2021-01-26

[] #91-3「13人の客」

≪ 前

13人の客、その3人目は元コンビニ店員だった。

「この前、『コンビニ戦争 ~研修員 VS マジ卍チーム~』ってのを観たんだけど……」

「ゲホッ、ゴホッ!」

わずむせてしまった。

全く知らない作品だったが、タイトルから漂うB級臭さに気管がやられたようだ。

いや、もしかしたらC級以下のパロディ作品かもしれない。

しかし、その作品が何級だろうが、俺にとっても元コンビニ店員にとっても大した問題ではなかった。

「期限が過ぎた弁当とかは処分されるとかいうけどね、実際は店員が持って帰ってることも多いよ」

映画感想もそこそこに、元コンビニ店員は自身のやっていた仕事について語りだした。

語る時の熱量からして、こっちこそが本題だったのかもしれない。

コンビニチキンが美味いのは、中からから加工しまくってるからなんだよ。あれはもうチキンの形をしたナニかだね」

やっていた業務ちょっとした裏事情、時勢の変化やらクレーマーへの対応などなど。

俺はコンビニで働いたことはなかったが、アルバイターとしては中々に興味深い。

パッケージ詐欺話題だけどさ、あれは一種炎上商法なんだよ。面白がって買ってくれたら儲けもんだから

それと同時に、この客の語ることは酷く“ありふれている”ようにも感じていた。

まあ、ありふれているのも当然といえば当然だ。

石を投げればコンビニに当たるような世界なんだから、元コンビニ店員にだって当たることもあるだろう。

それでも違和感が拭えないのは、この人の語ることはどうにも大それていたからだ。

世界は全てコンビニサイズになるんだよ」

「……と、言いますと?」

「そのまんまの意味だよ。後は縦に繋げるか、横に繋げるかの違いでしかない」

もはや「“元コンビニ店員”という肩書きを持つ個人」が語れるような範疇を越えている。

「小売という概念は、より広い意味となり。あらゆる規格はコンビニ基準になるんだ」

一体全体、この人は何の代表として、こんなことを言っているのだろうか。

====

13人の客、その4人目はダンサーだった。

「『閃光の舞』って知ってる? 店員さんの世代じゃないやつで、ちょっと古めの作品なんだけど」

「ああ、なんか聞いたことがあります

これまで挙げられたものとは違い、その映画に関しては少しだけ知っていた。

今回は話を合わせやすそうだ。

MVが有名ですよね。そういったスタイルの先駆けというか」

「いや、そうじゃなくて」

……と思っていたんだが、なんだか噛み合わない。

というより、最初から噛み合わせる気がないように感じた。

「君はどう思う?」

「えーと、俺は」

「まあ、それもあるかもしれないけど、僕としては……」

俺が喋られる時間は一秒ほどで、それ以上は無理やり中断して自分の喋りに移行してくる。

こちらも聞き役に徹するならそうするのに、尋ねてきた上で遮ってくるから性質が悪い。

「君はダンスとかやってるの? 学校行事とか」

とあるイベントの際に、催しとしてゲームダンスしたことありますね」

ゲームダンス~? 今はビデオゲームの話じゃなくて、ダンスの話をしているんだよ」

「いえ、ゲームダンスってのはロボットダンス亜流みたいなやつで、ダンスゲームのことではないです」

「テキトーぶっこくんじゃない、わたしダンサーだよ!」

この客は、まるで最初から最後まで話したいことを決めているようだった。

そして、それ以上も、それ以下も、それ以外も許さない。

そういったプレッシャーを常に放ち続けてくる。

この時の俺は、何かよく分からないものに踊らされ続けているようだった。

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