私の地域の飲食店の大体の時給相場が850円前後のところ、1200円程度。
時給400円弱の差は大きい。
たくさん稼ぐぞ、と意気揚々と登録に向かった。
しかし、高い時給につられて、深く考えずに選んだのは、間違いだった。
とにかく、全てが杜撰。
派遣元のオフィスで一時間弱の簡単すぎる研修を受けたら、次はすぐに現場。
派遣先のレストランの社員はイライラが募って私達に当たり散らすし、マネージャーはすぐに暴言を吐くし、お客様がにこやかに食事をしているビュッフェレストランの裏では阿鼻叫喚の地獄絵図。
「使えないバカをよこすなよ!研修でなにやってたんだ!」
たった一時間、教則DVDを見た後に、数分間お盆を持ってウロウロしただけです。
「お前らも仕事がわかってないなら聞け!」
聞いたら聞いたで「忙しいんだから、そんくらい自分で判断しろ!」とおっしゃるのに、一体どうすれば良いんですか。
「笑顔がない!」
暴言を吐かれ続けているなかでどうやって笑えと。
派遣先は、「即戦力」を求めて配膳の派遣人材サービスに依頼しているのだから、ただでさえ人員が不足しているときに使えない新人が来たら腹が立つのもわかる。
けれどもけれども私達だって、バタバタと忙しい中で長時間歩きまわるのに向かないパンプスに足を痛めながら、理不尽な罵声に耐えて休みなしで働き続けた6時間は苦痛でしかなかった。
思い出したくもないような、身体的なことや経歴的なことに関する暴言も吐かれたし、トイレにも行かせてもらえない、地獄のような一日だった。
何度も吐き気がこみあげて、必死で笑顔を作りながらもどんどん目が死んでいった。
無理だ、と思った。
自分が仕事ができないことに関して叱られるのは仕方がないと思う。
甘んじて受ける気でいた。
けれども、八つ当たりのように行き掛けに使えない、役立たず、時給泥棒と罵られながら目まぐるしい6時間を過ごすのは耐え難かった。
指導ではない、単なる虐めでしかなく、私と一緒に入った子たちは退勤後に更衣室で「もうこんな思いしたくない、辞める」泣いた。
アルバイトとはいえ、入ってすぐに仕事を辞める私達は確かに無責任かもしれない。
けれども、アルバイトだから、派遣だからと言って、体の良い八つ当たり道具のように扱われるのは耐えられない。
若いから、経験が浅いから、と言って虐げられるのを黙って受け入れていられるわけがない。
不当な思いをしても、耐えて働き続けることが誠実さだと言うのならば、べつに「ゆとり」だのなんだのと罵られても構わない。
1200円の時給で売り渡せるほど、私の矜持は安くないと思っている。
辞めるにあたって今回の現場について考えてみたが、問題は派遣システムにもあるのではないかと思う。
高い時給で釣っておいて、派遣先に体裁を整えるためのおざなりの研修を位置時間程度で行って、後は人数さえ合えば「働きながら覚えていけばいいから」などとまるめこんで新人を現場に放り込む。
当然、現場は期待した即戦力が来ないことで人員に対する仕事量が上手く噛み合わなくて忙しくなり、社員の機嫌は悪くなり、現場の雰囲気も悪くなる。
新人も仕事を覚える余裕もないまま、ただ忙しい中で当り散らされ、去っていく。
もうこうなったら悪循環だ。
派遣先は最初から派遣アルバイトは使えないものだ、と決め込んで虐めにかかるし、新人は虐められて去り続けるので育たない。
結果、どちらに対しても負の結果しか生まないことになるのだ。
とは言え、いくら仕事が忙しくても、人に言って良いことと悪いことの区別のつかないあのマネージャーに対しては、未だに腹が立っている。
あの口の悪いハゲは、できる限り速やかに痛い思いをして死ねばいい、そのほうが社会のためになる、と思う。
あの日の勤務の後、ストレスで夜中に吐いた。
忘れようと思っても、未だに思い出して突然涙がとまらなくなることもあるし、当分は同じようなタイプのレストランで食事はできないと思う。
勿論、今後一生私はあの店を使うつもりはないし、派遣会社とは契約解除するつもりだ。
辛い思いばかりだったが、今回の経験で、高いホスピタリティをうたう施設ほど、裏で従業員に負担がかかっているかもしれない、ということに思い当たった。