はてなキーワード: 浪人生とは
すみません。私も大卒ですが、絶対に言える自信はないです。
でも、言えないからといって、なにか問題あるかな?
確かに、最低限自分の出身地は言えないとヤバイし、その周辺も言えないといけないかな。
でも、あなたの考え方には賛同できかねる。
「勝ってる」
浪人生が、なにを根拠にこんな図々しいこと言えるの?
ふん!
新型インフルエンザ対策として各都道府県で感染者が1人でも発見された場合、幼稚園・保育園・小学校・中学校・高校・大学のすべてを休校にする案があるらしいね。
こういう部分は日本は本当に優秀だ。
中には、「受験が控えているのに困る」「小学生の子供を1人で留守番させたくない」など意見があるようだけど、そういう人たちはきっとインフルエンザについて勉強したことがないんだろうな。
新種ウィルスがどれほど危険なものかわかっていない。てか、学者の方々でさえ予想はできても確実性がないくらいに未知なものだからなおさら。
確かに、都道府県の中で一斉に休校にするよりは感染者が出た地域から半径何km圏内を対象に休校としたほうがよりいいのかもしれないが、そういうのは各自治体が対応すればいい話。
東京など大都市は交通手段が電車だから別の問題も出てくるけど、まずは大枠を法整備して細かいところは都道府県の各議会で話を詰めていけばそれなりの形ができるんじゃないかな。
何もしないで、対応が遅れて感染者が増えてますってな状態になるほうがよほど危険。
新型インフルエンザに感染すると現状ではワクチンがないんだから死ぬ可能性だってかなり高い。
そういった部分も考慮してそれぞれが協力的にならないとどうしようもない。
自然発生するものである以上は、人間は無力だし後手に回るしかないのは当然。
それで受験がうまくいかなかったとかなったとしても、それは不運な話で済むことだ。
だって過去にさかのぼってみれば、受験なんかより就職氷河期で高校・専門・大学を卒業した新卒の人が無職状態になった時代だってあったんだから、就職できないことに比べたら受験失敗なんて小さなことだと思うけどなあ・・・
ほら、今だって世界経済が駄目で内定が決まってた大学生たちが次々に就職取り消されている状況でしょ?
学生or浪人生でいるうちはまだいいほうだというのを親たちは子供に教えておいたほうがよさそう。
あ、でも会社はどうするんだろう。
大企業で1つのビルに数百人単位の社員がいる場所で、新型インフルエンザに感染していた人がいましたとなったら・・・・・
そこは各企業の偉い人たちが考えることになるのかな?
なるほど。
国立がいいというのは,おそらく学費的なことだよね?
あんまり知られてないんだけど,私立でも学費免除制度とかがあるよ。
もちろん,両親の収入によってだけど…。
それから,国立でも後期は3科目っていうところもあるのは知ってる?
あと,公立だと都留文科大学みたいに中期で3科目というところもあるよ。
たぶんなんだけど。
勉強方法があんまり上手じゃないのかもしれないね。
努力が空回りしているのかも…。
俺が浪人してたとき,予備校の授業はあんまり役に立たなかったよ。
1割くらいしか本当にいい授業はなかった。
だから,俺はいい授業だと思った英語しかでないで,大半は自習室で参考書で勉強していた。
周りはけっこう真面目に授業には出てる人が多かったけど,あんまり効果なかったみたい。
あと,1日まったく勉強しない日は作らない方がいいよ!
もちろん,1日遊びたいって日は週1回くらいはあってもいいと思うけど。
英語の単語とかの暗記系は毎日やらないと覚えられない。
そして,決して楽しくはない……。
毎日2ページは単語をやるとか決めたら,辛くても守るしかないなぁ。
浪人生は勉強するのが仕事だし,勉強さえしてればいいんだからある意味で楽は楽だった。
(時たま将来が不安になったけどね…)
カウンター6席だけの小さな喫茶店で、1番左端のカウンターに座っている客が騒ぎだした。「頼んだ物と違うじゃないか。これはコーヒーか?」わざとらしく嫌みを言う客に、左から4番目の客が、「わざわざ嫌みをいう必要なんてあるのかよ?オーダーが間違ってるので、変えてくれといえば済むだけの話だろ?」と冷たい言葉で諭す。「なんだと!」と顔を真っ赤にして怒り狂う1番端の客に油を注ぐように、4番目の客が「日常のストレスを店員に向けるなよ、この暇人!」と大声で返す。ほぼ満席の店に緊張感が走る。
「ちょっといい加減にしてくださいよ」左から三番目の浪人生風の客が、ずれた眼鏡上げながら鋭い口調でいう。「明日、受験日なんですよ。集中するために喫茶店に入ったのに、大騒ぎされちゃたまらないですよ」。申し訳なさそうに前をむき直す1番目の客。一方で、だったら店からでろよと捨て台詞を吐く隣の4番目の男を、3番目の青年は激しくにらみつけながら「あんたが後から入ってきたんだろーよ!」と怒鳴る。
