2022-03-09

なぜ俺たちは育休後退職女にブチ切れずにいられないのか

多くのブクマカが「育休後復帰が前提だから退職おかしい、給付金を返せ」という本音ブコメで炸裂させていますが、なぜ彼らはそんなにも「ズルい女」にブチ切れずにいられないのでしょうか?

そこには、生活保護叩きのように、単に他人が楽しているのが許せないという感情を超えたものがあると思われます

最も大きいのは、「育休後復帰の枠を空けているせいで自分仕事が増える/人員補充がされない」という、よくある苦労話との結びつきでしょう。これは即座に類似事象である時短子供の突発的ケア職場を空ける女性へのいらだち」にリンクし、彼らの怒りを増幅させます

これに対してよくコメントで書かれるのが「個人が悪いんじゃない、会社が悪い」というものです。確かに、育休で空いた穴に即座に人員を埋めてくれない経営者職場を空けがちな女性カバーする他の社員の負荷を認識できない上司はまったくもって無能であり唾棄すべき存在でしょう。

……本当でしょうか?

hamachanこと濱口桂一郎氏の「新しい労働社会」および彼の類書では、日本企業特有メンバーシップ雇用システム本質を「空白の石版としての雇用契約」であることだと説明しています。やや端折った説明をすると、「空白」とはあらゆる制約が書き込まれていないことを指します。つまり職務内容、勤務地、そして労働時間でさえ無制約なのです。昭和モーレツサラリーマンにとって「ワークライフバランス」の「ライフ」とは「生活」ではなく「生命」を指していました。メンバーシップ雇用システムの中で全員が管理職候補社長候補とハッパをかけられ、命を落とすギリギリまで働くのが美徳とされていたわけです。

とはいえ、この「労働時間の無制約性」は、2018年法律罰則のある上限規制が設けられついに法的にも規制されることになったわけです(それまでの月80時間過労死要件あくまでも裁判になったときに使われるもので、行政労働基準監督署の指導根拠ではありませんでした)。この労働時間の法的規制ができた今となっては、経営者従業員に無制限残業を命じて育休の穴を埋めさせることはできないはずです。しかし、実際には部署のデキるメンバー管理職が分担して肩代わりすることで、補充なしで職場を回している現実があります

ふたたび、濱口氏の説明引用します。多くの従業員が恒常的に残業しなくても済むような状態、家庭では父母としての役目を果たせる状態、これを「第1次ワーク・ライフバランス」と定義します。

https://toyokeizai.net/articles/-/163073?page=3

濱口氏の説明によれば、日本では「第1次ワークライフバランス」を確保するための規制制度が薄すぎる、あるいはこれを実現しようという労使双方の意識なすぎることが問題です。労働時間が無制約だった時代が長すぎ、残業することが経営者にとっても従業員にとってもデフォルトになっているため、これを根こそぎ変えるには相当な苦労が必要です。

一方で、「育休」や「時短」、「子供看護で早退」は「第2次ワークライフバランス」と定義できます。この2つの違いは、第1次が一般的従業員に対して受動的に与えられるシステムであるのに対し、、第2次はそれでは不足している労働者がみずからフレキシブル労働時間を短くできるシステムであるということです。日本特有アンバランスさは、この第2次ワークライフバランスへの規制比較的強く(1年の育児休業を男女ともに法的に保障しているのは先進国でも日本くらいです)、それに比して第1次ワークライフバランスへの規制意識が弱い点にあります

この第1次ワークライフバランスへの規制意識が労使ともに弱いことが、経営者の付け入る隙を与えています。育休で抜けた穴に一時的人員を配置するのが容易なジョブ雇用制度とは異なり、メンバーシップ雇用制度では、「育休で1人2人が一時的に抜けたくらいなら既存社員残業でがんばらせる」ほうが意思決定として合理的なのです。

結論です。

俺たちが育休後退職女にブチ切れずにいられないのは、企業無能でも悪意があるせいでも、ましてや「フェミニスト」が女性優遇システムを作ろうとしているからでもなく、日本社会全体に「第1次ワークライフバランスへの規制意識」が不足していることが問題です。これを解決するためには、労働組合を中心にインターバル規制や「残業オプトアウト化」を行っていく必要があります。そのために一人一人が声を上げていきましょう。

https://career.y-aoyama.jp/article/childcare-leave-retirement

  • 最初「思われます」だったのが、最後決定事項になり提言まで行われるクソパターン 妄想を根拠にしている時点で、世の中変えるよりもまず自分変えたほうがいい

記事への反応(ブックマークコメント)

人気エントリ

注目エントリ

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん