本当なら今日からコミケが始まっていて、本当なら自分は始発参加して、本当ならあの子の夢を叶えていた(はず)。
地方大学のよくある末期的オタサーに彼女が来たのは去年だった。サークラやオタサーの姫目的ではなく、"居心地のいい距離感の居場所"を求めていたのだということは醸し出す雰囲気から存分に分かったし、活動らしい活動はあってないようなオタサーだったから普通に受け入れられた。要はそんなオタク達が取り敢えず籍を置いておく、幽霊部員上等な末期的オタサーだ。
彼女の今年の夢はコミケで巨大囲みを作ることだそうだ。なんでそんな無意味な夢をと問うと、これからきっと就職活動で自己肯定感が削られるから限界まで自己肯定感を高めておきたいのだと冗談紛れに言ってのけた。
サークル内でコスプレカメラマンをやっているのが自分だけであることもあり昨年末のコミケで手伝ったが、彼女は良くも悪くも"コミケによく居るレイヤーの一人"である。行列ができるときは5、6人は並ぶが囲みが必要なほどの人数になる事は無い。データを送ってくるのは数人居れば御の字。Twitterコス垢のフォロワも数百人。
しかし、時流を外していても好きなキャラになろうと衣装を製作しメイク練習を繰り返し努力した彼女の姿を見てしまったこともあり、(本当の理由は分からないが)何とか叶えたいと思った。
コミケのコスプレ広場で囲みを作る、即ちカメコの注目を集める戦略は幾つかある。
目安:Twitterフォロワ1万人以上。重厚な囲みを形成する一方、視線を向けるだけで紅海を割ったモーセの如く道を作ってしまうという。
武器や鎧、特に大型の造形は目立つ上に、「取り敢えず撮っておこう」勢が足を止める。しかし彼女も自分もそこまでの造形能力は無い。
ライバルも多いが流行作ということで目を止めてくれる人は非常に多い。
キャラに即したもの以上に肌色を多くする捨て身。ローアングラーと呼ばれる底辺族が最前に湧いてくる上に、一度肌を見せるとそういうレイヤーだというスティグマが刻まれる。
別に流行っているからというだけでなく、作品としても面白いのは事実。ただ、好きなキャラが誰かというのは彼女とは意見を異にした。おかしい、なんで一花お姉さんの人気が無いのだ。
制服+アレンジで何人かできるのも地味にメリットがある。さすがに4人分は厳しいが2人ないし3人分は作れるかもしれない。
自分にできることは、自撮りしたメイクやウィッグについて良し悪しを言うこと程度だったが、「なんとなくいけそうかも?」みたいな雰囲気が楽しかった。
そして襲ってきたコロナ。