収拾のつかなくなった店内の端、5,6番目の席に座る主婦らしき客は「なんだか騒がしいわね、出ましょうか」とあたふたし始めると、その隣にいた4番目の男は「いや、ちょっとまてすぐ済むから」と牽制し、学生に「おまえ名前はなんて言うんだよ。俺にそんな口の聞き方してただで済むと思うなよ」と食い入る。貧弱な身体をした3番目の席に座る学生はおそれをなし、涙目で「狭間、はざまです・・」と名を継げると、その場で目を伏せてしまった。「ひどいわねー」とキャピキャピ言い出す主婦達。
すると、二人の主婦のうち6番目に座っている一人が「あれ?ユタカ?ユタカなにやってんのよ」と言い始めた。学生は助かった!と思った。「あれ、母さん、何やってんの」と、とわざととぼけたふりをして母の方を見て立ち上がった。するともう一人の主婦、5番目の女性が、「あれ、あんた息子ってアメリカにいるんじゃないの?」と耳打ちする。「そうよ」と応える6番目の友人をみながら、5番目の主婦は目を白黒させている。しかしながら、4番目の口うるさい男も、母がいるとなれば、下手に手はだせず、おとなしくなる。
無言を続けるマスターに、またもやしつこく1番目の男が「ところで、マスター、コーヒー出してくれるのか」と言い始める。4番目も男は「まだ、そんなこといってんのか・・・」と怒鳴ろうとしたとき、喫茶店のドアが開き、カタギの仕事をやっているとは到底思えない巨体の男が入ってきて、2番目の席に隣の客を押しのけて座った。3番目の学生に「悪いね」と気遣う姿から、そんなに悪い男ではないらしい。
2番目の怖そうな男は、マスターに向かって英語で何か話し出した。語学科を受験する3番目の学生は、その内容が聞き取れたらしく、縮こまりながら「え、その人、○○国の王様なんですか?」と言う。騒然となる店内。テレビで連日報道されていて、大沢に担っている、日本に来てから行方不明となっていた ○○国王本人が、カウンターに立っているのだ。
「え、日本語わからないのか。どうりで、何度オーダーしても間違ったものを出してくると思った」と苦笑いをする1番の男性。間髪入れずにカメラのフラッシュが何度もたかれる。4番目のうるさい男は、報道カメラマンだった。「やった!スクープだ」この喫茶店を隠れ蓑にしているところを知ったこの男は、客を追い出してから根掘り葉掘り聞いて、特ダネを得ようとしていたのだ。
そんなカメラマンのフィルムを抜き取りカウンターを飛び越えたのは、5番目の主婦。「インターポールです。○○国から逮捕状が出ています。報道は控えて」とマスターを一種にして取り押さえ、拳銃を2番目の男に向けた。展開に驚きを隠せなかった6番目の主婦は、こっそり一部始終を携帯電話で撮影。自分で入れたコーヒーをすすりながら、「やったわ、特ダネ」とつぶやいた。
6人の怒れる日本人?
「完璧な答案などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」
僕が浪人生のころ偶然に知り合ったある予備校教師は僕に向ってそう言った。
僕がその本当の意味を理解できたのはずっと後のことだったが、
少なくともそれをある種のなぐさめとしてとることも可能であった。
しかし、それでもやはり何か問題を解くという段になると、いつも絶望的な気分に襲われることになった。
僕に解くことのできる領域はあまりにも限られたものだったからだ。
例えばマーク模試は解けたとしても、記述式模試では何も書けないかもしれない。そういうことだ。
8年間、僕はそうしたジレンマを抱き続け浪人した。八浪、長い歳月だ。
もちろん、あらゆる手段で志望校に合格しようとする姿勢を持ち続ける限り、浪人することはそれほどの苦痛ではない。
これは一般論だ。
半生というには人生短く見積もりすぎか。しかし「四半生」なんて単語もないだろうからこのタイトルで行こう。
基本的にはとてもparticularな話ではあるんだけど、この世代がみな避けられなかった共通体験的なものも入っているはずだから、そこは誰かのなんかの役に立つかもと期待して筆を進める。
幼稚園時代、声が大きかったという理由で劇の主役に抜擢され、市民会館のホールで大声で叫んでたことが真っ先に思い出される。
(親から言わせると元気さだけがとりえで役者としては・・・だったらしい)
家から歩いて3分のその幼稚園は仏教系だったので、春になるとお釈迦様の誕生日を盛大に祝ったりしてたが、そもそも「お釈迦様」が誰なのかその頃はわからなかったし、ほとんど毎日あった正座がつらかった。
年長の最後の頃に、天皇が死んだということで園児全員を集めて黙祷だかなんだかやっていたけれど、その意味もあまりわからなかった。
小学校に入ると、学区の端だったので、40分近く歩くことになり、慣れるのに苦労した。そもそも通学路が遠回りのルートだったので、よく「通学路破り(つうやぶと呼んでいた)」をしたものだった。
