2020-07-27

彼氏の夢絵を描いている

彼氏は「夢絵」をたぶん知らない。

ここでいう夢絵とは、二次創作一種だ。

二次元キャラアイドルなどと「自分」(見た人がそれぞれ自分になぞらえて妄想するためのモブキャラ)の交流やいちゃいちゃを描くものだ。「自分」は原作には登場しないオリジナルキャラクターで、極端に特徴が薄かったり、果ては目や口が省略されたのっぺらぼうだったりする。

私は、普段は夢絵や夢小説を好む「夢女子」ではない。ここから女子文化について大変失礼なことを書くので、気を悪くなさったら申し訳ない。

私が夢絵を見るとき原作に出てこない顔のない「自分」をねじ込んだ作品に、正直異物感を覚えることがあった。キラキラに書き込まれ推しと、粗雑な「自分」の対比に、ある種の卑屈さを感じたのだ。

推しと付き合いたいと思うなら、いっそ清々しく「ぼくがかんがえたさいきょうのガンダム」を描いてほしいと私は思った。推し釣り合うような美人とか、平凡だけどほっこりと可愛らしい彼女推しがそのキャラクターを愛するまでのストーリーを図解されて、私は納得したかった。

ところで彼氏はいわば公式で私の彼氏だ。同じ世界線で生き、2年前から公式でつきあっている。

今年の1月から遠距離恋愛になったが、間の悪いことに、ちょうどコロナウイルス流行が始まってしまった。月に一度会う予定が、今に至るまで3回しか会っていない。当然、今まで行っていたいちゃいちゃ活動も滞っている。

私は決して最初から夢絵を描こうとしたわけではない。ふと彼氏似顔絵を描いてみたくなった。面白く書けたら彼氏に見せようと思い、好奇心で実行に移した。

彼氏の顔、見上げた時の顔、無精髭の顎のライン、ふざけてしゃくれる顔を描いた。気づいたら、膝を曲げて、上から覗き込むようにキスしてくれる彼氏の絵を描いていた。ここ2年、親の顔より見た顔だ。我ながらうまく特徴を捉えた夢絵が描けていた。

ペンが止まらない。なにしろ彼氏の顔を描くのが楽しい個性的な顔立ちで、表情が豊かなかわいい人だ。目元の表現をあれこれ工夫していると、だんだん彼氏が目の前にいるような気持ちになり、ぽーっとしてくる。

彼氏匂いとか、硬くて寝心地が悪い胸板が恋しい。彼氏微妙に楽しくなっちゃってるちんちんの上に座りたい。(膝の上よりもちんちんの上の方が興奮するのだ)

前述の通り、私と彼氏は同じ世界登場人物であり、公式でつきあっている。だから中の人物同士の二次創作と言ってもいいのだが、夢絵と表現したのは、自分の顔を描かなかったからだ。彼氏の顔は覚えている限り詳細に描くが、例え自分似顔絵であっても、彼氏の膝の上で抱きしめられている人の顔を描きたくない。激しい嫉妬である

ベッドに腰掛け彼氏ちんちんの上に座り、まっすぐな肩に顔を埋める絵を描き、私はついに夢絵を体得した。

夢絵は作品ではなく行為だ。描くこと自体彼氏との交流であり、いちゃいちゃだった。完成も公開もしなくていい。二次創作を描くときに頭をよぎるいいねの数、気にもならない。これは召喚だ。私が夢絵を描くとき彼氏次元の向こうではなく、ライン電話越しでもなく、たしかにここに来る。夢絵に顔は要らない。そもそも私の顔はこんな位置にないからだ。私はここにいて、これを描いている間ずっと、彼氏に抱きしめられているのは私だ。

私の彼氏は聞き上手なので、私は日々の発見彼氏に伝える。彼氏は私の話を興味深く聞き、きっと素敵な茶々を入れてくれるだろう。

しかラインを開いたところで気づいたが、これちょっと気持ち悪くない?

欲しい気持ちが成長し過ぎて万能の君の幻を僕の中に作ってしまった。愛することを忘れないように、常に気をつけたいと思う。

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