出した。
つまり私用アプリのログを勝手に取るのはプライバシーの侵害ではないかと。
それを聞いて腸が煮えくり返るのを感じた。あんなことをしておいてプライバシー?
僕がそれを口に出す前に社長の怒鳴り声が響いた。
温厚な社長があそこまで怒るとは思わなかった。後から思えば社長はあの時点で会社がどうなるか予想できていたんだろう。
社員達にはアプリをアンインストールしてちゃんと仕事をするように指示した。
なぜすぐにクビにしないんだ?と思う人がいると思うけど常駐先での引き継ぎが済むまではクビを匂わせることもできない。
クビだと聞いてもし常駐先をバックレられたら取り返しがつかなくなるから。
僕と社長がお詫びに伺うと常駐先は各部署の担当者とその上司達が出てきた。
遊んでいた人達には引き継ぎが済み次第、お引取り願いたいと言われた。
そこまでは想定どおりで僕は準備しておいた「再発防止策」と提案する代替技術者の資料をお渡しした。
しかし、代替の技術者は既に手配済なのでいらない、懸命に作成した再発防止策も一瞥されただけで説明などできる雰囲気ではなかった。
遊んでいた技術者達は常駐先から放り出された順にクビだからどうでもいい。
問題は他の社員達だ。うちの会社はほとんどの社員をここに常駐させていた。
もしこの事件によって会社ごと切られたら会社が立ち行かなくなってしまう。
翌日から楽だった僕の仕事は新規開拓というつらい仕事に変わってしまった。
それまでも新規開拓はやっていたものの大口顧客の存在があったので正直、真面目にやったことなんてなかった。
新規開拓に苦戦している間にプロジェクト終了のたびに待機社員が増えていった。
以前ならプロジェクト終了しても切れ目なく別部署の仕事を紹介してくれていたのに。
顧客担当者達はみな「お願いできる仕事がありません」とは言うものの会社ごと切られたのは明白だった。
僕は社長がもう給料を払えないと言った時に退職した。もちろん退職金なんてなかった。
その私用アプリのアクセス先はdaishonin.hatelabo.jpであった
遊んでいても問題ないほどぬるい業務内容だったんだろう
だからグラブルの古戦場はやめとけとあれほど