その小学校はクラス替えが2年ごとだった。最初の2年間一緒のクラスだったSは問題児で、いつも喧嘩を仕掛け、何度か巻き込まれたし、ある時には彫刻刀を向けてきたりもした。漏れ聞くところによると彼の家庭状況は悲惨だったらしい。ただ担任の女性教師は毎回教室全体に響き渡るような声で彼を叱りつけていた。ある時彼女が「これがストレス発散の方法なの」と漏らしたとき、小学生にありがちな先生への絶対的な信仰を打ち捨てるに至った。結局彼は3年の途中でいなくなり、その後の消息は知らない。
ドラクエ4は初めてリアルタイムの発売日に買えたドラクエで、喜びのあまりお腹が痛くなって、市民病院に担ぎ込まれるほどだった。
だけどやってみると「3のがおもしろかったかな」とか思った。
3,4年の頃の記憶はあまりない。そもそもその頃年子の妹ができて、母の代わりに家事やらなにやらを手伝わなければならず、てんてこ舞いだったことくらいしか覚えていない。
小学校最終学年、それも年が明けてから。夜中に大きい地震があった。部屋に飾っていたガンプラが何体か自殺した。当初は兵庫県淡路地震とか呼ばれていた気がする。朝テレビを家族で注視していたが、「箪笥が倒れてきて老人が怪我をした」とか微笑ましい(と言っては不謹慎か)レベルの被害しか聞こえてこなかったので、それほどひどくなかったのだと安心していた。しかし時間が経つに連れて死者数は増え、瓦礫の映像や崩れた高速道路の映像を見るにつけ、その深刻さに目を覆うしかなかった。
そして卒業式の頃に、地下鉄サリン事件が起こる。鳥山明の似顔絵みたいな人たちがたくさんいるのを見て、逆になんだか現実味を感じなかった。
でもって中学。またも学区の端だったが、今度はさらに遠くて、多分4kmくらいあったと思う。だけど中学は念願のチャリ通で、ヘルメットが蒸れる以外は快適だった。
クラブ活動の上下関係はかなり理不尽で、しかもスポーツが苦手なほうだったから、かなり耐えがたかった。夏暑いし。3年間で褒められたのが「お前はパスがうまい」だけっていうのも今思えばどうかと思う。「○○君ってやさしいよねー」くらいの意味だろう。
中3のとき、サカキバラ事件。犯人は中年の男だとか医師じゃないか(殺害方法から)とか、南京錠の謎だとか、収拾が付かない方向へ向かっていた。
だけど声明文の「SHOOL KILL」のスペルを見て父は「仮にも医学部へ行った奴がこんなミスはしないだろう。中学生か高校生じゃないか」と言ったが、まさか自分と同学年とは思わなかった。同じ年にてるくはのる事件というのもあったんだけど、こちらは警察のヘマで犯人(浪人生)に自殺されてしまったので今では誰も知らない。当時は暗号解読とかで話題になったんだけどね。
高校は学区トップ校へ。加藤君と一緒ですねー。まあでも国際科に落ちてスライドで普通科に通ったから屈折してると言えば屈折してるんだけど。
そういえばこの高校、最近やたら進学実績伸ばしてて、進路指導のN先生はホクホク顔だと思うんだけど、驚いたことに今年のT大合格者十数名全員が国際科だった。
なんつーか、重点的に資源配分してるのかねー。あからさまなのは嫌なんだけど。
最初のテストで下から少し数えたらたどりつく順位をとって、ショックだった。しかも成績上位者を張り出すとかどんな嫌がらせ。
そう言えば毎回1位をとっていたY君は地元の帝大に行ったんだけど、進路指導的には痛恨事だっただろうなあと思う。(だけどそのエピソードに自分の受験校をちゃんと自己決定できるリベラルさが凝縮されてると思う。2番手校以下は結構介入が激しかったらしい)
懲りずに運動部に入るけど、かわいがってくれた先輩がいなくなったら居づらくなって辞めた。友達に誘われて別の部に入るけど、マネージャーが××だったのと手が小さくてボールがつかめないのを気に病んで辞めた。やることないので生徒会長に立候補したけど落選した。
しかし帰宅部ではあまりにもアレすぎるので友人たちと会合を何回か開いてそれを同好会に昇格させた。
会長から一人では手が足りないと請われたので予算委員長代理として予算折衝やイベントの運営に当たった。
次の期で会長になったけどやりたいことはあまりできなかった。むしろ黒幕のときのほうが好き放題できた気がする。
豊川主婦殺人とかネオむぎ茶とかみんな同学年だった。「キレる17歳」と連日言われて、ナイフ事件とかが全国各地で多発してた。
大学受験したけど結局一つも受からなかった。仕方がないので代ゼミに通った。
代ゼミではほとんど友達ができず、言葉をしゃべるのも忘れそうになった。おまけに衛星授業で黒板端の文字見えないし。
唯一できた友達がS価高校出身の子。
「やっぱりS価高校の人って全員S価信じてるの?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
どんな会話だ。
そういえば代ゼミで私立中高に通っていた小学校時代の友人に再会したが、彼の言うことが支離滅裂で面白かった。
「俺は株でもうけて大金持ちになるんだ」
