2012-08-11

ゆうしゃはなにもできなかった。

小学生のころ、ドラクエ4が大好きだった。レベル上げが大好きで、中ボスがザコレベルになるまでレベル上げてからフルボッコにしたり、破邪の剣が手に入るまでトルネコのお店を運営したりとかしていた。夜、親が寝静まったころを見計らって、こっそりこっそりゲームを楽しんだ。

帰国子女だった僕は、あまりクラスになじめておらず軽いイジメにあっていた。学校では一緒に遊ぶ友達も居ないので毎日一人で登下校を繰り返した。ドラクエ好きの僕は「この毎日」はレベル上げだと思い込む事にした。

「僕は勇者で、この毎日クリアした先にはきっと倒すべき魔王がいて、その先にすばらしい世界が待っている」

と信じていた。


中学校に入ると、イジメが酷くなった。女子からは汚物のように扱われ、男子から意味も無く飛び蹴りを喰らった。上履きが無くなる、机にま○この落書きをされる。ロッカーゴミを入れられるなどは日常の出来事となった。そして、僕は転校した。

新しい学校で、僕はゲームと同じように「自分の」レベル上げに一生懸命になった。勉強をした。魔法が使えるようになるとは思わなかったが、より難易度の高い高校に入れれば、凄い財宝が手に入ってもっと強くなれるとおもったからだ。

友達とのコミュニケーションの取り方も頑張った。中学生なのに、営業のビジネス本などを読みあさり、人に嫌われない武装をすることにいそしんだ。作り込み続けたゆうしゃは、いつしかクラスの人気者になっていた。

いじめられたく無いために始めた必死の「レベル上げ」は、それなりの高校/大学企業へと僕を導いた。女子に嫌われた汚物は、過去の話になり、何人かの女性と付き合うという夢も叶った。人に嫌われることに怯えつづける勇者は、他の人から見れば「明るくて、仲間思い」のリア充だったかもしれない。

そして、会社専務秘書をやっている高値の花と言われる女性結婚をした。僕の冒険はついにハッピーエンドになったと確信した。ぼくはついに ゆうしゃになったのだ。

それから1年後、子どもを授かった。生まれて来た娘は本当に可愛かった。仕事もどんどんとアサインされるプロジェクトの規模が大きくなっていった。

しか仕事にのめり込んだところから、段々と風向きがかわっていった。毎晩遅くなる僕に、まず妻が愛想をつかした。美しかった妻は育児疲れと放りっぱなしにされている淋しさで、やつれていた。でも、僕は自分の楽しさと仕事の忙しさにかまけ見てみぬ振りをした。だって僕はゆうしゃなのだ魔王と闘うのは僕でなければ駄目なのだしかたないだろう。

気付けば妻とは顔をあわせるたびに喧嘩するようになっていた。僕は家だと休まらないので、会社の近くに部屋を借りる事にした。

帰らずに仕事できるようになると、更に仕事の量が増えた。深夜までつづく仕事の山は僕を確実にすり減らしていった。そして、やらかしはいけないミスを犯した。会社の損失は億単位上司に言われた。「今日ははやく帰れ」といわれた。おそらく僕に回ってくる仕事ゼロになるだろう。久しぶりに娘の顔を見たくなった。でも家に帰ると、もぬけの殻だった。

机の上に離婚届と「実家に帰る」旨の手紙が置かれていた。手紙の日付は先月だった。

僕は、猛烈に後悔した。

うまれてきた むすめをちゃんと、そだてなかった。

つまをだいじに できなかった。

しごとも しっぱいした。

けいたいをみても、そうだんできる ともだちがいなかった。

なかまおもい なんかではなかった。

たおすべき魔王なんて世の中にはいなかった。エンディングゲームとちがって、死ぬ瞬間まで訪れないのだ。ただただ、側にいる人を大事にして、本音で向き合える友達をつくって、子どもを愛し、等身大にあった仕事をがんばれば良かった。

ゆうしゃはなにもできなかった。

  • ドラクエ4ってリメイク版だと「倒すべき魔王」たるピサロが失ったロザリーを取り戻して大人しく隠居して終われるんだけど、 主人公は彼に奪われたものを殆ど取り返せないのよね だ...

  • 帰国子女だったという時点で同情不可能だっつーの。ボンボンが。

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