母は70をこえてなお仕事をしており、同年代と比べてもかなり元気な方だ。脳みそもはっきりしていてそこそこの知性はある。ボケてもいない。しかし、精神年齢はそれとは対称的だ。精神疾患の専門用語を避けると「精神的に未成熟」と言っていい。心は子供、身体は老人。
具体的な例をあげようとしてもうまくいかないのはしかたない。自分自身で母の言動を表現しきれるのは無理だと思っているからだ。ただし会話をしていると以下のような傾向が見れる。
あげるとキリがない。古臭い表現では自己中となるだろう。とにかく怒りっぽい上に論理的な話が殆ど通じず、言葉の暴力で相手をねじ伏せることしか頭にない。客観的な事実や相互の理解ではなく、自身の主観こそが何よりも正しいと思っている。そのくせ警察等の公権力や客観的な事実には勝ち目がないとわかっているらしく、それらを避け続けている。
彼女が爆発するのは特に家の中だった。私の祖父母を持ち前の言葉の暴力によって完全に支配し、実質的に家庭内ヒエラルキーのトップであったのだ。手を出せば噛まれると知って、不用意なことをしなかったので彼女はずっとその地位にいた。
彼女の夫であり30年近く連れ添った理解者であり家族であり、つまり私の父親は「彼女は出会った当初から(精神年齢が)幼い様子だった」と語ってくれた。つまり結婚する前から彼女にはその性質があった可能性があるのだ。半世紀も前にこんな怪物が街なかで今よりも元気に活動していたと思うと悲しくなる。
彼女の弁護をすると、彼女は嫁ぎ先である我が実家の借金返済のために多額の財産を手放したと聞く。それは父親も認めており、幼かった私自身もそのゴタゴタに巻き込まれたものだ。だから彼女が嫁ぎ先とその人間をよく思っていないのは物心ついた時からわかっていた。
なにせ、彼女は自身の旦那さえも名字で呼ぶのだから。高橋家ならば「高橋さん!」と呼ぶ。激高すると名前を忘れるらしく、息子である私さえも「高橋くん!」呼ばわりだ。
彼女にとっては、自分と家の人間は完全に区別されるものらしい。
とはいっても、母の言動は極めて異質だ。モンスタークレーマー・モンスターペアレンツの典型例を犯したこともある。機嫌が悪いという理由でレストランの店員を小一時間も怒鳴ったのは今でもおぞましい記憶として残る。
つい先日も野良猫の餌に関して母はトラブルの渦中にあった。野良猫に餌を与えている女性を母が注意(※本人談)したのだが、母は猫のエサ以上に自身を侮辱した相手女性の言動の方が気に食わないらしい。私が相手を泳がせて情報を聞き出そうとしても、その様子を自身への裏切り行為と捉えたらしく激高していた。自分が気に入らないことはなんでも食って掛かる。どんなにコンセンサスを取ろうとしても自分の主観を曲げることは決してない。わがままも1時間となえれば通じるとおもっているようだ。
彼女は強い。自身の主観で捉えたことを徹底的に相手に押し付け喚き散らすこと。これが彼女の唯一の武器であり、誰も崩せない鉄壁の防御だ。論理的な攻撃もなにもかも捻じ曲げる。自身が不利になれば悲劇のヒロインを演じて相手を別の角度から侮辱する。誰も攻略できない。
だが、問題は私の方にある。
そんな母なので心療内科に通わせることは不可能だ。明日天皇制が王政になったほうがまだ現実的だと思えるくらいに。だからそんな母に対しては、周りの方が適切な距離感を持って接する必要がある。相手が変わらないならばこちらがどうにかするしかない。相手の安い挑発に乗って口喧嘩に発展してしまうことが最も危険な行為なのだ。
それが自分にはできていなかった。血脈なのか私も母のような性質を受け継いでいるのか、冷静で理知的なことができない場面が多い。
どうしたらいいのか。
朝、目が覚めると自分の姿を目の前にして天に昇っていたらいいのにと思っている。
70の母がいるオッサンがこんなところで長文垂れ流して恥ずかしいとは思わないのか
他人への無思慮な侮蔑は村人の挨拶だったね。忘れていたよ。
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