「じゃあなんで医学部行くんだよ」
「元手を稼ぐためだよ」
とか、
「そんな大学あったっけ?」
「医科歯科大だよ」
「(お前絶対御茶ノ水行ったことないだろ・・・)」
テレビ見てたらビルに飛行機が突っ込んで、「世界は核の炎に包まれた」ってなるのかと心配した。
で、再度の受験。なんかセンター試験でいい点が取れてしまってセンター利用でおもしろいくらい合格が出た。
話したこともないのにルックスだけでぼんぼこ告白されるようなそんな感じ。
「中身見なくて大丈夫なんですか?」と皮肉の一つも言いたくなる。
続く・・かも。(でもその世代の雰囲気は伝わるでしょ)
激しい喉の乾きで突然目が覚める。枕もとの煙草とライターをまぶたも開けずに手に取りカサカサに乾きあれ果てた、割れ果てた、唇にくわえ火を付ける、ここまで3秒だ。
ふた息ほど肺に送り込み喉の乾きが最高調を迎えてから立ち上がり、冷蔵庫の中のうんと冷えたコカ・コーラの缶を開け、流し込むように飲む。
ようやく意識がはっきりと戻ってから今が朝か夜かを確認する。僕は起きた時はここまでしないと喋ることも考えることもままならない。起き抜けの煙草と飲み物、ここまでが見物。この2つで僕はやっと僕という存在になる。察するに今は夕方、だいたい4時といったところか。部屋の中を見回してもいつもと変わった様子は見られない。脱ぎ散らかされた服、いつもどうりだ。汚くて狭い部屋。その通りだ。僕の部屋を末期症状と呼んだのは誰だっけか、そろそろ掃除のしどきかもしれないな。
とりとめのないことをそこまで考えたところで、僕は自分が泣いていたことに気づいた。いや、正確にいうとさっきまで泣いていたのだ。足元に転がった鏡に顔を写し、見ると目の下に涙が乾いた跡がある。それは、とても妙なことだった。なぜなら泣かなきゃならない理由がない、思い当たらない、仮に嫌な夢や怖い夢。憶えないよね?見ていたとしてもそれは妙なことに分類される。僕は眠れば必ずといっていいほど夢を見、またそれをことごとく覚えているという割合特異な人間なのだ。特別何もなくても、何はなくとも、何かの拍子に涙がこぼれることがあるのだろうか。窓の外では子供の声がする。今、何時?汝、そういえば僕は寝る前、何をしていたんだっけ。
僕は、なんで泣いていたんだろう。僕は何してたんだろう。ねぇ。
TRACK2
何年前?5年前。
僕は浪人生だった。とある大手の美術の予備校に通っていて、それなりに志を抱いてもいた。一体、僕の志って何だろう?愛称は「ダル夫」、同時にそういう悩みを抱え始める年でもあったのだが、最初、風向きはすっかり僕にあるような気がし、そして何かが僕の思うとうりに、旗幟、動きはじめるそんな気がしてもいたのだ。単純に浮かれていたといってもいいのかもな。
その年、僕が夏の捕獲に成功したのは5月ごろだった。
「何してるの?」
「昼寝しようと思って」
「あ、そうなの」
あたりさわりのない会話の中でもとびきりあたりさわりのない、言葉を交した。裃から下。僕は臆病な割にはずうずうしい人間なので、誰もいない屋上のベンチの彼女の隣に座った。これから寝ようとしてる時に、よくしらない男に隣に座られることがどのくらい嫌なことかなんて気に、考えたこともないし、考えてもよく分からないし。なので考えないけどどういう訳か彼女は眠った。
時計は2時を回り僕の居る建物の廻りでは人がせわしなくぐるぐると回る、その証拠にたくさんの音を巻散らていた。カサカサと葉擦れの音。聞こえ出すと。彼女の少し茶色い髪もさわさわとなびきだすのです。とたん、工事現場の騒音も人びとの喧騒も、不思議と遠のき、何も、聞こえなくなってしまった。僕はなんとなく彼女の髪を撫でた。訳もないけれど。
僕は何も確かなことは分からなかったけれど、ショートカットの彼女の髪の暖かさと連動。この世界に、やがて、ほどなく、やってくる季節のことをそっと教えてくれた。
僕は鉛筆をカッターナイフで削る。これは僕にとってとても落ち着く行為なのだ。何故か。別に僕が文明の利器を忌み嫌い、しつこくアナログにこだわっているというわけでもなく、純粋に絵を描くためには、そのためには、字を書くときに比べ長い芯を必要とするだけの話だ。
どういうわけか、というわけで。僕は鉛筆をカッターナイフで削っていた。全部で30本くらいは削ったんじゃないだろうか。この時は時間潰しのつもりで筆入れの中の鉛筆という鉛筆を削ってしまおうと思っていたので、だので、むやみに使うあてのない鉛筆を中心に削っていた。
僕の座っていた場所、もう人の通ることのなくなったアトリエの前の廊下。普通はこの時間はアトリエの中で一生懸命になっているものなのだが僕はそこにいた。ふとした拍子にドアが開き、見覚えのある髪の色が目に飛び込んで。時、綻んで。
「描かないの?」
その髪を知っている。
驚いたことに、僕は隣に座る彼女の名前さえ知らない。驚愕に値。なのにこうしてもう随分と話をしている。
