次のようなシーンを想像してみてほしい。
.「今どんなカード持ってる?次にどんなカードを出すの?次に何をするの?」
この質問にまともに答えたらアホだというのは誰でもわかる。
すべての自分が取りうる作戦を相手に教え、意図も何もかもさらけ出しながらゲームをプレイしては、恐らく勝てないからだ。
だから普通は、手札は隠してプレイするものだし、自分の意図をチームメンバー以外に事細かに説明したりはしない。
ところが、これが現実のゲームになると、とたんに事情が違ってくる。
あなたの強みは何なのか、何をしたいと思っているのか、そのために次にとる打ち手は何か・・・
逆説的だが「ゲームのような気軽な場とは違って、真剣な場では」これらは割と気軽に打ち明けられる。
もちろん、自分のやり方や方向I性をある程度開示することが求められる局面はいくつかある。
相手に投資して貰いたいときや、何か協力をして貰うときなどは、納得・共感して貰うために、地に足のついた、それでいて夢のある
しかし、特に相手が明確な競争相手である場合や、直接の競争相手ではなくても何らかの不利益を与えそうな場合には、戦略を事細かに語らない方がいい局面がいくつもある、と思う。
これはズルでもなんでもない。プレイヤーに与えられた正当な権利だ。
あなたが思い描いた夢を現実にしたいという本気度が高ければ高いほど、それを邪魔する可能性のあることは極力排除すべきだ。
先ほど、納得・共感して貰うためにストーリーを語ることが重要と書いた。
が、「ストーリー」はじつは「戦略」とは違う。ストーリーはフィクションだ。
仕事をしていて経験上感じるのは、多くの賢い-ずる賢いという人もいるかも知れないが-人間は、自分の本当の戦略や意図を隠して、協力や投資を引き出すために脚色したストーリーを語るのがうまい。
耳ざわりのよい、納得感があるワクワクするような「物語」の語り手なのだ。
アツプルはうまい。彼らは上場企業でありながら、戦略を語らない。
iPodが出来た時点で、appleがこれだけ大きなソフトウェアとハードウエアの囲い込みを目指していると気づき、適切な対抗手段をとれた企業は存在しなかった。戦略がわからなかったからだ。
彼らが語るのは、iPod^iPhoneなどの製品だ。戦争でいったら、武器がいかに優れているかを紹介しているだけだ。その武器でどこに攻め入ろうとしているのか、最終的に何をしようとしているのか、明らかでない。
彼らには既に多くの投資家もいるし、莫大な現金を持っているし、製品が売れていることを誰もが知っているから、戦略を語る必要すらないのだ。
普通の企業や、苦境に陥った企業が、今後の戦略を説明し投資家に納得して貰うことに最大の労力を払っているのとは大きな違いだ。
優秀な起業家は、非常に夢のあるストーリーを語り、消費者や投資家を共感・納得させお金を出してもらい、それを原資に巧みに本当にやりたいことを実現させていくものだ。
そして一方で、優秀な投資家・消費者は、その「物語」のどこまでがほんとうの戦略で、どこまでがデコレーションなのかを、うまく見抜いていく必要がある。
正直まどろっこしいのだが、ルール内で行われる限り、これらはビジネス・投資の世界で日常茶飯事に行われていることだし、やっている当人すらこれに気づいていないケースがある。
個人的にはこうした語り手的なプレイヤーを非常に尊敬している。自分にはなかなか、本当の戦略とそうでない戦略を分けて語るのは、ルール内の信義的にも難しいことだし、語るべき相手とそうでもない相手をより分けるのにも結構長い時間を要する。というかそもそも、戦略を立てるのも割と大変だ。
世の中優秀な人ばかりではないから、凡人は余計に気をつける必要があるのだと思う。
その相手に今、自分の手持ちのカードや行動をばらしていいのか。もしくは、相手が語っているその夢のある話は、どれぐらい相手の本心なのか。戦略を聞き出してもしかたがない。それが本当なのかどうかは時間がたたねばわからないし、本当に協力して貰いたい時は相手側から戦略を開示してくるものだ。
こうしたことをしっかりと見極めながら生きる力が、人間にはいつも求められてきた。
現代は、よりそれがオブラートに包まれて、見えなくなってしまっているけれど、そんなルールを分かっている人が勝利しているゲームなのだと思う。