何事も報いられぬこの世に……神も仏もない、血も涙もない、緑地も蜃気楼も求められない沙漠のような……カサカサに乾干びたこの巨大な空間に、自分の空想が生んだ虚構の事実を、唯一無上の天国と信じて、生命がけで抱き締めて来た彼女の心境を、小生等は繰り返し繰り返し憐れみ語り合っております。
その大切な大切な彼女の天国……小児が掻き抱いている綺麗なオモチャのような、貴重この上もない彼女の創作の天国を、アトカタもなくブチ毀され、タタキ付けられたために、とうとう自殺してしまったであろうミジメな彼女の気持を、姉も、妻も、涙を流して悲しんでおります。
隣家の田宮特高課長氏も、小生等の話を聞きまして、そんな風に考えて行けばこの世に罪人はない……と言って笑っておりましたが、事実、その通りだと思います。
彼女は罪人ではないのです。一個のスバラシイ創作家に過ぎないのです。
単に小生と同一の性格を持った白鷹先生……貴下に非ざる貴下をウッカリ創作したために……しかも、それが真に迫った傑作であったために、彼女は直ぐにも自殺しなければならないほどの恐怖観念に脅やかされつつ、その脅迫観念から救われたいばっかりに、次から次へと虚構の世界を拡大し、複雑化して行って、その中に自然と彼女自身の破局を構成して行ったのです。
しかるに小生等は、小生等自身の面目のために、真剣に、寄ってたかって彼女を、そうした破局のドン底に追いつめて行きました。そうしてギューギューと追い詰めたまま幻滅の世界へタタキ出してしまいました。
ですから彼女は実に、何でもない事に苦しんで、何でもない事に死んで行ったのです。
ただそれだけです。
いや、やはり知らなくても良い、話は幾らでも通ずる
それは、一にも二にもなく、「嘘」だと思う
得体の知れない、正体の分からない、手ごたえのない、暖簾に腕押しのような、気怠げなその雰囲気が本質である
この系統で、日本で最も人口に膾炙しているのは、間違いなく椎名林檎であろう
百色眼鏡を想起する方もいるだろうか
「私に、恋のこころが無くてもいいのでしょうか?」
と私は少し笑っておたずねしたら、師匠さんはまじめに、
「女のかたは、それでいいんです。女のひとは、ぼんやりしていて、いいんですよ」
とおっしゃいます。
このネットでは、虚構を振りまいて歩く“少女”を多く見つけることができる
彼女らは嬉々として自らの理想とする“虚構”を、思うままに追及し、それを公然と披露する
彼女たちの身命を賭して構築された“世界”には、容易には抗えない魔術的な引力が籠められている
そして、何よりも美しいのは、丹精込めたであろうそうした瞬間的芸術品を、ある瞬間から事も無げもなく、あいけらかんと放棄して、住所(address)も綺麗さっぱり消して、住処(Twitter)も更地にして、まるで白昼夢か、あるいは妖精かのように錯覚させるかの如くにしてしまう所にある
次から次へと棲所を変え、顔を変え、声を変え、そして勿論、名を変えて、移り変わって
そうした変貌が、我々を以ってして正体を暴こうとさせ、知りたいと思わせ、追いかけたくさせる
私にとっては、それが久遠千歳という名の“少女(虚構)”だった
危うげで気怠げな、“少女”であった
なるほど普通の人はご存知でないかもしれないが――「少女」というのはとっくに「幻想入り」しているのだよ。