彼女も自分の鉛筆を削っているが、並んでこんなことをしているのは、なかなかどうして変なものだ。僕はもう指が痛い。意味あんのか、だいだい。
「カッテぇなこれ」
「貸して、こういうのは…ほら」
と、その髪。
「うまいね」
鉛筆の木の部分を大きく削り取り芯を露出させた。彼女にそう言うと少し得意そうだった。6Hの鉛筆ともなると、異様に固く、尖らすのにも苦労するのだ。
「ねぇ、ご飯食べないの?」
「うん。俺はあんまり減ってないからいいや。食べたら?」
「…わたしもいいや。お昼ご飯とかっていつも食べないから」
「そう」なんて言っていいか分からなかったからそう答えた。
僕も彼女も結局絵なんて描きやしなかった。なんだか知んないが、かったるくなってしまったのだろう。
その何日か後。僕達は1度だけデートした。
TRACK3
J子さんの髪の色には変化、少し変わった。どのへんが?あそこのへんが。あ、そこらへんか。
彼女は僕よりも歳がひとつ上で。その上でそのせいも有るのか無いのかそれは分からないけれど、ときおりお姉さんぽい態度をとろうとした。しかしながら、彼女は僕と同じ年度に卒業している。留年したからだ。入院したからだ。とにもかくにも、彼女は何となく僕に世話を焼いてくれてるようだった。
彼女の作ってきてくれたお弁当を一緒にたべながら、僕は彼女に好意を感じたが、それははっきりした形をとる様なものではなかったし、言わなければいけないのであろう一言が僕にはどうしても言えなかったのだ。あるいは彼女はただ親切だっただけなのかもしれないのだし。シット。
何月だったか忘れたがとりあえずは冬のとても寒い日だ。ラッシュアワー時よりはいくらかは空いた、電車から降りてきた僕はそう急がずに改札をくぐり、彼女の姿を探す。姿を捕捉。細かい位置まで指定しなかったのに、彼女はきちんと分かりやすい場所にたった今定刻どうりに立っていたわけだ。
「ごめんね。待たせちゃった?」
「ううん。そんなに待ってないよ、さっき来たから」
「来たね」
「来たよ」
僕はそう答えて微妙な顔つきをした。
なぜ僕達がこの朝などに待ち合わせをしたのか。といういきさつはこうだ。前後するが戻る。
この頃僕の足は予備校から大分遠のいていて、ほっといてたまに行く程度になっていたのだが、たまたまクラスの奴(ボケ)が僕のことを学校に連れて来いと彼女にちょこっとほのめかした。軽い冗談ぐらいにしか僕は考えいなかったのだが、帰りがけ彼女はこう言った。
「何時にする?」
僕は驚く。
「早目に着くようにしよっか、そしたらいい席取れるし。わたし達来るのとても遅いでしょ。だから、変な場所でばっか描いてるから、やる気にならないんだよ。8時じゃ早いか、8時15分は?早すぎる?」
早過ぎるし、展開早過ぎるし。早く過ぎるシーン。
「がんばるよ」
彼女の乗る電車はもうすぐホームに入ってくる。それを知らせるアナウンス。
アーッ、アーッ。…イエスッ、プラットフォーム、ナンバシックス、まもなく打診。
「ちゃんと来るんだよ。いい」
アーッ、アーッ。ンンッ。…イエスッ、プラットフォーム、ナンバシックス、まもなく打診。答えはアイ、シー。
ネクスト・デイ、という呈。
2日目の待ち合わせも同じ時間・場所で行われた。まるで口の中にドライアイスでも入ってるかのように白い息がもわもわと凝固せず出る。当たり前のような話、僕はそんなもの食べたくない。けど、でも。あたりの人という人の口からも同じように白い煙が出ても、誰ももうドライアイスなんか食い飽きたとは言わないので、僕も不平不満を口からは出さなかった。出したのはまさに白い煙だった。
腰の絞られた濃いグレーのピーコートのポケットに手をつっこみ、眠い頭と当惑する気持ちをこさえ、彼女を迎え、姿を残さねぇ。そんな背が高くないというよりは小柄と言ったら正しいくらいなのに、彼女はロング丈のコートが意外に似合った。
と彼女と翳す手。
「そりゃね」
と僕。
言葉少なにそう歩き出す。
「こうやってお互い待ち合わせればきちんと行けそうだね。こういう風にしてればわたしも行くしかないしね」
「俺だって早く起きないわけにはいかないもんなぁ。7時くらいに起きてんだよ俺」
「えらいじゃん」
初めからそうだったけど僕達は相変わらず言葉少なだった。けれど、淡々としているというわけではないのだけど、大はしゃぎするふうでもない。笑いはしても、腹を抱えてゲラゲラと笑うなんてことはなかったようなという記憶で。19才になったばかりの僕と20歳の少女、差異があると、「サイ」が変わるの。そう彼女は20才になっているにも関わらずその印象は少女のままだった。その2人がこんなにも、まるでうっすらと積もった雪の上を静かに歩くように言葉を交すことは、僕にある風景を描かせた。
描く、書くと。
その風景とはこうだ。
(ムーボン、ムーブ、オン。見えるか、聞こえるか。始まるぞ、濃そうな妄想のシーン。)
陽の光がとても弱々しく感じられる。風が強いせいか肌寒い、ここは何処だろう?
