先日、結婚を前提に交際していた相手と別れた。曰く、原因は自分の過去にあった。
出会いの場は自分の職場だった。コンプラ的には全くもってよろしくないのかもしれないが、相手は自分の顧客だった。最初はこの人気になるなーぐらいだったのにいつしかもっと深く知りたいと思うようになり、プライベートで連絡を取ったり食事を重ねて交際に至った。
というのも相手は自分よりも一回り以上年上で、余裕も知識も人生経験も豊富だったからだ。
相手が以前の交際相手と別れてから時間が経っていることも、そろそろ恋愛をしたいということも分かっていたが、自分よりももっといい相手がいるんじゃないかと不安だった。
いつか飽きる日が来たらその時ははっきり言って欲しいと伝えたことを今でも覚えている。
当初の不安を他所に、交際は意外と上手くいっていたように思う。
お互いの同僚、友人に紹介することもあった。
両親への挨拶もコロナ禍ということもあり秋頃にはなんて話もしていた。
ただ、そんな思い込みはあっという間に壊れることとなった。
あれは梅雨の終わりだった。
とある事情から約束していた日に会うことができずリスケを提案したところ、会えないとの連絡が来たのだった。
理由を尋ねると、「あなたと一緒にいるとあなたの過去が浮かんできてしまう。それを考えると苦しくなる」と答えてくれた。
たしかに相手からすると自分の過去は褒められたものではない。もちろん法を犯すような羽目はしていないし警察のお世話になったことも無いが、太陽の下で堂々と生きられる人間ではない。
当たり前のように普通の顔を取り繕って生きてきたが、それは過去も今も纏めて普通に見えるように隠しているだけで、所詮ただのハリボテだったのかもしれない。
無様であろう、女々しいであろう。それでも泣きながら相手に縋りつき打開策を求めてしまった。
ただ、相手が求めることは自分の過去を抹消することだった。今の自分をどれだけ変えたとしても過去の自分は付いて回る。
直接話が出来たのは、それが最後だった。
相手が自分に話した理由は真っ当に受け止めざるを得ない理由だったが、きっと本当の理由は別の所にあるのだと思う。もっと早くに気付いていれば、何か変わったのだろうか。
全てを捨てても良いと思った相手だった。
出来ることならば共に歳を重ね、この先何年も側で笑う姿を見ていたかった。
だが今やそんな未来はただの妄想でしかなく、この辛い現実から目を背けるための戯言なのだ。
さて、別れ話を切り出されてから自分は職場を離れることとなった。
顧客へ手を出したことは一部の上司へ伝えた上で内々に処理されたようだったが、どうしても自分の心が付いていかなかったのだ。
日々悲壮感を漂わせる自分がチームに与える悪影響や、部下へ合わせる顔がないとありきたりな言葉を並べた上での休職だが、実際のところはそんなことではなかった。
今の自分を作り上げた職場で出会い別れたことで、ふとした瞬間に何故自分がここにいるのか、自分の存在意義は何なのかと自問自答して思考を止めることが多々あったのだ。
プライドだけは高い自分にとって、一番恐れる事は人に失望されることだ。
これ以上失望される前にひっそりと姿を消した方が自分が苦しまなくて済むと、逃げに走ってしまったのかもしれない。
あくまで対外的には休職としてくれている寛大な職場に感謝はしつつも、消化できていなかった休暇や色々な物を片付け次第、辞職願いを出してこようと思う。
過去を振り返ってみても何も生まれずただ後悔を重ねるだけならば、これから先の未来で後悔を重ねないために出来ることはただ一つ。