2008-08-22

おこってる

カウンター6席だけの小さな喫茶店で、1番左端のカウンターに座っている客が騒ぎだした。「頼んだ物と違うじゃないか。これはコーヒーか?」わざとらしく嫌みを言う客に、左から4番目の客が、「わざわざ嫌みをいう必要なんてあるのかよ?オーダーが間違ってるので、変えてくれといえば済むだけの話だろ?」と冷たい言葉で諭す。「なんだと!」と顔を真っ赤にして怒り狂う1番端の客に油を注ぐように、4番目の客が「日常ストレスを店員に向けるなよ、この暇人!」と大声で返す。ほぼ満席の店に緊張感が走る。

「ちょっといい加減にしてくださいよ」左から三番目の浪人生風の客が、ずれた眼鏡上げながら鋭い口調でいう。「明日、受験日なんですよ。集中するために喫茶店に入ったのに、大騒ぎされちゃたまらないですよ」。申し訳なさそうに前をむき直す1番目の客。一方で、だったら店からでろよと捨て台詞を吐く隣の4番目の男を、3番目の青年は激しくにらみつけながら「あんたが後から入ってきたんだろーよ!」と怒鳴る。

収拾のつかなくなった店内の端、5,6番目の席に座る主婦らしき客は「なんだか騒がしいわね、出ましょうか」とあたふたし始めると、その隣にいた4番目の男は「いや、ちょっとまてすぐ済むから」と牽制し、学生に「おまえ名前はなんて言うんだよ。俺にそんな口の聞き方してただで済むと思うなよ」と食い入る。貧弱な身体をした3番目の席に座る学生はおそれをなし、涙目で「狭間、はざまです・・」と名を継げると、その場で目を伏せてしまった。「ひどいわねー」とキャピキャピ言い出す主婦達。

すると、二人の主婦のうち6番目に座っている一人が「あれ?ユタカユタカなにやってんのよ」と言い始めた。学生は助かった!と思った。「あれ、母さん、何やってんの」と、とわざととぼけたふりをして母の方を見て立ち上がった。するともう一人の主婦、5番目の女性が、「あれ、あんた息子ってアメリカにいるんじゃないの?」と耳打ちする。「そうよ」と応える6番目の友人をみながら、5番目の主婦は目を白黒させている。しかしながら、4番目の口うるさい男も、母がいるとなれば、下手に手はだせず、おとなしくなる。

無言を続けるマスターに、またもやしつこく1番目の男が「ところで、マスター、コーヒー出してくれるのか」と言い始める。4番目も男は「まだ、そんなこといってんのか・・・」と怒鳴ろうとしたとき、喫茶店のドアが開き、カタギの仕事をやっているとは到底思えない巨体の男が入ってきて、2番目の席に隣の客を押しのけて座った。3番目の学生に「悪いね」と気遣う姿から、そんなに悪い男ではないらしい。

2番目の怖そうな男は、マスターに向かって英語で何か話し出した。語学科を受験する3番目の学生は、その内容が聞き取れたらしく、縮こまりながら「え、その人、○○国の王様なんですか?」と言う。騒然となる店内。テレビで連日報道されていて、大沢に担っている、日本に来てから行方不明となっていた ○○国王本人が、カウンターに立っているのだ。

「え、日本語わからないのか。どうりで、何度オーダーしても間違ったものを出してくると思った」と苦笑いをする1番の男性。間髪入れずにカメラフラッシュが何度もたかれる。4番目のうるさい男は、報道カメラマンだった。「やった!スクープだ」この喫茶店隠れ蓑にしているところを知ったこの男は、客を追い出してから根掘り葉掘り聞いて、特ダネを得ようとしていたのだ。

そんなカメラマンフィルムを抜き取りカウンターを飛び越えたのは、5番目の主婦。「インターポールです。○○国から逮捕状が出ています。報道は控えて」とマスターを一種にして取り押さえ、拳銃を2番目の男に向けた。展開に驚きを隠せなかった6番目の主婦は、こっそり一部始終を携帯電話で撮影。自分で入れたコーヒーをすすりながら、「やったわ、特ダネ」とつぶやいた。

6人の怒れる日本人

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