見慣れた風景と感じるのはきっと有るものがすべて決まりきっているせいなのだろう。僕はここが何処か分かった。学校、おそらく高校だ。びゅうびゅうと風が空想の怪物の呼吸みたいに聞こえるので僕は心細くなりフェンスにしがみつく。その僕の指を固く食い込ませた金網の向こうに彼女が見える。小さくしか見えないが僕の知っている彼女は僕だけが学校と分かり得るぐらいの小ささで建つ建物と僕の中間に立っている。なぜか僕も彼女も制服を着ている。バサバサと髪が巻き上げられ服の皺がとたんに生命を持ったように暴れる、風が僕達の世界の全て、有体から思念体、一切合財何もかもを飲み込もうとしているみたいだった。
「 」
僕は胸が潰れそうになって必死に彼女の名を呼んだけど全てかき消されてしまい、届かない。すると、髪を服を草を巻き上げる耳を裂く風の音、一切の音という音を彼女が遠ざからせてくれた。
あたりにはもう心配する事なんて何もないのだ。
けど、けれど、何で彼女はまだ思いがけず不幸に命中してしまったような悲しい顔をしているのだろう。
(ちょっと調子が悪いのか、そうか。なら、鬱蒼など晴らそうか。そのスイッチを押せ、行くぜ。)
リブート。
その後。
僕は何度か彼女の悩み事のような話に付き合ったことがある。そのたびに快方にむかったように思われた彼女も、それはしばらくするとまたがくんと調子を落とす。こういうふうに言うと冷たいかも知れないけど、そういうのはどうにもこうにも本人次第だ。何とかしたいが、したいが、悲しいけどどうしようもなく本人次第だ。SPみたいに、彼女にへばりついて、いつ降ってくるか分からない災いの流星群から守ってやることもできないし、だいたい、彼女が望むかどうかも不明じゃ現実的じゃないじゃない。
というわけで僕はただ見ていた。
その日も彼女は複雑な表情。僕はと言えば相変わらずも怪訝な顔。それらには触れられずに帰りの道を僕は彼女と歩いた。
「ご飯食べていく?真直ぐ帰る?」
「お腹も減ったんだけどそれよかコーラが異常に飲みてぇよ。どっかに自販機ないかな?」
下がる血糖値、命の危機。
「ここら辺ないね」
仕方がないので彼女の知っている店へ向かった。彼女の指差す先は目的の店の電飾で、その店はばっちりコーラが飲めたのだ。
「行く?」2本目のマールボロに火をつけながら僕は尋ねる。
食事を済ませた僕達は向かい、駅構内へ降りていく地階からは長い。長いエスカレーターに乗っていると改めて僕は彼女の横顔が視界に。そしてきっと僕には何もできないだろうなと思ったのだ。何故そんなことをこんなときに思わなければいけないのかさっぱりだが、僕はその顔を愛いと感じた。ウイ。
またホームへ電車が入って来た。けたたましいブレーキ音とまるで抜けた魂、知性の感じられない雑踏のミックスジュース、もう嫌気がさす、ミキサーから出す、一息で飲みほしてしまいたい、彼女の声が途切れる前に。耳を澄ましたが池袋駅でははっきりと聞こえない。もし今が初夏だったら。その奇跡の力ならば。
「 」
「え?」
僕は憂う。
何であの時みたいに必要なものだけ、必要な声だけ、それだけを抽出してくれないんだ。僕には必要な世界があって、そんなこと勿論はなから分かってる、多分そんなに重要なことは言ってないんだろう?僕はそんなこと勿論分かっているけれど、彼女の表情はそうは見えないし、多分そうじゃない。なんだか胸が詰まりそうだ、僕の傍、彼女の顔が無理やり笑ったみたいに見えた。胸が潰れそうだ。
「バイバイ」
電車が行ってしまったあとには言葉を遮るものは邪魔も何もない。だけどきっと遅かったんだとは思う。彼女は誰かに救いを求めたかったのだろうし、あのいやらしいノイズがかき消したのは、彼女のなんとなく悲しげな顔に含まれた聞かなきゃいけない一言だったかも知れないのに。そしたら途切れないのに。
「ふぅ…」
僕はため息をひとつついてみた。人とすれ違う。
あくまでも推測だ、多分僕の考えすぎなんだろう。
でも、僕に何かができたんだろうか。何だろうか。見当つかない、それは分からない。
ねぇ、笑ってよ。
止めてぇよ。
TRACK4
「なぁ、花火大会行かねぇ?俺の友達の女の子も来るんだけどさ」
昼ご飯時で人の多い通路に,5・6人もかたまり地べたに腰を下ろし、カップラーメンOR出来合いの弁当、貧相な食事を僕らは済ました。それぞれ煙草を吸ったりジュースを飲んだりと全身からやる気を排出していた。
「あ、俺行きてぇ。女の子来るんでしょ。何人来んの?」
「多分3人くらいは来るんじゃねぇの。行かない?」その場の全員に振るのは主催。良い返事下さい、と同意求め。
「行く行く」
「女かぁ女かぁ」
「俺は無理だな、無理無理」
めいめい自分なりの反応を示し、僕はデニム地のベルボトムのパンツで灰に汚れた手を拭きながら尋ねた。
「そんでその花火はいつよ?」
それは皆が知りたい重要な事だ。
「今日」
結局一緒に行ったのは僕だけだったとか。
僕が挨拶をすると2人の女の子も同じ要領で続けた。1人はショートカット、割合奇麗な娘。もう1人はロングのパーマの表情の豊かな娘。有体に言えばそういう子。僕はニコニコ。
