別に年金受給者から受信料をとらない、という政策が悪いとも思わない。金周りのことは俺にはよくわからないが、NHKを解約することができてもいいんじゃないかと思う。テレビを持っていたら強制的に払わされるというのはなんだか妙だというのもわかる。ここではNHKの違法性とか党がどうだとか言う話をするつもりは一切ないことは知っていてほしい。ただの吐き出しである。
父がNHKの人間で、母も結婚して俺が生まれるまではNHKの人間だった。NHKがなければ俺が卵子時代を無事卒業することも多分なかった。
俺は今20代中盤で、3年くらい前に「30までには結婚したい」と言っていたバリキャリの恋人と結婚した。子供はいないが、なかなかいいところの2LDKに猫と嫁と暮らしている。それもこれも、国民の皆様からいただいた受信料が親の給料になり、俺にそれなり以上の教育を施し、金をかけ、自分の頭で考えられる大人に育ててくれたからだ。
小さい頃から父はいつも会社の愚痴を言っていた。父がいるNHKがテレビ番組などを作る会社なのは知っていたし、父が大なり小なり関わった番組が放映されているのも餓鬼の俺はそれなりに喜ばしかった。受信料の仕組みなんてよくわからなかったが、NHKはCMがなく見やすいな、と思っていた。
高校くらいになるとなんとなく受信料というものが妙な仕組みで徴収されているのは知ることになった。NHK党が発足されたのは2013年。耳にするようになった。
「NHKをぶっ壊す」
父にそれとなくそんなことを言っている人をどう思っているのか聞いてみたが、父は鼻で笑うだけで特に気にしていないようだった。しばらくすればいなくなるだろうとなんとなく俺も思っていた。
大学時代、一人暮らしをしていたら家にNHKの職員が来た。受信料を払っていないという。俺はテレビを持っていなかったのでそのことを伝えると普通にお帰りになっていった。周りの友達もテレビは持っていない奴が多かった。もうネットで事足りる時代だったからだ。「うざいよね」「困るよね」と彼らは言っていた。
NHKの受信料徴収係を追い返す方法がネットにたくさん上がった。からかって遊ぶようなブログやTwitterの書き込みも見られるようになった。
その度に俺は結構気が滅入っていた。俺がここまで生きてこれたのはNHKの受信料のおかげなのだ。
払いたくない人は払わなきゃいい、と思う。でもそれは時代が違っていたら俺は貧困に喘いでろくでもない人生を歩んであたかもしれないことを肯定することでもある。そんな勇気はない。
駅を歩いていたら、「皆様にNHK撃退マニュアルをお渡ししてます!」という声が聞こえる。俺と目が合う。何回か言ってやろうかと思った。
「こんにちは。NHK職員の息子です。いい場所に住みいいものを食い良い教育を受けて今があります。細胞から爪の先まで皆様の受信料で作られてきました」
それを直接聞いたらNHK党の人はどう思うんだろう。どんな顔をするんだろう。俺にどんな話をするんだろう。彼らが俺のようなNHK職員とその家族の気持ちを考えたことがないのだろうとは言わない。考えたりもしただろう。だから俺もそんなことを直接言いに行きはしないけれど。仕事に疲れて帰ってきた駅前で、俺はどんな気持ちで彼らの話を聞いていたらいいんだろう。
議席も少ないんだし気にしなきゃいいとも思う。でも、なんだろうこれ。魔王軍の偉い人の息子とかってこんな気分なんだろうか。俺の人生、父の人生の中心にあったものを、「ぶっ壊せ!」「悪だ!」と大きな声で叫んでいる人を見て、どうしたら心をざわつかせずに済むだろう。
NHKが存在していなかったとしても、君のお父さんは民放で働くことになってただろうから気にしなくていいでしょ
NHKのとこ舞妓の置き屋に換えてみよう!