西ヨーロッパを旅していると、町のいたるところに小さくあいまいな飲食店があることに気付く。
フランスにはカフェやタバ(tabac)があり、イギリスにはパブがあり、スペインにはバルがある。
東京で似たような機能を持つ店を探すと、サイゼリヤがあることに最近ようやく気付いた。
スタバやドトールなどのチェーン店系カフェでもなく、居酒屋でもなく、おしゃれな独立系カフェでもなく、サイゼリヤである。
まず、サイゼリヤの食べ物は安いが、極端にジャンクフードの味はしない。来ようと思えば週に何回も来ることができる。ワインも安いので、つまみ類を何度もオーダーしながらゆっくりすることができる。
サイゼリヤの店舗は極端に機能分化しておらず、いろいろなことをやっている客を基本的に黙認している。
スタバやドトールなどのチェーン店系のカフェでは、アルコール類が原則として出ない。コーヒーやお茶を飲んで、サンドイッチでも食べて、おしゃべりかひと仕事でもしたら、あんまり長居はせずに帰ってくださいねというように、わりと機能が分化しているように感じられる。
最近では、吉野家、松屋、王将などのチェーン店系の飲食店がアルコール類を出すようになったが、こうした店舗はもともとゆっくりできないような造りになっている。
独立系のカフェはきれいな店舗に座り心地のよいソファーがあったりするが、食べ物と飲み物の単価はチェーン店系より高い。また、回転率を上げるためにどうしても客をコントロールしたがる傾向があるように思う。口には出さなくても、そのような視線を感じて、やや居心地が悪いことがある。
一方、サイゼリヤでは、オーダーを一度とると基本的に放置してくれる。
セロリを食べながらワインを飲んでいる自分の隣で、食事の後にドリンクバーでくつろいでいる親子連れがいる。勉強している学生風のカップル、お酒を飲みながら食事しているサラリーマン風のグループ、甘いものを食べながら談笑している年配のグループがいる。
最初のころは、なんだかごちゃごちゃしたファミレスで、やだなあと思っていた。でもよく周りを見ると、さまざまな年齢層の客が、てんでばらばらなことをやって、ずっといるという、この店のまったりした雰囲気と多様な機能は、西ヨーロッパの小さくあいまいな飲食店にいちばんよく似ていると思う。