「良かったね、ちょうど人数あって」
僕がそう言うと彼はあまり同意はしなかった。聞いた話によると田舎に恋人がいるとのことだ。そうは言っても毎日モチーフとにらめっこしていて大分クサッていたところなのだ、遠くの恋人は恋人じゃない。4人は電車で目的地へ向かった。話をしながら。
目的地がもう目の前という頃まで近づくと、僕とロングの娘はすっかり仲良くなった。いざそうなると最初に感じたファースト・インプレッションも変わり、「ケバイ」も「チャーミング」に変わろうというものだ。僕はそういうところが調子良いようだ。
「次の駅で降りるよ」彼の指示で僕達は降りた。
僕にとっては見知らぬ街で、駅から出たとたんに潮の香りで、満ちるような海辺の街に降り立つとダウン。僕はロングの仲良くなった彼女と並んで、先導する友達の後をついていった。途中、道で擦れ違うのは真っ黒に日焼けしたサーファー風の男女ばかりで、
「サーファーしかいないのか?もしかして」
と、誰に言うともなしに言うと、
「なんか、あたし達だけ格好が違うよね、みんなショートパンツにビーサンとかなのに」
「俺なんかめちゃくちゃ浮いてるんじゃない。Tシャツ小せぇしパンツの裾開いてるし」
「そしたら、あたしも浮いてる。だって格好似てるじゃない」
そんなことを話しているうちに波の音のするところまで来てしまった。多分、僕は相当うかれていたんだろうと思う。だって波の音がする。潮の香りもする。僕のような人間にとって、海という所は、そう簡単にほいほい来れる場所ではないので、しかもそれが、もう目の前とあっては高揚せずにいられるものか。浜辺に降りるには多少なりとも道なき道を行かねばならぬもので、僕達も慣例に従い膝丈くらいの草を踏み倒して進んだ。16ホールの編み上げブーツは砂利だろうと草だろうと蹴散らして行ける。爪先にスチール入りの頼れるタフガイは彼女の履いていたサボ状のサンダルとは違い、あちらはどう見てもタウン用なのでそれが理由かどうかは知らないのだけれど、結果、我々一行の中で彼女は遅れぎみだった。
「ほら」
差し出す手、手出して、握り返して、そのまま固く封印。
僕の手を握る彼女の手の平は汗でじっとりにじんでいた。
花火なんてない。いらない。
クラスメイトの彼は相当がっくりきたらしくご機嫌斜めでショートの娘の相手すら放棄している。その娘にも悪いんだけど、本当に悪いんだけど、僕とロングの彼女は楽しんでいた。途中で買ってきたビールを開けひとしきり、
「ちょっと海の方いってみない?」
と彼女は言った。
僕達は軽く走りだす。別に急ぐこともないのだけど何故か足早に。渚は玉砂利を転がした様な音だけをたて、波が僕の足の下にあるものを掴もうかと、否かといった感じで近ずいたり遠のいたりする。
「わ」
ふいに勢いのある波が靴のソールを濡らす。
「靴脱いで足だけ入っちゃおうかな」
「いいね、そうしようか」
紐を解いてブーツをほうり投げ、サンダルを脱ぎ捨てるとジーンズの裾を捲り上げて。ちょっと悪いことをするみたいな顔をちらと僕に見せて。確信犯の顔、隠し得ぬと、一歩、また一歩と沖の方角へ歩を寄せると、いともあっさりと捲った裾が波に晒され、「ひゃぁ」と背中を撫でられた様な声を彼女は発した。うかれた僕達にピークがやってきて水をかけたりする行為をとらせ、あろうことか渚を走らせた。ここで擬音、もしくは無音、体だけはムーブ・オン。手をしっかりと繋いで。はぐれないように。
そのとき、彼女の悲鳴が聞こえた。知らないうちに波がさっきよりも満ちて僕達の靴が波にさらわれかけた。僕は悪の魔王からお姫さまを救出する、まるでブロンドの王子。白馬にまたがり魔の手ののびる靴たちをひどく格好良く助け出すのだ。彼女は、幸せに暮らしましたとさめでたしめでたし、といった顔をして笑った。 一番最後に僕も何も特別なことはないようなフリをして、そして笑った。
二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし。
TRACK5
話はそう簡単じゃない。人生は長く複雑である。というのがまさに一般論だぜ。
僕は中央線に乗っている。僕の用事はパーマをかけたロングのあの娘に海で借りたハンカチを返しに行くと言う至極下らないものだが。だがもちろん、世の若者が往々にしてそうであるかは僕の知ったところではないんだけど、僕の用事がそれだけであるはずがない、僕は彼女に会わなくてはいけない。いや、会うべきだ。
待ち合わせ場所のファーストフード店で、コーラを飲みながら過ごすこと数分。彼女はやってきた。奇麗な茶色のタートルネック、サマーニットにジーンズという出で立ちに画材道具の入ったトートバッグを抱えて。気持ちの良い笑顔と一緒に駆け寄ってくる。本当ならばハンカチなんてここで渡せば用事はそこでフィニッシュなのだが、あいにくと僕はおみやげを持参していたのでそういうわけにもいかないのだ。おみやげの名称は下心っていうんだけど。そこら中で見かけんだろ?
