30年ぐらい前の夏休みの思い出。幽霊に会ったのかも、と思った話し。
怖くは無い。あれはなんだったのか? みたいな。
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金持ちの子の家にはファミコンが入り始めていた頃だったと思う。けど、俺の周りのガキどもは持ってない組で、相変わらず外遊び派。
それにふさわしく、ここはド田舎。周りは田んぼと山ばっかり。西日本、とだけ言っておく。
で、その時のグループに、タカヒロ(仮)というのがいた。俺と特に仲が良かったヤツ。
このタカヒロがある日、「ザリガニとエビがたくさん捕れる場所知ってる!」とか言い出した。聞いてみると、少し遠い池らしい。俺はそんな池は知らなかった。とは言え、「おおいいね〜!」なんて言いながら、ちょっと遠征してみることに。なんせ夏休みですから。
今だからわかるんだけど、あれは多分古墳だわ。こんもりとしたちいさな山があって、その周りが掘?みたいになっているところ。タカヒロは池って呼んだけど、あれは堀。
教科書に載っている「○○天皇陵」みたいなきちんとしたやつではない。宮内庁が管理しているのかどうかよくわかんないけど、何か古びた看板があったのは覚えている。いい天気なのに木が茂ってそこだけ暗くなってて。その中に古びた木の板が立っていて、説明書きが書いてあったような記憶。曖昧だけど、そんな光景だけアタマに浮かんでくる。
ま、そんなことは気にせず、俺達はその堀でザリガニ釣りをしたりカエルを探したりして遊んだ。
その最中、ものすごい大きい魚を見たりね。記憶では、自分より大きかった。多分脳がねつ造しているけど。コイかな。緑色でちょっとトロっとした感じの水の中に、黒々としたシルエットが悠然と泳いでた。ヒザまで水につかった俺たちのすぐヨコを通り過ぎていって、思わず俺もタカヒロも怖くなって後ずさったりして。まああり得ないぐらい大きかった。
堀の角では、船の残骸を見つけた。木で作った、小さな船。ほとんど水の中に埋もれている。公園の手こぎキコキコボートより少し大きいイメージ。今だったらアマゾンの漁民が使っていそうな、木で組んだ船。興奮してふたりでその周りを攻めた。……網を突っ込んだりザリガニ釣りしたり、ってことだけど。そういう障害物があるところって、ザリガニとかエビとかが多いんだよな。
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そんなことをしていたら、いつの間にか知らないオジイがすぐ後ろにいた。それまで俺たちだけで、人と言えば遠くに陽炎でゆがんだ軽トラが見えるぐらいだったのに。
なんか汚い服を着て、こっちを見てた。とがめる感じでもなく、ただ立っていた。田舎の大人は、子供がいたら声を掛けるよね。でもなんも言わない。うんでもすんでもない。
とは言え、ほら、子どもって、知らない大人のことって気にしなかったりするじゃん。誰かいても、自分が気になっているものしか見えないというか。そんな感じで、急に現れたときはちょっとビクっとしたけど、すぐに遊びに戻った。
まあそんなこんなで、タカヒロが言うとおり、確かにエビやザリガニが大漁だった。満足してみんなで引き上げた。
「次は池の真ん中の島に上陸しよう」とか言いながら。……池じゃねえし堀だし。しかもあの島は墓だし(笑)。
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問題が起こったのは、次の日。
もう一回あの池に行こうという。でもなんでタカヒロは暗い顔してるのか。
どうやら親に怒られたらしい。あそこで遊んじゃいかん、もう一回行って謝ってこいって。
「え? なんで謝らなきゃいかんの? 誰に?」つー話しだよね。
タカヒロは、昨日の夜にあの堀のことを親に話したらしい。スゲーでかいコイを見た、自分と同じぐらいの大きさだった、なんて言ったんだろうと思う。
父親はその場所があの古墳だと判ると、血相を変えて怒り出したらしい。それであの池の中の島に謝ってこい、と言われたようだ。
で、そうは言わないけど、ひとりじゃ心細いから俺の所に来たんだと思う。
よくわかんないんだけど、まあ別に用事も無いし退屈してたし、ふたりでもう一度あの池に行った。
昨日の船のあたりに着くなり、タカヒロは神社にするみたいに手を合わせてブツブツと何か言ってる。で、俺に「お前も謝れ」とまあまあの剣幕で言うんだな。
俺もよくわかんないから理由を聞こうとするやん。
そうしたらタカヒロも段々ヒートアップしてきて「いいから謝れ!!」みたいな勢い。
俺もそれに押されて「お、おう……」って感じで謝った。手を合わせて、ごめんなさいごめんなさい、って心の中で言った。
で、タカヒロもそれで満足したらしくて、「帰るぞ」って素っ気なく言う。
「え、なんなん? なんだったん?」と聞いても、「もうあそこで遊んじゃいかん」としか言わない。俺もだんだん腹が立ってきて、タカヒロの服を掴んで問い詰めようとした時。
視界の隅に、何か写って。
ふと島の方を見ると、昨日のあのオジイが島のほとりに立っていた。50メートルは離れていたから、本当にあのオジイだったかはわからん。けど、オジイ、と思った。こっちを向いている。
それで急に怖くなって、何も言わずに急いで帰った。
というのは、あの堀には、島に渡れるようなところはなかったハズなんだよね。昨日一周したから判ってる。ボートとか橋とか、無かった。有ったら俺たちも島に渡っていたと思うし。
「なのになんであそこに居るの? もしかしてユウレイ的な何か?」みたいなことを一瞬にして思ったんだど思う。それで、怖くなった。
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ユウレイとは思いがたいし、別に何かあったわけでも無いし、その後も無い。謝りにいかなかったやつらにも何もなかったと思う。あるわけない。
あのオジイは何かの調査中(ローカルな郷土史家とか、さ)だったのだろうと考えるのが普通だろう。
タカヒロのお父上が言ったことも、単に他人様の墓で遊ぶのはけしからん、ぐらいのことだったと想像する。
ただ、子どもの頃、もしかしたらユウレイに出会ったのかもと思った、というそれだけ話し。
程なく俺は引っ越してしまって、それ以来あそこへは行っていない。その後この事案についてタカヒロと詳しく話した覚えも無い。
この夏休みに、30年ぶりにあそこ行こうと思う。あの古墳がなんだったのか見てくる。今だったらあの看板も読めるだろう。
タカヒロ本人は、成人してから事故で亡くなったと聞いている。だからお父上がもし御健在だったら、なぜ謝りに行かせたのか聞いてみようと思う。もう、覚えてないかな。