彼女、FMの部屋は一般的なワンルームから比べると少し広めで、あまり物がないせいか当時僕が住んでいた部屋とどっこいぐらいの、な、はずなのにもっと広く感じた。備え付けのキッチンの小さな開け放した窓からは小気味良いまな板を叩く野菜を切る音が空へと帰り、その間、僕はただ彼女の後ろ姿を眺めていた。
手慣れているとは言い難いものがあった。が、毎日自炊しているというのもままんざら嘘ではなさそうではあった。借りたハンカチを返すだけで手料理が食べられるなんて僕は全然知らなかったけれど、割とメジャーな潮流に乗った、そんな不問律らしいとの噂は聞いた。女の子からは何はなくとも、必ずハンカチを借りることを是非おすすめしたい。
出てきた料理は手の混んだ代物ではなかったがそれだけになかなか感動的でもあった。味よりもむしろこの事実、リアリティが僕を満腹にさせる。その後、僕たちはマットレスの様な寝床でごろごろと転がり、何を話すでもなくうだうだ雑談していただけなのだが、僕が帰るためにはそろそろ私鉄の電車の時間が近ずいてきていた。ここで。僕はけっこうな勇気とカロリーを消費しなくてはならない。
「あ、もしかしたらうちの方へ行く私鉄がもう間に合わないかもしんない。やばいな、多分今からじゃ終わっちゃうかも」
本当にもう正気の沙汰ではない、この白々しさといったら。真っ白だよ。
「どうしよう」
こんな風に反応を伺うのももう最悪だ。
「…いいよ。泊まっていっても」
まさに、まさに。嘘をつくのは大変な作業である。でも無理も道理も通った。押しの一手、おっしゃる意味が分かりません。
TRACK6
僕と僕との会話。
『気分はどうだい?』
「ああ、すこぶる良いね。まるで風が僕に吹いているみたいだね、別に強がりじゃないよ。だって、そうだろう?もはや何の憂いもない」
『そう?』
「そうだよ。見ててみなよ、きっとうまくいくから。そういつまでも同じことは繰り返されないさ、アンラッキーだなんて言わせないね、君にもだよ」
『別に運は悪くないよ』
「立ち位置の問題なんだよ。僕はここなら平気さ。大丈夫。ノープロブレムだね」
『そうなの?』
「そうさ。僕も捨てたもんじゃないだろ?」
『どうだろう?』
暗転、という呈。
TRACK7
同じ布団の中、僕も彼女も眠れていない。大分個人的な話へと突入し、立ち入った空気が男と女を意識させる。いや、意識せずにはいられない。話の途中で彼女はごく自然に寝返りをうち、肩を下にして僕の方を向いた体制をとった。その鮮やかさに感心する。明鏡止水、拳法の極意。きっと僕の寝返りはとてつもなくみっともないんだろうから。
向かい合った体制の均衡がふいに破られ無我夢中できつく抱き合う、が、彼女は僕の足を自分の股にきちんとはさんだ形に。一枚上手だ。僕は自分のイニシアティブの存在をないがしろにするわけにはいかないのであえて言わせてもらうが、僕達は破ってはいけない沈黙を破るように同時にキスをした。同じ心音、同じタイミングってことだ。正確なところは僕が気づいたときにはすでに彼女の舌は僕の喉内に潜りこもうという意気込みであったがとりあえずそういうことだ。そこから彼女の前の彼氏の話が始まる。
長いので省略。
「うん」
曖昧に、何も言うまい。このスタンスはとても便利だ、いつも僕を助けてくれるのだ。言うべきことなんか在りはしないんだから。たかだか、僕らの歳などでは。
「あたし、けっこううまいよ」
「前の彼氏より大きい、してあげよっか?」
と舌舐めずり。
返事はあとまわしにして僕はマウントポジションを取り返す、そして彼女のくりんくりんとうねるライオンのたてがみみたいな髪の毛を見つめていた。彼女はしっかりと現実を見つめている、だけど僕に見つめられるのはその髪ぐらいのものだ。ひどくうつろなまま彼女の服に手をかけひとつひとつボタンを外しにかかり、ワン、トゥー、スリーで3つまではずしたところで彼女がブラジャーをつけてないという当然のことが分かったが、かまわず全部はずした。ワン、トゥー、スリーで出るのは鳩ばかりとは限った話じゃなく、ハッとする。乳房だったからね。
でも僕はぜんぜんダメだった。
うん、とも、ううん、とも言えなくなってしまった僕に腕をまわし、そんな僕をよそに、
「なんか、あたし、したくなっちゃった」
「あたし、したいよ。しない?」
もはや疑いようもなくなってしまった。セックス。
「よそうよ」
10秒経過、残り20秒。10秒。5秒。持ち時間は無常にも、少なくなる。こんなときには異常に早くだ。
オーケーと気軽に言えたらどんなにか楽だったか知れない。軽く堕落へ踏み込む覚悟もできていたはずだ、なのに、僕はダメだった。ぜんぜんダメだった。一体何の為だった?
胸の内、頭を抱え。イエス、ノー、オー、ノー。いや、不能なんだよ。
僕は中学受験をした。
大抵の人とは違い、させるつもりの無かった親に直訴して塾に通い、
それを未だに親は後悔している。
僕にとっては良い経験だったし、暗算能力なんかは今でも中学受験を本気でやったことの無い奴よりは高い自信がある。
だが、親は「辛いことをさせてしまった」と思っているらしい。
何度も言い出したのは僕だし、勉強することを選んだのは僕だ。それに僕にとって良い経験だったのだ、と言っても親は後悔を続けている。
あれから既に10年近く経ったと言うのに。
さて、今僕は19歳の浪人生だ。
親は過去の後悔から大学受験をさせたく無いらしい、もっと正確に言うと「本気での受験勉強」をさせたがっていないのだが僕は進学を望んでいる。だいたい受験しないで進学校へ行った意味が無いではないか!
親はいわゆるFラン大に行くことを望んでいるらしいのだが僕は国立を希望している。勉強は家ではしていない。
どうやって前向きにさせれば良いんだろ。